【コラム】身近になったAI活用

いよいよAI(人工知能)技術が、実際の現場で活用されるようになってきた。AIというと大がかりな仕組みと受け取られがちだが、実際には、個人商店での活用でその力を利用して売り上げを伸ばしているところが登場している。身近になったAI技術の活用がビジネスを下支えしている事例を紹介する。

[2020年 2月 4日公開]

この記事のポイント

・勘からデータを元にした科学的経営戦略の立案によって、売り上げが大きく変わってくる。身近なところでもAIが活躍する時代が到来している。
・AIを導入することが目標ではなく、AIをどのように活用するのかを考えることが重要だ。基本は、AIを使って何を解決するのかを明確にすることだ。

はじめに

いまさまざまなメディアでAI(人工知能)が注目されている。IT技術の進化に伴い、AIが過去のデータから自ら学習し最適解を導くなど、その機能が飛躍的に向上したためだ。AIというと、製造業を中心に業務効率化や技能継承などを進めるために活用するイメージを抱きがちだが、人の画像・音声を認識し、将来のデータを予測する機能を活かして、接客の改善やマーケティングの強化を行い、飲食や小売りの分野で売上や利益の増加につなげるソリューションも開発されている。今回はAIを使った仕組みを身近な店舗で活用している事例を紹介し、そこから学べるヒントを考えたい。

常連客を喜ばせる接客

ラーメン店の「鶏ポタ THANK大門店」(東京都港区)では、AI 搭載ロボットを使った接客を行っている。事前に顧客が専用のモバイルアプリで自分の顔写真や年齢などを登録し、食券を購入する際に、販売機のとなりに置かれた小型ロボット「Sotaくん」に顔を見せると、AIの画像認識機能により来店回数に応じたトッピングをサービスするというもの。顧客の2~3割が登録しているという。常連客への特別サービスだが、人間と違って顧客の顔を忘れないのがAIの強みであり、またロボットによる接客自体が面白いとメディアや口コミで注目され、集客効果も生まれているそうだ(注1)。

AIの活用により優良顧客への特別サービスや割引など、個別客へのきめ細かい特典付与が可能となるのがポイントである。顧客囲い込みのためにポイントカードを発行する例はよくあるが、財布などのなかに入れて持ち歩くのが面倒と感じる場合がある。しかしロボットに顔さえ見せればよいのであれば顧客にとっても便利であり、面白いアイデアといえる。また、どんな人が、どんなメニューを食べたのかをデータとして保存でき、それらを分析することで新たなメニュー開発にも役立てることができる。

勘に頼らずデータに基づく意思決定

次の事例はマーケティングへの活用だ。伊勢神宮近くで観光客向けに食堂と土産物店を営む「有限会社ゑびや」(三重県伊勢市)は創業100年近い老舗だが、人間の勘頼みではなく、AIやデータ分析に基づき店舗を経営している(注2)。活用の目的は二つある。一つは来客予測による店舗運営の効率化。過去の売上データや気象(天気予報)、曜日、近隣の宿泊客数といったさまざまなデータから翌日の来客数を予測し、食材仕入れのロス削減や人員配置の最適化を実現している。

そしてもう一つが画像認識によるマーケティング施策だ。店内外にカメラを設置し、店外のカメラで自店舗の前を通る人の数、店内の画像解析AIを利用して、入店者数、性別、年齢などのデータを観測・収集している。そしてこの観測データと店のPOSデータを突き合わせて、通行者が入店する比率、入店者の男女比率や購買率、客単価などを算出し、売上が最も増えそうな店頭ディスプレイや商品構成、食堂のメニューなどを決める。例えば、土産物店への入店者の男女比率が4:6であるのに対し、実際に商品を購入した男女の比率は2:8というデータが得られたとすると、対策として売上を増やすために、男性客がもっと買いやすい品目を増やすよう商品構成を見直すということだ。このような取り組みの結果、2012年から2017年の間で、ゑびやの従業員1人当たりの年間売上高は、396万円から1,073万円にまで増加したという(注3)。

AIをどう使うかは人が決める

AIは「識別」「予測」「実行」という3種類の機能を持つといわれている。ここで重要なのは、こうしたAIの機能をどのように組み合わせて使うかは、人が決めなければならない、ということだ。例えば車両の自動運転というサービスを実現するには、AIの「識別」機能によって得られる画像や音声情報に、位置情報・運行状況・経路分析などのデータを加えて、AIに交通量や混雑度を「予測」させ、そして車両が安全に最適経路で目的地に到達できるよう運転を「実行」させることが必要だ。

今回紹介した二つの事例に共通するのは、売上や利益を増やすために何が必要かを考え、そのなかでAIを使って解決すべきことを明確にしている点である。AIは顧客の顔や声を正確に認識し、過去のデータから最適解を出すのは得意だが、それをどう接客やマーケティングに活かすかを考えるのは人なのだ。ロボットから「いらっしゃいませ」と声をかけられるだけでは味気ないし、AIが示した商品構成をそのまま実行したら店の雰囲気やイメージが変わってしまうかもしれない。笑顔で応対するスタッフや、店作りにしっかりと思いを込める経営者がいて初めてAIが活かされる。読者の皆さんがAIへの関心を深め、お店を繁盛させるため、どのように活用できるかを考えるきっかけになれば幸いである。

【出所】

  • (注1)「繁盛ラーメン店の『AIロボット』活用術がスゴい」
    (Foodist Media:2018年6月15日)
  • (注2)「明日の来客予想はAIに聞け~創業100年の老舗店「ゑびや」のデータ活用」
    (Insight for D:2018年5月8日)
  • (注3)「伊勢の老舗食堂『ゑびや』が『EBILAB』に変化できた理由」
    (中小企業庁 第4回スマートSME研究会  配布資料:2019年6月26日)

著者紹介

大橋 功 氏 プロフィール

中小企業診断士
大橋 功(おおはし いさお)

中小企業診断士。金融機関を経て現在は通信業界の会社に勤務。米国、欧州を中心に海外業務経験が長く、事業戦略・計画策定、ファイナンス、海外進出支援などを得意とする。

診断士としては新規事業、販路開拓、知的資産経営、ビジネスモデル分析の分野を中心に経営診断や執筆活動を行っている。最近では共著者の一人として『コンセプト作りのフレームワーク』(編著 野崎晴行:中央経済社2019年9月)を執筆

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