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【コラム】中小企業こそ広報力が武器になる
[2025年 5月 28日公開]
はじめに
「うちの会社に広報なんて必要ない」―そう考える中小企業の経営者の方が多くいます。しかし、この考え方は、実は大きな機会損失を生んでいます。地元紙に掲載されたたった1本の記事で、問い合わせが爆発的に増加し、広告費0円で新規取引獲得や売上を大幅に増やした企業が存在します。
広報(対外的なPR活動)とは大企業だけのものではなく、むしろ企業規模が小さいからこそ効果を発揮する「戦略的投資」です。人的リソース・予算が限られる中小企業こそ、広報を武器にして成長を果たせる大きな可能性を秘めています。本記事では、中小企業経営者が持つべき広報に対する考え方から、具体的に何から取り組めばよいのかまで、分かりやすくお伝えします。
1.なぜ中小企業こそ「攻めの広報」が必要なのか?
中小企業の多くが広報を武器にできていないことから明らかなように、何もしなければ何も生まれないのが広報の世界です。だからこそ、広報の意味を理解し、自ら仕掛ける「攻めの広報」姿勢を持つことが、経営の大きな武器になる可能性があります。
中小企業が広報に注力すべき理由は主に以下3点があげられます。
(1)低コストで仕掛けられる
まず、「広告」と「広報」の違いを理解しておく必要があります。最も大きな違いはコストです。「広告」とは広告媒体の広告枠を買うことです。広告媒体にはテレビCMや新聞広告、SNS広告などさまざまな種類がありますが、いずれも「広告掲載料金」というコストが発生します。当然、テレビCMなど広告効果が高い媒体ほど費用が高くなります。目に見える効果が出るか分からないことに費用を捻出するのはハードルが高いと考える中小企業経営者は多いため、自社には関係のないものと考えてしまっているケースが多いのが実情です。
一方、「広報」とは、認知・ブランド拡大のためにメディア(媒体)を活用することです。メディアに取材されて、記事として掲載された場合でも基本的にコストは発生しません。大きなコストをかけられない中小企業だからこそ、広報が大きな武器になります。
ただし、「広告」と「広報」にはそれぞれメリット・デメリットがありますので、以下の比較表を参考にしてください。
「広告」と「広報」のメリット・デメリット(一例)
テキスト | 広告 | 広報 |
---|---|---|
発信主体 | 企業 | メディア |
費用 | 高い(広告枠の購入) | 低い(内製化すれば発生しない) |
内容の事前確認 | 可 | 不可 |
内容のコントロール | 可 | 不可 |
信頼度 | 高い | 低い |
(2)信頼度が向上する
広報の一例として、メディア(媒体)に記事という形で報道してもらうという手法があります。具体的な例としては、新聞記事やネットニュースなどで取り上げてもらうという手法です。記事は、さまざまな調査において広告よりも消費者の信頼度が高いと評価されています。これは、メディアという第三者の視点で客観的に情報が伝えられるためです。言い換えれば、広告は自分で自分のことをアピールする自己PR、記事は第三者が自分のことを評価してくれる口コミのようなものです。
例えば、ポジティブな記事として取り上げられた結果、取引先からの評価が向上し、取引拡大につながった事例や、金融機関からの信用力が高まり、融資に好影響を与えたという事例もあります。
中小企業でメディア掲載実績を自社のホームページに載せている企業があるのには、このような背景があります。
(3)社員のエンゲージメント向上
外部へのポジティブな情報発信は、実は社内にも好影響を及ぼします。自社のことがメディアで取り上げられることで、社員は自社に「誇り」を感じます。家族や友人から「○○のニュースに出ていたね! すごいね!」と言われて、うれしくない人はいないはずです。自社の成果がメディアを通じて評価されることで、社員が自分の仕事に誇りを持ち、その結果、やる気がアップし生産性が向上するという効果があります。社員が自社の良さや強みを再認識する機会としても有効といえます。
人手不足で悩む企業が多い中で、自社のエンゲージメントを高め、離職率を下げ、生産性を高めることができる、つまり企業としての競争力を高める手段になり得ることが三つ目の理由です。
以上のように、低コストで信頼度の高い情報発信ができ、その結果、社内外に好影響を及ぼし、企業としての競争力・成長力を高めることができる。これが中小企業こそが広報を活用すべき大きな理由なのです。
2.広報がもたらす三つの経営効果
次に広報が経営に対して、具体的にどのような効果をもたらすのかを解説します。
(1)採用活動の活性化
自社の記事がメディアに掲載されることで採用にも大きな影響があります。誰でも簡単にネットやSNSで企業の評判を確認できる時代において、信頼度の高いメディアに掲載された記事を通じて、企業の知名度や評判が向上し、結果として採用活動も活発になります。
具体的な例として、ある企業では広報活動を通じて求人広告費を削減することに成功しました。これは、第三者の視点の記事で企業の魅力が伝わり、求職者が自発的に応募するようになったからです。
中小企業の社長が自ら会社のビジョンや社員に対する考えをインタビュー記事などで発信することも効果的です。応募者数の増加や採用サイトへのアクセス増加につながることが期待されます。
このように人材確保の観点からも、広報の効果を理解いただけるのではないかと思います。
(2)新しい見込み客の獲得、営業成約率の向上
2点目はまさに、営業活動そのものを後押しする効果です。消費者が記事に触れることで認知され、興味を持ってもらえればネットやSNSで検索するという行動につながります。テレビに取り上げられたことで、問い合わせが増え、一気に品薄になったという話は皆さんもよく耳にしているのではないかと思います。TBSの人気番組「マツコの知らない世界」はその典型例です。
また、メディアに取り上げてもらえることで信頼度が増すため、メディア掲載実績を話題にして営業成約率の向上に利用する企業もあります。スーパーなどで「TVで紹介されました!」というPOPを見かけるのも同じ狙いです。
そして、その記事は時間が経過しても価値を持ち続けます。これはインターネット上で情報が長期間にわたりアクセス可能であり、検索エンジンを通じて新しい顧客を引き付けることができるためです。過去に掲載された記事が数年後も集客に役立つという意味で、まさに企業にとっては大きな「無形資産」となります。
(3)顧客の声を商品改善に活用可能
メディアで紹介されると、その記事についてネットニュースのコメント欄やSNSで、消費者の声を確認することができます。世の中からどのように受け止められているのかをチェックできるというのは企業にとっては大きなメリットとなります。その中に「もっとこういう機能があったらいいのに」「○○の部分の操作性が悪い」などといった、消費者から見た本音、要望が投稿されていることが多くあります。
大企業では、SNSやネットの声を定量・定性分析して商品改善につなげているケースはありますが、中小企業ではまだそれほど多くないため、効果的に活用していく余地は大きいでしょう。
これらの効果から、広報が企業の戦略において重要な役割を果たすことをご理解いただけるのではないかと思います。
3.3カ月で成果が出る広報戦略
ここからは、具体的に何をすればいいの? という疑問にお答えしていきます。最初の3カ月で以下の四つの取り組みについて、具体的に行動を起こすことをおすすめします。
(1)自社の「ニュース価値」を発掘する
まずは、メディアがニュースに価値を感じるポイントを理解しておく必要あります。それは主に以下の3点です。メディア側は、基本的にこの観点からニュース価値を判断しています。
ニュース価値の3要素
- 社会的影響
- 影響を受ける人の多さ、影響範囲の広さ、影響期間の長さ など
- 新奇性
- 新しさ、珍しさ、面白さ など
- 読者の関心
- 流行、便利さ、安さ、感情に訴えるストーリー性、映像 など
自社の取り組みの中で社外に発信できる情報は、経営者が思う以上にたくさんあります。3要素を押さえたうえで、経営陣と社員でフラットに自社のニュース価値を掘り起こすブレストをやってみるのも効果的です。自社の良さをあらためて認識する良い機会にもなります。最初の段階では焦らず、1カ月程度の時間をかけて、しっかりと自社の価値を言語化してください。
一例ですが、熱中症対策の商材を扱っている企業では、これまでその商品に対するお客様の評価は高かったものの、認知度が上がらず、なかなか売上が伸びていない状況でした。そこで、その商品がこれまで評価されてきたポイントと今年の改良ポイント(新奇性)を整理し、利用者の声などを踏まえて利便性(読者の関心)を訴求することとし、夏に向けて気温が上昇してくるタイミング(=社会的影響が大きくなるタイミング)で情報発信することを決めました。結果的に、熱中症対策となるグッズを紹介するニュースの中で取り上げてもらうことができ、売上増加につながったという経験があります。
自社で難しいと判断した場合は、一定費用が発生しますが、PR会社など外部の専門家を活用して掘り起こすという方法もあります。
以下に、参考としてニュースを発掘する際の具体的な切り口をご紹介します。
主な切り口(例)
- 他社にない技術(特許・独自製法)
- ユニークな人材(職人・異業種経験者)
- 社会課題解決事例(食品ロス削減、地域課題解決)
- 数字で示せる実績(○○%効率化、売上○○%増)
- 法改正に合わせた取り組み
- 時流に合わせた取り組み(訪日外国人向け)
- 新商品開発(商品自体の新奇性、開発のエピソード)
- 働き方・人事制度見直し(○○手当の新設)
- 他企業との連携・共創(地域の企業で連携した新たな取り組み)
- 社会貢献活動(ボランティア)
(2)アプローチするメディアを選定する
自社のニュース価値を発掘したら、どのメディアに取り上げてもらいたいかを考えます。その際に、やみくもにアプローチしても効率が悪いため、「誰に、どのニュースを、どのようなストーリーで伝えたいのか」を明確にしておきます。それにより、ターゲットとすべきメディアがおのずと決まってきます。
メディア別の特徴は以下表のとおりです。例えば、地元の企業や住民に知らせたいニュースであれば地方紙に、BtoBの企業でその業界に広く知らせたいニュースであれば業界紙・業界専門誌に、といった具合に使い分けます。
メディアに取材してもらうための具体的なアプローチ方法は後述します。
メディア別の特徴
メディア | 特徴 |
---|---|
地方紙 | 地方では全国紙より影響力が大きい |
業界紙・業界専門誌 | 取材ハードルが低い、専門的な解説、BtoB向け |
オンラインニュース | 即時性重視、ネット上に記事が残る |
TV | インパクト重視 |
例えば、地域のベーカリー店が、地元の小麦を使った新しいパンを発売するケースで考えてみましょう。「地元の味を地元の人に届けたい」という思いで、地域の農家と連携して、小麦の特徴を生かした新商品を開発したことを、地域活性化の取り組みとして、温かみのある地域密着のストーリーとして展開したいと考えたとしましょう。このストーリーを伝えたいのは、地元のファミリー層や近隣住民となりますので、地方紙や地域情報誌、オンライン地域メディアなどがターゲットメディアとなります。
(3)プレスリリースを活用する
発掘したニュースをプレスリリースという方法で広く世の中に発信する方法があります。会社としての正式な発表文書としてホームページなどで公表するものです。しかし、このプレスリリースの書き方が上手ではなく、損をしている企業が多いというのが実情です。メディアに刺さるプレスリリースの書き方、発信のタイミングなどの要所をいかに押さえるかがポイントになります。
参考にプレスリリースを書く際の鉄則を一つ紹介します。それは「社会課題との接点」を入れるという点です。例えば、飲食店が新メニューを開発した場合に、単に「新メニュー発売」と書くのではなく、その商品開発の背景を深堀して、「フードロス削減!規格外野菜を活用した新メニュー開発」といった形で、SDGsの文脈を付け加えるだけで、この商品の価値がぐっと高まります。上記で紹介したニュース価値の3要素を意識する必要があります。
メディアは企業の宣伝をするために記事を書くのではなく、社会的に報じる意味があるから書くものであるということを忘れずに、メディア側の視点にたってプレスリリースを発信することが重要になります。
(4)メディアに食い込むアプローチ方法
次に具体的にメディアにどのようにアプローチしていくのが効果的かを説明します。
最近はメディアが情報受付窓口をホームページに記載していることが多いので、そこで情報提供ができるメールアドレスを確認します。そこにメールを送る際の件名が非常に重要です。例えば、単に「△△の商品を発売しました」とだけ送っては、メディア担当者にメールを開かれることはありません。例えば、「○○業界の課題を●●で解決(取材対応可・写真提供可)」といった件名で、社会課題を解決する内容であることを伝え、興味を引きます。メールの本文では、業界が抱える共通課題を提示し、それを自社独自のアプローチで解決することを示します。そこで、客観的なデータを示すと説得力が増します。
加えて、「現場撮影可/写真提供可/関係者インタビュー対応可」といった、メディア側がほしいであろうコンテンツを提供できることを伝えると、時間がないメディアとしては、手っ取り早く取材できる先として重宝されます。私の経験では、商品やサービスの利用者を紹介できることを伝えると、取材に来ていただける確率が大幅にアップすることが多いです。
自社の一方的なPRではなく、メディア側の気持ちにたってアプローチすることもテクニックの一つとして重要です。
以上のように、最初の1カ月で自社のニュース価値を掘り起こし、2カ月目でアプローチするメディアを選定して、ニュース価値をプレスリリースに落とし込み、3カ月目で具体的にメディアにアプローチするという流れです。まずは手探りでも、具体的に動いてみることをおすすめします。
4.継続的に成果を出すために
労働力人口が減少している日本において、中小企業では採用がますます困難になっています。新たな人材獲得には時間と費用がかかり、求人サイトに登録し、1年かけて100万円以上広告に投下しても1人も採用できなかったという中小企業経営者の方からの話はよく聞きます。新たに人を採用ができないのであれば、現在の従業員に新たなスキルを身に付けてもらうことも有力な選択肢となります。例えば、総務に携わる従業員にRPA(Robotic Process Automation)を習得させて業務の自動化を推進し、より生産的な業務に取り組んでもらうことは自社内で人材不足を補う有効策です。
広報活動を一過性の取り組みにすることなく、会社としてしっかりとした武器にしていくためには、継続的に実行する体制の整備が不可欠です。以下に効果的な取り組みを紹介します。
(1)広報担当者の配置
取り組みを継続的なものにするためには、広報を成長の原動力にすることを社長がコミットすることが最初の一歩となります。社長自らが広報の重要性を社内に説明したうえで、広報担当者を配置することをおすすめします。その後は広報担当者が中心となって、社内の各部署と連携しながら、上記の取り組みを進めていきます。
全てを外部委託する企業もありますが、社内にノウハウを蓄積する意味では、長い目で見ると、担当者を配置する方が、効果が大きいと思います。
(2)外部専門家の活用
広報機能は内製化した方が良いとお伝えしましたが、要所で外部の専門家を活用するという方法があります。特に初めの立ち上げの時期に、事業戦略に連動させた広報戦略を立案し、軌道に乗るまで伴走してもらうのは効果的です。また、自社の取り組みからニュース価値を客観的目線で発掘してもらったり、ニュースリリースの書き方を学んだり、新規メディアを開拓したりする際に活用するのは、ノウハウの吸収や時間的な負荷軽減の観点から有効です。
広報専門のPR会社も多数ありますが、最近は広報の経験が豊富な方が副業で支援しているケースもあります。コストを抑えることができますので、必要なタイミングで、スポットでオファーするという選択肢もあります。
(3)効果測定のKPI設定
広報活動を継続性のあるものにするためには、目標設定と効果測定を行うことが重要です。そのために目標と効果を可視化することで、全社で広報活動の意義を認識できるようにしておきましょう。
しかし、広報の効果をどのように測定するかはどの企業も悩んでいます。事業内容にもよりますが、例えば、「取材件数→メディア露出数→問い合わせへの転換率」などをKPIとして設定し、広報活動として掲げた目標に近づいているかを測れる指標を設定することをおすすめします。
その際に広報担当者だけでなく、営業部門などと共通の目標にすることが重要です。広報は広報担当者だけの仕事ではなく、会社の成長のために全社で行う仕事であり、当事者意識を持って取り組ませる仕掛けとなります。
また、広報担当者は社長に月に1回程度、定期的に状況を報告すると同時に、計画との乖離(かいり)や新たな仕掛けなどについて情報共有しておきましょう。広報担当者はその時々の経営課題を正しく認識して活動することが、適時適切な情報発信につながります。
最後に
「たった1本の記事が会社の命運を変える」―これは決して大げさな表現ではありません。広報活動を通じて自社の価値を言語化することは、経営の根幹を見つめ直す作業そのものともいえます。そしてそれを社内外に伝えていくことで、自社の企業価値を世の中に認識してもらうことができれば、成長力を大きく高めることも夢ではありません。今の時代において、良い経営環境を作るために欠かせない手段となっています。
この記事でご紹介した手法はほんの一部です。他にもさまざまな手法があり、また業界や企業の置かれた環境によっても活動する内容は異なりますが、広報が強力な武器になることや取り組み方法のイメージをご理解いただけたのではないかと思います。
日本の中小企業の強みや良さが伝わり、さまざまな企業の成長の後押しになることを願ってやみません。ぜひ、広報を武器に次のビジネスチャンスを呼び込んでいただければと思います。
著者紹介
千田 晃平 氏 プロフィール
中小企業診断士、PRSJ認定PRプランナー
千田 晃平(ちだ こうへい)
金融機関において広報、社長秘書、営業企画、法人営業などを経験。現在は副業で、中小企業の事業戦略・計画策定、経営改善、広報・PR、危機管理などを中心に経営支援や執筆活動を行っている。
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