第29回 「貢献」に焦点をあわせると、なぜ組織は変化するのか

■ある看護師さんのエピソードが教える、「大切なこと」

最初に、ドラッカーの著書に登場する、ある病院のエピソードをご紹介させてください。

「新任の病院長が最初の会議を開いたときに、ある難しい問題について全員が満足できる答えがまとまったように見えた。そのときひとりの出席者が、『この答えに、ブライアン看護師は満足するだろうか』と発言した。再び議論が始まり、やがて、はるかに野心的なまったく新しい解決策ができた。
その病院長は、ブライアン看護師が古参看護師のひとりであることを後で知った。特に優れた看護師でもなく、看護部長をつとめた事もなかった。だが彼女は、担当病棟で何か新しいことが決まりそうになると、『それは患者にとっていちばんよいことでしょうか』と必ず聞く事で有名だった。事実、ブライアン看護師の病棟の患者は回復が早かった。こうして病院全体に、『ブライアン看護師の原則』なるものができあがっていた。病院の誰もが、『患者にとって最善か』を常に考えるようになっていた。」
(ドラッカー 「プロフェッショナルの条件」より)

ブライアン看護師という、役職も権限もない一看護師さんが、組織が「本当に貢献すべきものは何か」をシンプルに問い続けたことで、その病院の発展や成長にも大きく貢献する組織風土と仕事の基準がつくられた、という例です。

■焦点をあてているものが、組織の仕事の結果として現れる

ドラッカーは、組織で成果を上げる為の条件について、こう言います。

「成果を上げるには、果たすべき貢献を考えなければならない。手元の仕事から顔をあげ、目標に目を向ける。組織の成果に大きな影響を与える貢献は何かを問う。」(ドラッカー 「経営者の条件」より)

組織で働いていると、外の「最も貢献すべき人たち」のことよりも、目の前の業務や作業、あるいは中の人間同士の関係にばかり意識が向いてしまいます。たとえば、日々の業務でこんなことはないでしょうか。

・受注した案件(建設、システム開発、製作など)の作業に追われすぎ、「そもそも顧客が何を一番求め、必要としているのか」に意識を向ける時間を持てなくなっている
・毎週の営業会議で、数字やノルマの確認はしているものの、お客さんが本当に求めていることについては殆ど話し合えていない
・ルールや制度を決める際に、「そもそも何が大切な目的か」を十分に話し合えていない
・人間関係や個々人の問題点ばかりが話題にあがり、人の強みや能力をいかに成果につなげるか、が話し合えていない

組織はどうしても、人数が増えるとこのように「内向き」になる性質があります。
組織の内側に焦点があたっているのですから、当然、外の顧客が喜ぶものは生み出せません。
この症状を複雑な方法で解決しようとしても難しいものです。
むしろ、ブライアン看護師のようにシンプルに、「それは、この組織が最も貢献したい人たちにとって一番良い事でしょうか?」という問いに徹底して焦点を当て直すことで、メンバーの意識が大きく変わります。
もちろん、言うだけではなく、このブライアン看護師のように、自らも(地味ながら)そのスタンスを仕事で貫きつづけて認められていくことが条件になりますが。

■人間関係を建設的に改善するシンプルな原則

「そうは言っても、人間関係が悪すぎて、そのような建設的な話し合いができない」と言われる事も多々あります。
しかし、人間関係自体を良くしようとしても、なかなか良くはなりません。
むしろ、上記の病院の例のように、人々の焦点を「貢献」の方に合わせる事で、自然と人間関係も改善されているというのが最もすっきりする方法です。その点につき、ドラッカーはこう言っています。

「貢献に集中して取り組むことは、仕事の内容、水準、影響力において、あるいは上司、同僚、部下との関係において、さらには会議や報告において、成果をあげる鍵である。」(ドラッカー 「経営者の条件」より)

貢献に集中するということが、組織の仕事のレベルや基準を上げるだけではなく、上司、同僚、部下との人間関係改善においても重要だと言っています。
確かに、私自身の経験でもこれは間違いないと思います。
どうしても気が合わない同僚がいるときに、「彼(彼女)の考え方をどうすれば変えられるか。どうすれば自分の考えを理解させられるか。」と考えても、不毛でした。
そもそも、人の考えを簡単に変えることは不可能ですし、おこがましいというものです。

しかしあるとき、仕事の成果もあがって、人間関係も大きく改善されるアプローチがあることに気づきました。それは、

「あなたと一緒に、こういう成果を生み出したい」

という想いを伝えることです。

この組織で一緒に働いている上で、一緒に成果をあげて「貢献」したい、ということに「焦点」をあわせることです。
そうすると、面白い事に、「この人のここが嫌だ」「気に食わない」という感情は、殆どなくなってきます。
当然、性格的に好きになれるわけではなくても、「ああ、この人は(自分にはない)こんなこともできるのだな」と思えるようになります。
相手も少なからずそう思ってくれるはずですし、少なくとも以前よりは人間関係は改善されます。
そして、人間関係が改善されるだけでなく、複数の能力のある人間同士が、貢献に向かって「手を組む」わけですから、実成果も上がりやすくなります。

「貢献に焦点をあわせる」人たちが少しずつでも増えていくことで、その他の多くの人たちも少なからず影響を受けていくはずです。
このシンプルな方法は、少なくともやってみて損はありません。是非、皆さんの組織でも試してみてください。

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次回は5月8日(木)の更新予定です。

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