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【コラム】[経営者必見]資金調達のイロハから調達目的に応じた資金調達を解説!
[2025年 5月 28日公開]
はじめに
事業を始めるにしても、拡大させるにしても必ず付きまとうのが“資金”の問題です。経営者の目的は「現金を手元に確保したい」という極めてシンプルなものであるにも関わらず、数多くの資金調達手法があるのはなぜでしょうか。理由は、資金調達手法それぞれに一長一短があり、使うケースやシチュエーションにより適切な資金調達手法が異なるからです。手法の選択を誤ると余計な費用や時間がかかってしまうのです。
当コラムでは、資金調達の各手法のメリット・デメリットを整理し、ケースに応じた適切な資金調達手法を選択するために必要な知識をお伝えしていきます。
1.資金調達には大きく六つの手法がある
資金調達手法は以下の六つに分けられます。より細かく見ていくと他にもいろいろありますが、大きくはこの六つに集約できると考えられます。
- 他人から借りる
- 自社資産などを売却して現金化する
- 出資を募る
- 取引の中からお金を生み出す
- 公的資金
- その他
それぞれについて主な手法と特徴をまとめたのが以下の表です。
(1)他人から借りる
主な手法 | 特徴 |
---|---|
銀行融資 | オーソドックスな資金調達手法です。金利が低く、多額を借り入れることができます。一方、審査が厳しく、何らかの担保が必要となったり、審査などで時間がかかったりするケースがあります。担保を信用保証協会が担うかどうかで二つに分かれます。
|
ビジネスローン | 銀行系、ノンバンク系金融機関による事業資金に特化した資金調達手法です。審査が早く、無担保、無保証人でも融資が可能です(例外あり)。総量規制(貸出は年収の3分の1以内に抑えるという規制)の対象外です。大きく銀行系、ノンバンク系があり、銀行系は金利が低めですが枠が小さく、ノンバンク系は即日融資など実行まで早いといった特徴があります(ノンバンクとは貯金ができない金融機関のこと)。 |
社債発行 | 投資家から出資ではなく資金を借り入れる資金調達手法です。銀行融資と異なり、月々の返済がなく、返済条件を決めることができるなどのメリットがあります。発行数などの制限がありますが、発行手続きが簡易な少人数私募債などもあります。 |
(2)自社資産などを売却して現金化する
主な手法 | 特徴 |
---|---|
ファクタリング | 売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい現金化する手法です。即日現金化も可能な場合がありますが、その分、金利は高いです。ファクタリング会社と2社間で契約することもでき、その場合には取引先に売却の事実を知られることはありません(ただし、債権譲渡登記を求める業者もおり、その場合は法務局で譲渡の事実を確認することができます)。 |
固定資産の売却 | 遊休固定資産などを売却して現金化する手法です。買取先を探す必要があることや、大きい資産になると現金化まで時間がかかることが注意点としてあげられます。 |
(3)出資を募る
主な手法 | 特徴 |
---|---|
増資 | 新株の発行などで資金調達する手法です。返済義務のない資金であることに加え、自己資本の充実により企業の安全性も向上します。ただし、経営に口を出される、買収されるなどのリスクもあります。 引受先には、銀行や知人、またスタートアップの企業ではベンチャーキャピタルなどがあります。 |
(4)取引の中からお金を生み出す
主な手法 | 特徴 |
---|---|
取引条件の見直し | 仕入債務と売上債権の現金化サイクルを調整して手元に現金を残す手法です。金利などはありませんが、一時的な資金調整であることや取引先との交渉が必要となる点は注意しなければいけません。 |
ビジネスクレジットカード | 法人版のクレジットカードです。よって決済枠も数百万円から数千万円までと大きいのが特徴です。例えば今日購入して、決済は翌月末となるなど、購入タイミングと実決済のタイミングのずれを利用して現金を手元に残すことができます。ただし、一時的な資金調達であることと、年会費が発生するといったデメリットもあります。 |
(5)公的資金
主な手法 | 特徴 |
---|---|
補助金 | ものづくり補助金などが該当します。返済義務がなく、事業計画がしっかりしていれば受けることができますが、タイミングが決まっていることや使途が限定される点は注意が必要です。また審査に通る必要があることや、使ったお金を補助してもらうため、支出先行となるといった使いにくさがあります。 |
助成金 | 雇用調整助成金などが該当します。返済義務がなく、主に雇用に関するものが多いのが特徴です。一定の基準を満たせば必ず支給されますが、支給まで時間がかかるケースが多いです。 |
(6)その他
主な手法 | 特徴 |
---|---|
クラウドファンディング | 商品などプロジェクト単位で一般の人からの出資も含めてお金を調達するしくみです。最近では学生が何かを始める際にインターネットなどで資金を募るなど手軽さが受けています。寄付というよりはその商品の売買に近い購買型や、被災地支援などのように商品を求めない寄付型があります。返済義務はありませんが、商品を提供したり、企業情報や商品情報を先に公開したりする必要があります。 |
このように単に資金調達といってもさまざまな手法があり、それぞれの手法ごとに資金を供給する主体も異なれば、資金供給までのスピード感や金額規模、条件も異なります。
2.どんな時に資金需要が発生するか?
では、どういった場合に資金需要が発生するのでしょうか。商品が売れずに仕入が先行し、資金が減少するケースもあれば、新規に事業を立ち上げるなど、特殊な資金需要が発生するケースもあります。また急きょ売上が増加して、仕入のために資金需要が発生するケースもあります。これらを整理すると、下表のように大きく三つの資金需要があることが分かります。
資金需要は
- 緊急性(すぐに資金が必要かどうか)
- 調達したい金額の大きさ
の二つで整理することができます。
資金需要 | 緊急性 | 金額 |
---|---|---|
運転資金:営業活動に伴う資金。仕入や給与支払いなど | 高 | 小~中 |
設備資金:設備投資に伴う資金 | 低 | 中~大 |
その他資金:季節性のある商品などで発生する仕入資金、賞与支払いに伴う資金など | 中 | 中 |
運転資金は仕入を行ったり、毎月の給与を支払ったり、消耗品を購入したりといった日々の業務を続けていくために生じる資金需要です。都度資金が必要であるため、緊急性が高く、金額は設備資金などと比べて少ないのが特徴です。設備資金は設備の更新、修繕などに必要な資金です。それほど頻繁ではないため、想定外でなければ計画的に生じる資金需要となります。ただ、設備によっては多額の資金が必要なケースもあるため、金額は大きい資金需要といえます。
その他の資金は、例えば賞与の支払いなど特定の月に一気に資金が必要な場合や、季節性のある商品の仕入資金などの一時的に必要な資金です。
このように、同じ資金需要といっても緊急性や調達したい金額の大小が異なります。一方で資金供給側を見ると、需要側がすぐに調達できる資金は相対的にコスト(金利など)が高い場合が多くなる傾向があります。急ぎでない資金需要に対してすぐに借りることができる資金を充ててしまうと金利負担が大きくなってしまいます。よって、資金需要の緊急性や金額規模に応じた調達手法を選び、調達容易性、金利やリスクのできるだけ低い資金調達を行うのが鉄則となります。
3.各資金調達手法の特徴
各資金調達手法を
- 資金調達までの期間(資金調達スピード)
- 調達できる金額規模、メリット、デメリット
でまとめたものが以下です。
銀行融資
緊急性
審査に時間がかかり(2週間~1か月)、入金まで2~3か月かかるケースがある金額規模
案件に応じて金額の相談可能メリット
利用限度額が大きく、金利も低い(0.3%~3%など)/他社の紹介や銀行のサポートも受けることができるデメリット
時間がかかる/担保等が必要備考
都市銀行、地方銀行、信金で金利や借入しやすさが異なるため、中小企業は地銀や信金の方が無難
ビジネスローン
緊急性
即日~2週間程度で借入可金額規模
数十万円~数千万円メリット
即日融資が可能なケース有/無担保でも可能な会社もあるデメリット
利用限度額は1億円未満で金利が高い(1%~15%など)
社債発行
緊急性
期日の設定が可能だが、法的な手続きが必要であるため、一定期間が必要金額規模
条件の設定が可能だが、少人数私募債など使いやすいものは1億円未満など限度ありメリット
比較的条件を自由に設定して借入が可能。また返済まで金利等変動がない/貸主による経営への干渉がなく、保証人、担保も不要デメリット
発行時に手数料が必要/償還時に一気に返済が必要備考
中小企業では1億円未満で50人未満といった制限があるが、発行先を限定した少人数私募債が使いやすい
ファクタリング
緊急性
ファクタリング会社によっては当日調達可金額規模
売掛金の範囲内メリット
売掛金の回収リスクがなくなる/返済義務がないデメリット
金額が限定される/割引率が高めに設定される/違法業者などもおり、注意が必要
固定資産の売却
緊急性
買い取り先があれば比較的迅速に調達が可能金額規模
固定資産によって変わるメリット
遊休資産などあれば現金化することで効果的デメリット
無理に必要な資産を販売すると事業運営に支障をきたす場合も
増資(第三者割当増資)
緊急性
時間がかかる(変更登記が必要であったり、既存株主との調整が必要)金額規模
既存の資本額によって上限規制等があるメリット
返済義務がない/資本が大きくなり、対外的に信用アップにつながる場合もデメリット
手続きが煩雑で時間がかかる
取引条件の見直し
緊急性
取引先との調整が必要であり、緊急対応ができない場合がある金額規模
売上債権、仕入債権の範囲内メリット
取引先の理解を得ることができれば費用はかからないデメリット
資金不足に陥っているなど取引先に懸念を与える恐れ
ビジネスクレジットカード
緊急性
数日でカード発行が可能金額規模
500万円程度の限度額設定ありメリット
ポイントが付くなど別途のメリットあり/支出履歴等はカード会社が行ってくれ、管理しやすいデメリット
年会費が必要(1万円/月程度)
補助金・助成金
緊急性
募集期間が決まっており、緊急対応が困難金額規模
募集案件に応じて設定されるメリット
返済義務がないデメリット
手続きが煩雑で、採用されなければ資金を受け取ることができない/使途が限定される
クラウドファンディング
緊急性
応募などのステップを経るため時間がかかる金額規模
案件に応じて金額の設定可能メリット
返済義務がない/商品のプロジェクトなどでは消費者のマーケティングテストにもなるデメリット
情報を先に公開する必要があり、模倣などが起こりうる/スタートすると取りやめることができない
各資金調達手法の特徴について、一覧化した表でもご用意しています。
各資金調達手法の特徴(PDF・807KB)
4.結局どの資金調達方法がいいの?
これまで見てきたように資金調達にはさまざまな手法があり、それぞれメリットもあればデメリットもあります。資金需要と調達手法の関係を、資金調達スピード(すぐに調達できるか)、金額規模との関係で整理すると下図のようになります。
パターン1
- * 補助金・助成金、固定資産売却は案件などで異なるため除外してあります。
上図のように2軸で整理すると、重複する手法があります。例えば「ファクタリング」と「取引条件見直し」「ビジネスクレジットカード」などはカバー範囲が重複しており、それぞれ似通った資金調達のスピード、金額規模の大きさの資金需要に対応することができます。こういった場合、資金調達のスピード、金額規模に加え、その他のメリット、デメリットを踏まえて自社が調達できる手法で最大限メリットの大きいものを選ぶ必要があります。
例えば、取引先との関係も良好で、条件見直し交渉が可能なのにもかかわらず、ファクタリングで調達すると、金利が発生してしまいます。また資金需要と異なる範囲をカバーしている資金調達手法を使った場合、資金調達のスピードや金額規模で資金需要を満たすことができません。詳細は「3.各資金調達手法の特徴」をご参照ください。
資金調達手法ごとで特徴はありますが、総じて銀行融資はカバー範囲が広く、銀行からの支援も期待できるため、きっちりと関係づくりをしておきたいパートナーといえるでしょう。
パターン2
上表では、基本的に資金調達スピード、金額規模、コストともに右に寄るほどポジティブな調達手法であることを表しています。なお、薄青の網掛けは案件などによって異なるため、目安として掲載しています。平均値など一般的な数値を表にまとめていますが、実際はメリット・デメリットを押さえたうえでの判断が必要になります。詳細は「3.各資金調達手法の特徴」をご参照ください。
資金調達手法の資金調達スピード・金額大小と、資金需要の資金必要性の緊急度・金額大小を見ると、それぞれ特徴はさまざまであることが分かります。また、資金調達に関係するコストもさまざまであり、資金調達手法を選択する際の大きな判断要素となります。特にコストが低い手法はデメリットなどが自社にとって重要でないのであれば、優先的に検討したい資金調達手法です。このように資金調達手法ごとで特徴はありますが、総じて銀行融資はカバー範囲が広く、銀行からの支援も期待できるため、きっちりと関係づくりをしておきたいパートナーといえるでしょう。
最後に
これまで資金需要と資金調達手法の関係という視点で資金調達について見てきました。ただ単にお金を調達するという視点だけでなく、その必要な資金がどういった需要に基づくものかを分析し、適切な資金調達手法を選択することが重要になります。特に調達に際しての資金調達のスピード、必要な金額規模を押さえる必要があります。
資金は企業運営の血液といわれるほど重要なものです。資金に不具合が生じた際には必ずどこかにアラートがなっているケースがほとんどです。資金需要が発生した場合に慌てて調達手法を考えていても、有利な資金調達手法を利用できないことも多いのです。普段から資金繰りをきっちりと管理し、どういったところで資金需要が発生しそうか、どれぐらいの規模の資金が必要かを押さえておくことで、自社にとって最適かつ有利な資金調達方法を選択することができます。
私が事業会社で企画部門の担当をしていた時に、経理に“鉄壁さん”と呼ばれる管理者がいました。鉄壁さんにはいつも、「何か予算執行するものはないか」「大きな支出になるあの案件はいつキャッシュアウトするのか」など、しつこくフォローされていました。特に賞与月など資金が必要な月は日々フォローされていたと記憶しています。しかし、そのおかげで一時的に大きく減収した月も委託元から契約を見直され、大きく委託費を下げた年も資金のことを考えることなく事業運営できていました。今思うと、鉄壁さんは「準備」をいつもしていたのだと思います。資金の重要性を知った今、鉄壁さんがいなかったらと思うとぞっとします。
「備えあれば憂いなし」はまさに資金に当てはまるといえます。その「備え」には資金自体もそうですが、資金の“調達手段”を備えておくということも含まれます。このコラムをお読みいただき、資金について、“何”をどのように“備える”のかを考える一助になれば幸いです。
著者紹介
粟生 将之 氏 プロフィール
中小企業診断士・2級ファイナンシャルプランニング技能士
粟生 将之(あわい まさゆき)
事業企画や事業会社での人事経験を基に、財務管理(資金調達、成長投資戦略など)や人事戦略(採用、人事制度構築など)などの分野で中小企業診断士としてコンサルティング、執筆活動を行っている。
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