第26回 「顧客創造」の本質から見えること

 「うちの会社は、社員と顧客の間に距離がありすぎる。それが一番の問題だと思う。」

先日お話しした、ある企業のマネージャーさんがふと発した言葉です。非常に深く本質的なことを言われていると思いました。

会社で起こる問題は、「顧客と社員との距離が遠い(意識的にも、物理的にも)」ことに起因する場合が殆どです。
顧客との距離が遠いことは、社員のモチベーションも働きがいも、創造性も失わせてしまいます。

「企業の目的として有効な定義は一つしかない。顧客の創造である。」
(ドラッカー)

「顧客を創造する」と聞くと皆さんどのようなイメージを持ちますか。「お店で購入してもらう」「法人顧客から受注をとる」「契約を結ぶ」—いろいろな表現を思いつくかもしれません。しかし、辞書で「顧客」をひくと、こう出ています。

「ひいきにしてくれる客。得意客。」

そう、営業体制を強化して、多くの受注を獲得しても、それが「顧客を創っている」とイコールではないのです。購入後もひいきにしてくれて、リピートで購入するほどのファンになってくれている状態を創れてはじめて、「顧客の創造」なのです。多くの組織が、その本質を見逃している気がします。

誰にでも、「(数多くある類似品/サービスの中から)どうしても、その製品やサービスを購入せずにはいられない」というお店や会社があるはずです。その製品やサービスの提供者は間違いなく「顧客を創造」していると言えます。私の主催している研究サロンでも先日このテーマを扱ったところ、いろいろな「顧客」としての体験談が聞けました。

■ 「車を運転してでも、少し離れたそのお店のそのチーズケーキをどうしても食べに行ってしまう。」
■ 「そのホテルのラウンジに行くと、単なる飲食をする以外の大きな精神的なリラックスを得られるので、仕事後に定期的に通ってしまう」
■ 「あの製品を購入したときは、興奮して、何人もの人に自らその素晴らしさ、かっこよさを宣伝してしまった」 などなど。

 本当に顧客を創造している会社は、経営的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。

・顧客がリピート購入をしてくれる (営業コストの低減)
・顧客が顧客を紹介してくれる (営業コストの低減)
・むやみに値引きをする必要がない(利益率の維持・向上)
・顧客との間の「信頼関係」がライバルに対する参入障壁に(競争優位)

本当の意味での「顧客の創造」が経営を安定させ、さらによりよい商品・サービスづくりに社員の能力や活力を向けることができます。受注額、利益額という「数字」ではなく「顧客の創造」こそが、事業現場の目的であるべきです。売上や利益の目標は毎期なんとか達成していても、「いっこうに営業の負荷が減らない。」「常に解約の危機」「お客さんからのクレームが減らない」といった症状に悩まされている現場は少なくありません。それは、「顧客の創造」よりも目先の数字を追ってマネジメントし過ぎていることによる弊害ではないでしょうか。

それでは、顧客を創造するための鍵は何でしょうか。それは以下の2点だと思います。

【1】 大切な顧客は誰か、顧客が何を価値として購入してくれるか、を深く知る
【2】すべてのお客に好かれようとしない。嫌われてもよいお客のイメージも明確に持つ

実際、私たちが「ひいき」にしているお店も、全てが完璧に揃っていることはありません。「立地は少し遠いけど」「マスターの愛想は悪いけど」「デザイン性は低いけど」といった欠点もあります。嫌われてもよいお客さんが明確であるからこそ、逆に、「大切な顧客」「実現する卓越した価値」も明確になります。

事業の「規模」を大きくすることにばかり意識が向かうと、この本質が見逃されてしまいます。事業の規模とは、「その組織の顧客創造能力の大きさ」によります。実際、事業拡大や大量生産に伴い、重要な得意客が離れてしまうことも少なくありません。事業計画の数値が事業の規模を決めるわけでは決してないはずです。無闇に数値だけの拡大に走ると、「顧客創造」でもたらされる経営メリットからますます離れてしまいます。

多くの成功した起業家に共通する思考があります。それは、「目の前の少数の大切な人たちにまず徹底的に愛される、好まれる、感動されるものを生みだす」ということです。いきなり、大規模なマーケットの市場調査に依存するのではなく、自分に見えている大切な顧客の創造から始める。そうすることでファンが広がり、事業が成長していく。アップルやソニーのヒット商品も、最初の出発点はそのようなシンプルな思考にありました。

「この仕事や判断は、どのようなお客様に、どのような価値を届けることにつながるか?」

日々社内で確認しあうことで、顧客と組織の距離が縮まり、思わぬ成果がもたらされるはずです。新しい年のはじめに、コストをかけずに実践できる施策として、皆さんの職場でもぜひ試してみてください。

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会社経営をされている方、事業部・部・課などを任された方、新規事業のチームを率いる方、開発や制作のプロジェクトマネージャーの方など、「組織やチームのマネジメント」を担っていく方に是非お読み頂きたいと思います。

次回は2月6日(木)の更新予定です。

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