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第10回 アメリカの転職は成功のためのステップ?
アメリカ人は転職の回数が多い、というイメージを持たれている日本の方も多いと思います。
実際にBureau of Labor Statisticsの調査によると、アメリカ人は一生の内に11の仕事に就く、つまり平均転職回数は10回、だそうです。
アメリカの場合、大学在学中のアルバイト、あるいは契約社員としての経験も、就労経験として数えるため、それらを差し引いたとしても、7回程度の転職が平均といったところでしょうか。
確かに、日々、アメリカ人の履歴書に目を通していますが、転職回数は、日本人の2倍は軽く超えていると思います。
アメリカ人の転職、というと、宿敵GoogleからYahooへ転職したマリッサ・マイヤーさん、ペプシコーラから、スティーブ・ジョブズに口説かれてアップルに転職したジョン・スカリーさん、など、日本では起こり得ない華々しい転職の事例もありますが、転職が必ずしも成功に結びついているかというと、そうではありません。
確かに、収入の上昇や、キャリアアップのために、転職ができる人もいますが、解雇、レイオフ(業績悪化による一時解雇)、仕事が合わないといった理由での転職も多々あり、転職により、収入のダウン、キャリアダウンする事例も多々あります。
特に、アメリカのように、買収・合併、事業計画の変更、生産調整で、簡単にオフィスの閉鎖、人員整理が行われる国では、レイオフによる“望まない転職”は少なくありません。
また、アメリカの場合、日本の新卒採用に見られるように、その人の将来のキャリアパスを考慮して、あるいは定年までのキャリアを考えて採用ということはありません。
上のキャリアや収入を望む場合、運よく同じ会社で希望のポジションが空かない限り、会社の外にチャンスを求めざるを得ない、そうすると、必然的に転職回数が多くなり、人材の流動性が高くなる、という仕組みなのです。
日本の終身雇用制の話をすると、多くのアメリカ人は“それはいい制度だね!”と驚きます。日本の新卒採用のように、企業が、全く就労経験のない新卒の学生を採用し、研修を提供し、キャリアアップ、収入アップの道筋を引いている制度、は、アメリカ人からみたら、大変魅力的な制度だと思います。
シアトルにいるため、ボーイングのストライキのニュースが身近に入ってきますが、ストライキの争点の一つは“雇用の保障”、アメリカ人だって、できることなら、いつ解雇されるか分からないという不安に悩まされず、一つの会社でキャリアアップ、収入アップ、Job Securityを得て、仕事に打ち込みたい、というのが本音のところだと思います。
日本の終身雇用制度には、弊害もあるかもしれませんが、会社へのロイヤリティーを育み、社員が安心して仕事に打ち込める環境を作れる点においては、日本企業の強みの1つではないかと私は思います。
先日、日本での就職を希望するアメリカ人の大学生と話をしていたときのこと、日本での終身雇用制の話をすると「日本人はどうして就職をする時に、この会社に長く勤めるという決心ができるんですか?先のことは分からないですよね。」という質問。
私の回答、「日本人にとって、就職は結婚のようなもの。たとえ結果的に離婚に至ったとしても。結婚をする時には一生を添い遂げようと思って結婚しますよね。3年、5年後に離婚しようと思って結婚する人は、いないでしょう?」
結婚に関しても、人材の流動性が高いアメリカですが、彼は私が伝えたかったことを理解してくれたでしょうか。
次回は3月26日(水)更新予定です。
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