第11回 立つ鳥はあとを濁さずに~アメリカのリファレンスチェック~

アメリカで人材紹介を行う弊社では、クライアント企業から依頼を受けて、オファー(内定)を出す前にリファレンスチェックを行うことがあります。

リファレンスと言うのは、“身元保証人“、本人の能力、人柄について、本人をよく知る人から確認、保証を得ることが目的です。
日本の就職時の身元引受人とは違い、合否を左右する選考過程の一つになりますから、リファレンスを誰にするかという選択と、その方々への“根回し”は、就職の選考過程でとても大事です。
リファレンスは現職、前職、あるいは前々職の上司が、一番信用できる情報元として好まれますが、転職を内密に行っている場合には、取引先、同僚、友人のこともあり、2-3名の情報を提出します。

さて、リファレンスチェックの方法は、大きく分けて二つあります。
一つは、リファレンスレター(推薦文)という書面をいただく、もう一つは本人が提出したリファレンスへ、採用側が直接メールや電話で連絡し確認を取るというものです。
二つとも内容は「在職年数、職務、本人との関係、退職理由」といった事実確認、「彼・彼女の能力、人柄について」などになります。
レターの場合だと事前に本人が内容を確認できるため、本人を推薦する形式的な内容になりますが、後者、メール、電話の場合、本人がそばにいるわけではないので、とんでもないことになる場合もあります。

例えば、前職・現職の企業、上司が、本人に対してあまりよい評価をしていなかったとしたら、どうなるでしょうか。
多くの場合、メールや電話で連絡をしても「この会社に働いていたという事実以外は何も言えません」、という何も言わないというスタンスを通します。
本人に対しての評価が低い、あるいは個人的によくない感情を持っていて、うっかり本人を必要以上に中傷することを話して、本人の内定が取り消しになってしまったりすると、ここはアメリカ、訴訟の対象になってしまうこともあり、会社によっては、元社員、現職社員のリファレンスとなること自体を社則として禁じている場合もあります。
また、リファレンスとして、企業側が「客観的・正しい情報」を伝えることは法律的には問題はないため、まれではありますが、Bad/negative reference 、を正直に伝える場合もあります。
数年前、ある企業に紹介した日本人女性の、現職のアメリカ人男性上司に電話をした際に、「彼女の英語はひどく、業務に支障をきたすほどだった」、「人事評価はいつも最低ランクだった」「能力が低く、毎日数時間の残業をしないと業務を終わらせられなかった」といったひどい評価を受けたことあります。
本人と話をすると、リファレンスを依頼した当時は、その上司との関係はよかったのですが、内定を実際に受けて退職が現実的になってきてから、退職を面白く思わないその上司との関係がどうもうまく行かなくなっていたとのことでした。

アメリカの就職情報でも、転職が決まってから退職日までは、現職の企業、上司とのトラブルが起きやすく、注意をするように促しています。
本人は通常通りに業務を行っていたとしても、周囲は案外厳しい目で見ているもの。この時に自分の引き継ぎ業務に手を抜いたり、業務がおろそかになったりしてしまうと、将来の転職のリファレンスチェックで自分に跳ね返ってしまうことになる、というわけです。
また、アメリカでは2-week notice(辞表を出してから退職まで2週間)が一般的です。2週間という期間は、完璧に引き継ぎを済ませるには、決して十分な期間ではないかと思いますが、それでも周囲の祝福を受けて円満退職をすることが、今後の転職にとても大事なことなのです。

さて、日本には「立つ鳥はあとを濁さず」、という美しいことわざがあります。
ウェブサイトで調べると、英語で一番近いのがCast no dirt in the well that gives you water<水源となる井戸に泥を投げ入れてはいけません(泥が入ってしまうと水が濁り、飲めなくなるため)>だそうです。
どちらも“引き際は美しく”、日本でもアメリカでも退職時に使用できることわざですが、 その意味の裏に、日本=(残った人たちに迷惑を掛けないように)引き際は美しく”、アメリカ=(自分の将来のために)引き際は美しく“と取れてしまうのは、私だけでしょうか。

次回は7月30日(水)更新予定です。

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この記事の著者

Global Career Partners Inc. General Manager

浜崎 日菜子

お茶の水女子大学文教育学部卒業。日本で信販会社、人事マネジメントコンサルティング会社で7年間の勤務を経て渡米。2005年より現Global Career Partners Inc.の事業立ち上げに携わり現職。米国シアトルを拠点に日米両国の人材紹介・派遣、採用サポート事業に携わる。
アメリカ:人材紹介・派遣情報サイト 仕事探し.com
日本:留学生のための就職情報サイト 帰国GO.com

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