【コラム】経営戦略は経営理念に従う

経営理念は、「企業が何のために存在するのか」という、基本的な考えを明文化したもの。長期的な成長を考えるなら、経営の基本となる理念は企業活動の基盤と考える必要があります。

[2017年 7月21日公開]

この記事のポイント

・経営理念を指針に業務上の判断を繰り返すこと。これが理念を文化・風土として組織に定着させる近道です。
・理念に沿った行動を企業が継続することで、社員の理念に対する理解と納得度が深まります。
・長期的な視点で組織を維持し、利益を獲得していくためには経営戦略を経営理念に従わせる必要があります。

経営理念はなぜ必要か

「戦略は組織に従う」という言葉があります。アメリカの経営学者であるイゴール・アンゾフの言葉で、お聞きになったことがある方も多いのではないでしょうか。

大企業のように人材が豊富であれば、戦略ごとに、それに合わせて組織を組み立てるのも可能でしょう。しかし、多くの中堅・中小企業ではそうはいきません。新たな戦略のたびに組織を再編成できるような人材を抱えてはいないのです。組織の持っている文化や風土、力量に応じた戦略しか立てようがありません。自社の状況を無視した経営戦略は机上の空論として終わってしまうケースがほとんどでしょう。つまり、「内部の経営資源こそが戦略の源泉である」ことになります。

それでは、組織の文化や風土はどこから生まれてくるのでしょうか。それは「経営理念」からだと私は思っています。経営理念とは、その企業が何のために存在するのか、基本的な考えを明文化したものです。自社の存在意義をステークホルダーに知ってもらうと共に、従業員に対しては、行動や判断の指針にしてもらいます。従業員が、経営理念を指針に業務上の判断を繰り返していけば、その理念は文化・風土として組織に定着していくはずです。戦略は組織の文化・風土に影響されます。組織の文化・風土は理念によって醸成されます。ですから、戦略は理念に従います。理念に基づかない戦略は、長期的に見れば組織に根づきはしないのです。

経営理念はなぜ社員に浸透しないのか

しかし、「うちの社員に経営理念が浸透していない」と漏らされる経営者の方はたくさんいらっしゃいます。「理念で飯が食えるか!」と考え、明文化してしていないならともかく、会社の入口やオフィス内に理念を掲げる、あるいは社員手帳に明記して配っていたとしても、浸透している手応えを感じられないとの話はよく聞きます。では、どうすれば浸透するのでしょうか。

朝礼で唱和するのはよく実施される方法です。毎日続けていれば、いつの間にか理解が深まる場合もあるでしょう。また、経営者のみならず、管理職も理念を理解・共有し、自分の部下に繰り返し伝えていくのも一つの方法です。しかしもっと有効な方法は「言行一致」、すなわち、理念に沿った行動を企業がし続けていくことです。

「三方良し」や「共存共栄」を掲げている企業が、協力会社に対して値下げ要求を繰り返して自社の利益を確保していたとします。それでは、誰もその理念を信じようとはしないでしょう。逆に、「地元密着」や「地域貢献」をうたっている企業が、地元のお祭りなどの行事に積極的に関与していたならば、従業員は「うちの会社は、本当にこうした取り組みをしていく会社なのだ」と実感できます。このような機会を多く持てば、理解は深まります。理念を体現するような全社的なアクションをやり続けることこそが、理念を共有するためには大事なのです。

差別化の源泉は理念から生まれる

中堅・中小企業の経営戦略は、「差別化」戦略が基本だといわれます。大型の設備投資に基づく大量生産によってコストを抑える「コストリーダーシップ戦略」は、大企業を前提にしています。中堅・中小企業は同じ土俵では闘えません。そうである以上、製品の差別化、市場の差別化が求められます。

本来「企業理念」は、ほかの企業と同じものはないはずです。そこに込めた経営者の思いはそれぞれ違うでしょう。同じ言葉を使っていても、地域や時代、環境によって違いが出てきます。もし全く同じならば、別の企業として存続する意味がなくなります。そう考えると、差別化の源泉は「理念」に行き着きます。もちろん、理念だけで差別化された製品やサービスが生まれてくるわけではありません。市場分析をはじめとするマーケティングリサーチは必要不可欠です。しかし、調査結果に引きずられ、もうかりそうだというだけで実行に移すのは危険です。理念を忘れた施策は、短期的な利益は確保できても、長い目で見れば、組織を破壊し、企業の衰退を招きかねません。長期的な視点で組織を維持し利益を獲得していくためには、経営戦略を経営理念に従わせる必要があるのです。

ここまで戦略と理念の関係を見てきました。次の一手、次の施策を考える前に、自らの理念に立ち返り、それが結びついた戦略になっているか、再考してみてはいかがでしょうか。

著者紹介

中郡 久雄 氏 プロフィール

中小企業診断士
中郡 久雄(ちゅうぐんひさお)

明治大学政治経済学部経済学科卒業。
2012年中小企業診断士試験合格。2013年登録。

新卒でゼネコン(総合建設業)に就職。2年後、子会社のリゾートホテルに出向。1998年、親会社の会社更生法適用申請をきっかけに翌年退職。その後、旅行案内業、家庭教師派遣業を経て、印刷会社に勤務。現在は経理職で、基幹システムの構築、管理会計の仕組みの再構築に携わる。モットーは「経理とは経営管理である」。

社外活動では、小規模企業支援や商店街支援に携わる。また専門誌への執筆を、経営者インタビューを中心に行っている。経営者の思い、それに基づく戦略を理解し、分かりやすい言葉に変えて、広く伝わるような記事を心掛けている。
勤務した会社は新卒で入った会社を除き全て中小企業。そうした経験を生かし、現在も中小企業で働く「企業内診断士」として、現場目線、お客様により近い位置から成長戦略の策定・実行支援を行っている。

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