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第17回 アメリカで語る中国人のパワー
2016年春、アメリカ西海岸や中西部など、12大学を訪問してきました。そのうちの一つの大学での出来事です。薄暗い金曜日の夕方、正門の前に大学には似つかわしくないBMW、 LEXUS、メルセデスベンツ、そしてポルシェもさり気なく1台、列をなした高級車に、次々と乗り込むお洒落をした“中国人”の女の子、車の中は若い学生らしい“中国人”の男性が。以前、新聞で目にした記事に、中国人留学生が多いアメリカの大学周辺の高級ブランドのカーディーラーでは、中国語のできるディーラーを置いているとのこと。中国人がアメリカでローンを組むのは難しいため、もちろん支払いはキャッシュ。これが全ての中国人学生に当てはまるとは言いませんが、中国人留学生がアメリカの経済に与える影響は少なくないと思います。この大学の1年間の授業料は約300万円、生活費その他を考えると年間500万円はかかると想定され、授業料に加え、高級車を買い与えることができる中国人の親の経済力に驚かされます。
Open Doorsの調査によると、現在アメリカに留学をしている中国人は約30万人、その割合はアメリカ全体の留学生の30%以上、つまりアメリカの留学生の約3人に1人は中国人というわけです。(以後、留学生に関するデータはOpen Doorsの情報をいただいています。)
それでは、こうした中国人留学生がどんな人たちなのか、私の経験からお話をさせていただきたいと思います。2014年11月の第13回コラム「 Let's start your career in Japan! 」で、アメリカにいる日本人以外の工学部の学生のリクルーティングをさせていただいていることを紹介しましたが、2015年末も同じくこのプロジェクトを担当させていただきました。
第13回 Let's start your career in Japan!
昨年も日本での就職を目指すアメリカの大学に通う学生から400通近い英文レジュメが届き、中でも中国からの留学生の応募が目立ちました。書類選考後、約30名の中国人とSkype(スカイプ)で色々とお話をうかがいましたが、中国人留学生の皆さんの目的意識の高さ、優秀さには敬意を払わずにはいられません。
まず、中国人留学生は「専門性を身につけること」を留学の目的においています。中国人留学生のうち、工学部と数学・コンピューターサイエンス系を専攻しているのは全体の32%、それに対して、日本人留学生のうち、こうした学部を専攻しているのは約7%です。一方、その他を含む文系学部の専攻が中国人28%、日本人50%、修士以上の学位を取得中の割合が中国人留学生30%、日本人17%となります。日本人の留学生と比較すると、より専門性と学位レベルの高い留学をしているのが中国人の留学生の特長です。
中国でアメリカなどに留学をする際に、親は「工学部かAccounting」ではないとお金を出してくれないと、ある中国人の男子学生が話をしてくれました。留学をさせるのは、お金を稼げる専門性を身につけるためなので、就職に直接結びつきにくい、リベラルアーツ系(文学部など)の学部で留学をする学生はまれとのことでした。また、中国人留学生の多くは、中国にいるうちに英語は修得済みで、英語を目的に留学することもなく、日本人の15%がIntensive English、英語の修得目的の留学に対し、中国人はわずか2.8%となっています。
英語だけではなく、私がお話をさせていただいた中国人の約半分は日本語もできる、“トリリンガル(三カ国語が使用できる人)”でした。漫画やアニメをきっかけに独学で日本語を学んだり、高校で学びはじめ留学先のアメリカの大学でもクラスを取っていたりと、勉強方法はさまざまですが、住んだこともない国の言葉を彼らは大変流暢に話し、読み書きも堪能でした。
グローバルに新卒の人材採用を行っている日本企業の採用担当者にお話をお聞きしたことがありますが、エンジニアを採用するために基礎力のテストを行うと、他国の学生と比較し、中国人学生の点数はずば抜けて良かったそうです。もちろん、学力が人間の能力を全て測るわけではないのですが、アメリカの大学での成績を見ても、中国人留学生の学習能力、あるいは勉強へのコミットメント、目的意識は非常に高いことは間違いないと思います。
私が関わらせていただいているのは、アメリカへ来ている留学生、13億人の人口の中から、選りすぐられた中国人という事情もあるかもしれません。ただ中国人留学生の場合は、母国に帰ると就職事情が厳しいことや、社会的な事情が日本ほど安定はしていないため、留学後にどんな職業に就くかという意識をしっかり持っています。彼らのような人材は、中国へ帰って中国の発展へ大きく寄与していくことでしょう。
中国では、36年間続いてきた一人っ子政策が今年から廃止されるとのこと。こうした人材を生み出す力が単純に2倍になると、中国が持つ可能性、世界に持つ影響力は計り知れないものになります。
現在約1万9千人の日本人留学生がアメリカでがんばっていますが、どこか、「母国に帰れば何とかなる、親や社会が何とかしてくれる。」という意識があるように感じます。せっかく得た留学の機会、中国人留学生に負けないように、学び、成長し、日本の発展のためにがんばって欲しいと願います。同時にアメリカ留学をきっかけに、中国人留学生とお互いに学び合い、中国と日本が将来より良い関係を構築し、共に発展していける架け橋になってくれることも大きく期待せずにはいられません。
次回は6月29日(水)更新予定です。
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