第16回 アメリカの解雇について思うこと

先日、ある日系企業の日本人の駐在員の方から、従業員を解雇するにあたってのご相談を受けました。アメリカ人の女性を事務職として3カ月前に採用をしましたが、試用期間を終え、正式に社員となった途端に、彼女が遅刻をしたり勤務時間中にインターネットで買い物をしたりと、注意をしても改善されないため、解雇をしたい、ということでした。

せっかく3カ月の試用期間が過ぎたばかりなので、もう少し改善策を試してみたらどうでしょうか、とお伝えしましたが、アメリカでは“At-will employment”の法律があり、解雇は簡単にできるはずで、これ以上問題が大きくならないうちに対処をしたいとのことでした。

At-will employmentとは、アメリカの法律で、「At-will employment is a term used in U.S. labor law for contractual relationships in which an employee can be dismissed by an employer for any reason (that is, without having to establish "just cause" for termination), and without warning(wikipediaより)」、つまり、雇用主はどんな理由であっても通告なしにいつでも従業員を解雇できる、逆に従業員側も、同じく、いつでもどんな理由でも会社を辞めることができるという法律です。

この法律だけを見ると、アメリカでの解雇が簡単に見えてしまうのですが、実はそれほど簡単ではありません。簡単なはずの解雇が不当解雇として企業が訴訟されるケースが、アメリカでは頻繁に見られます。

これまでクライアント企業から聞いた例では、勤務態度が悪かったため解雇をしたらその従業員が糖尿病だったため、病気に対する差別だとして訴えられた、業務上のミスで注意をしても改善しない社員を解雇したら、その従業員が契約した弁護士からパワハラで精神的に障害を受けた、と訴訟をほのめかす連絡があった、などなど。

解雇について企業が一番恐れるのは逆上した従業員が会社を訴えてくることです。

ある弁護士の話によると、アメリカでは、不条理とも思える理由でどう考えても勝訴は期待できない案件でも、示談金を目当てに、不当解雇として企業へ訴訟を起こすことを煽る弁護士がいるそうです。企業にしてみれば、訴訟で弁護士に支払う数千万円とそれにより受けるダメージよりも、示談金で解決する数百万円の方が遥かに安いため、訴訟で戦うよりも示談で解決することを選ぶケースが多く、特に事を大きくすることを好まない日本企業は訴訟のターゲットになりやすい、とのことでした。

私は専門家ではありませんので、解雇に関する相談については、専門の弁護士へご相談いただくようお伝えしますが、これまでに私自身が弁護士から聞いたアドバイスには以下のようなものがあります。

まず、解雇をすると決めたら、解雇理由となるもの、勤怠、パフォーマンス評価(業務目標を達成していない)などの記録を整理しておくこと。次に解雇を告げるのは、金曜日の午後3時頃を選ぶこと。解雇をされた人は感情的になり、何かを起こす、あるいは自分の弁護士に相談して会社を訴えようとするケースがありますが、金曜日の午後3時であれば、荷物をまとめて会社を出た頃には弁護士事務所は閉まっていて、週末に時間をおけば冷静になれるため。最後に、解雇をされた人に心配される大きなリスクは顧客情報をはじめとする機密情報の持ち出しのため、解雇を告げるために別室へ呼んだときからコンピュータへのアクセスを一切させず、解雇を告げたら直ちにオフィスから出て行ってもらうこと。

金曜日の午前中に普通に電話で話をした人に、月曜日に電話をしてみると、他の同僚が出て、“彼女は会社を辞めました”とあっさり言われてしまう、アメリカの映画の中で、解雇を言い渡された社員が同僚や顧客に挨拶をする間もなく、ダンボールに私物を詰めて会社を去っていくシーンをご覧になった方もいらっしゃると思いますが、映画の中だけのお話ではなく、一人の人間の人生が左右される解雇が一瞬の内に行われてしまう現実のお話でもあるのです。

日本にいるときには身近に解雇をした、解雇をされたという話は聞いたことがありませんでしたが、アメリカに来て、もはや珍しいことではなくなってしまいました。それでも今でも解雇の話を聞くと、解雇する側も、される側も、受けるダメージが並大抵ではないと思われ、切ない気持ちになります。

個人的にはアメリカは日本と比較し、離婚と解雇をあまりにも簡単にしすぎ、事情は多々あれ、一度一緒になったからには死ぬまで添い遂げて・・とは言いませんが、もう少し添い遂げる努力をしてもよいのでは、と思われてなりません。

次回は9月30日(水)更新予定です。

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この記事の著者

Global Career Partners Inc. General Manager

浜崎 日菜子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。日本で信販会社、人事マネジメントコンサルティング会社で7年間の勤務を経て渡米。2005年より現Global Career Partners Inc.の事業立ち上げに携わり現職。米国シアトルを拠点に日米両国の人材紹介・派遣、採用サポート事業に携わる。
アメリカ:人材紹介・派遣情報サイト 仕事探し.com
日本:留学生のための就職情報サイト 帰国GO.com

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