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見積業務の効率化がもたらすメリットとは? 実現に向けてやるべきこと
この記事では、見積業務の効率化がなぜ今、求められているのかを解き明かし、非効率な見積業務が企業経営にもたらすリスクについて解説します。
営業活動において見積業務は、顧客へのアプローチの初期段階で発生することも多い工程です。提示する金額や条件がその後の受注に直結する重要な業務ながら、「時間がかかる」「属人化しやすい」といった課題を抱えている企業も少なくありません。
本記事では、見積業務の効率化がなぜ今、求められているのかを解き明かし、非効率な見積業務が企業経営にもたらすリスクについて解説します。さらに見積業務を効率化することで得られる具体的なメリットや、理想的な見積体制の実現に向けたアプローチについてもご紹介します。
目次
1.見積業務の効率化の必要性とは?
製品やサービスの価格、納期、取引条件などを顧客に提示する見積業務は、企業の売上を左右する重要なプロセスです。見積業務が非効率である場合、顧客への対応スピードや顧客満足度の低下を招く可能性があります。最初に非効率な見積業務プロセスにありがちな問題点を三つ解説します。
属人化しやすいため
見積業務は、営業担当者各人の経験、知識、そして顧客との関係性に基づく判断に依存する部分が大きいため、属人化しやすい業務といえます。
ある顧客について、特定の担当者しか見積を作成できないといった状態のままでいると、その担当者が病気や休暇、退職などで不在になった場合、見積作成業務が滞ってしまうことも珍しくありません。他のメンバーが代行しようとしても過去の対応履歴や取引条件、金額の根拠などが分からず、きちんとした見積書を作成できないといった事態に陥ります。
スピード感や過去条件との齟齬(そご)が顧客の不満につながるため
過去の見積書を素早く参照できるような仕組みになっていない場合、見積作成に時間がかかったり、過去の金額や条件とは異なる見積書を出してしまったりするリスクが高まります。
今日、顧客はあらゆるプロセスにおいて迅速な対応を求めています。見積依頼に対しても同様で、対応の遅さは顧客からの評価を低下させる大きな要因となります。さらに過去の条件や金額を踏まえない見積を出してしまった場合には、顧客からの信頼を損ない、関係性の悪化や取引の中止につながる可能性もあります。
整合性を取ろうとすると時間がかかるため
適切な見積を作成するには、
- 過去に同じような取引はなかったか、その際の条件はどのようなものだったか
- 提示しようとしている金額は、社内の利益率基準やルールに照らして妥当か
- 複数部門に関わる内容の場合、関連部署の承認は必要か
など、さまざまな側面から整合性の確認が不可欠です。
しかし、これらの確認作業をアナログな方法で行っていると多大な時間がかかります。過去の見積データを手作業で探し回ったり、上長や製造、開発、仕入れなどの関連部門に逐一確認を取ったりするのは非効率的です。特に、多くの案件を同時並行で進めている営業担当者にとって、この確認作業に時間を取られることは大きな負担となります。
2.見積業務に潜む経営リスク
見積業務の非効率さは、単に担当者の負担が増えるだけでなく、企業経営全体にさまざまなリスクをもたらす可能性があります。ここでは、見積業務に潜む主なリスクについて見ていきます。
時間をかけても原価圧迫の要因になるだけ
見積作成における過去データの確認や社内調整、手作業での入力といった時間は、直接的な売上にはつながりませんが、人件費というコストが発生しています。見積業務の工程が非効率な場合、その人件費がかさみ、間接的に商品の原価を圧迫する要因となってしまいます。
また、見積作成における手間が特定の担当者に集中してしまっていたり、非効率なフローのままでいたりすると、担当者が、本来行うべき主業務に労力を割けなくなり、組織全体の生産性を低下させてしまう可能性もあります。
顧客との認識齟齬がトラブルや信用失墜を招く
見積業務が属人的で標準化されていない状態にあると、顧客との間でさまざまな認識齟齬が生じやすくなります。
例えば、
- 前回の取引ではこの金額だったのに違う
- 納期・納品の前提が共有されていない
- 見積に含まれるサービス範囲が想定と異なった
といったケースです。こうした齟齬は、顧客からの不信感を招き、企業間取引においては信用問題につながります。
また、担当者が個々の判断で見積書を作成するのが常態化していると、上長や他の関連部署との間で情報共有や意思統一がなされないまま、顧客との間で交渉が進んでしまうことがあります。その結果、いざ契約締結という段階になって、社内で「その条件では対応できない」「想定していた利益率が確保できない」といった混乱が起きてしまいます。その結果、社内外での再調整が必要となり、多くのトラブルやコストが発生する要因になります。
3.見積業務の効率化がもたらすメリット
ここまで見積業務の非効率さに潜む、さまざまなリスクについて解説してきました。では、見積業務を効率化することによって、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。
組織内の見積業務の透明化と属人化の解消
見積業務を効率化する過程で、業務プロセスが標準化され、見積データや関連情報が一元管理されるようになります。これにより、「誰が」「いつ」「どのような条件で」「いくらの」見積を作成し、それが「どのような根拠に基づいているのか」といった情報が組織内で共有され、「見える化」が実現します。
さらに、見積データやノウハウが特定の担当者だけでなく、組織全体で共有・蓄積されることで、業務の属人化が解消されます。担当者が不在の場合でも、他のメンバーが過去の見積データを参照したり、標準化されたプロセスに沿って見積を作成したりできるようになります。これにより、業務の再現性や継続性が担保され、担当者の異動や退職といった変化にも強い組織体制を構築できます。
見積業務の精度の向上
見積業務の効率化は、見積精度の向上にも大きく貢献します。属人的な判断や手計算に頼るプロセスを減らし、システムによる自動計算や過去の実績データ、あらかじめ設定された利益率ルールに基づいたシミュレーションなどを活用することで、客観的かつ整合性のある見積作成が可能になります。
また、過去の取引条件や価格の履歴がシステム上に残るため、「前回と同じ条件で見積を」といった要望にもスピーディーかつ正確に対応できます。これにより、それまでの経緯とも矛盾しない、信頼性の高い提案ができるようになり、顧客との認識齟齬によるトラブルを防ぐことができます。
担当者のリソースコストの削減
非効率な見積業務では、見積作成時に毎回条件を一から調べ直したり、社内ルールや過去データを参照する時間を要したり、上司への確認に手間取ったりと、「付加価値を生まない間接的な作業」に多くの時間が割かれていることが少なくありません。
見積業務を効率化することで、こうした定型的・反復的な作業にかかる時間を大幅に削減できます。システムによる自動入力やデータ連携、承認ワークフローの導入などにより、担当者は見積作成にかかる時間と手間を減らし、本来のコア業務である顧客との関係構築、課題のヒアリング、最適な提案活動、そして新規顧客開拓といった売上に直結する活動により多くの時間を投下できるようになります。これは、営業担当者の生産性向上だけでなく、企業全体の売上拡大にもつながる重要なメリットです。
4.理想の見積体制と実現に向けたアプローチ
前述のメリットを享受するために必要な「理想の見積体制」とはどのような状態なのか、さらに、その体制構築に向けて何に取り組むべきなのか解説します。
「理想の見積体制」とは?
過去の見積データに誰でも適宜アクセスできる
見積業務において、過去にどのような条件で、いくらで提示したかといった履歴を参照できることは、再現性や整合性を担保するうえで重要です。特定の担当者しかアクセスできない、あるいは紙で保管されているといった状態ではなく、上長を含めた関係者全員が、必要な時にいつでも過去の見積データに容易にアクセスできる環境が、理想の体制構築といえます。これにより、根拠あるスピーディーな見積作成が可能になります。
誰が担当しても整合性のある見積が作れる
理想の状態とは、個々の営業担当者の経験やスキル・判断に依存せず、どの担当者が見積を作成しても、会社の定めるルールや基準に沿った「内容にブレがない」見積を提示できることです。これにより、顧客は誰が担当でも一貫性のある対応を受けられるという安心感を得られ、企業全体の信用向上にもつながります。属人化を排除し、標準化されたプロセスで見積作成ができる状態が理想です。
理想の見積体制の実現のためにできること
システム導入による見積データの一元管理化
表計算ソフトや個人のPC内、紙媒体など、バラバラに管理されている見積データを専用のシステムで一元管理することが効率化には欠かせません。システム上でデータを管理することで、過去の見積情報を即座に検索・参照・再利用できるようになります。これにより、過去データの検索に時間を要するといった無駄が削減され、業務スピードが大幅に向上します。
また、データが一元管理されることで、特定の担当者しか情報を持っていないという属人性が排除され、業務の透明化も実現できます。システムによっては申請のワークフローを組み込むことができるため、上長や各関係者への確認・承認プロセスもスムーズに進められるようになります。
業務プロセスの明文化・標準化
たとえシステムを導入しても、見積作成に関する業務ルールや判断基準が担当者ごとにバラバラであれば真の効率化は実現しません。見積書に含むべき情報や価格設定の考え方、承認のフローなど、業務プロセスを明確に定義し、ルール化することで、全社的に標準化していくことが大切です。
標準化された業務プロセスは、システムを効果的に活用する基盤となります。これにより経験の浅い新人でも、定めた手順に沿って一定の水準の見積作成ができるようになり、業務の再現性・継続性が高まります。まず、業務プロセスの見直しと標準化を行ってから、システムを導入するのが、投資効果を得るポイントになります。
まとめ
本記事では、企業の営業活動の要である見積業務の効率化について解説しました。見積業務は、その特性上、担当者ごとの経験やノウハウに依存し属人化しやすい傾向にあります。属人化は業務停滞や見積の品質にバラつきを生じさせるなど、顧客からの信頼を損ねる原因となります。また、手作業による整合性の確認は、多大な時間とコストを要し、組織全体の生産性低下につながります。
こうした課題を解消していくためには、システムなどのITツールを使って、見積データを一元管理し、見積作成に関する業務プロセスを標準化すること大切です。過去の見積データに誰もがアクセスでき、誰が担当しても整合性のある見積が作成できるようになれば、顧客応対の品質向上、取引先との信頼関係強化、そして企業の売上拡大と持続的な成長につながります。ぜひこの機会に、貴社の見積業務について見直しを検討されてみてはいかがでしょうか。