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第130回 思考を言語化する力
止まらない円安の影響もあり、生活用品の値上げの皺(しわ)寄せが一気に高まっているなか、今回は企業経営、およびそこで働く一人一人の従業員である私たちにとっての「思考を言語化する力」というテーマについて、考えてみたいと思います。
思考を言語化する力
皆さん、こんにちは!
季節も一気に進んだような秋らしい気温が続くようになり、また徐々にコロナ罹患(りかん)も増えてきているようです。インフルエンザ同時流行の可能性もいわれていますので、体調管理には引き続き気をつけていかないといけない時代になってしまいましたね。
また、止まらない円安の影響もあり、生活用品の値上げの皺(しわ)寄せが一気に高まっているようで、日本国内の経済停滞や世界の中での位置づけがどんどん低下している感が急速に強まっている気がします。
ということで、今回は企業経営、およびそこで働く一人一人の従業員である私たちにとっての「思考を言語化する力」というテーマについて、考えてみたいと思います。
「自由」とは何か
最近、改めてしばしば目にする「失われた30年」という表現ですが、私たちが本当に失ったものは一体何なのでしょうね……。
日本人にとっては、「普通のこと」と受け止めている自由主義や民主主義自体が、世界の趨勢(すうせい)の中では、既に危ういものになっている現代ですが、皆さんはどう感じておられますか……。
そもそも「自由主義」の「自由」とは何を指すのでしょうか。
私は「価値自由」、つまり「自分で意思決定できる/決められる自由」を権利として有していることだと理解しています。
少なくとも私自身は、国から自分の思考や行動を制限される社会は受け入れ難く、会社や組織においても、同じように自分の「心柱・軸」を大切にし、自らの思考と意思を大切にする働き方をしてきたつもりです。
逆説的にいえば、「自由主義」の名の下で、「社会主義的な会社・組織を作る自由」も認められているわけですので、そんな会社があっても認めざるを得ませんが、私は自分の価値観として「そぐわない・組みしない」と考えているに過ぎません。
とは言いながら、企業経営において、この「自由な働き方を推進している会社」と、「いまだに社員を規則で縛っている会社」との二極化が進んでいるように思います。
賢明な不服従
組織心理学に詳しい同志社大の松山一紀教授は、上記のような姿勢を「賢明な不服従」と表現しておられます。
これは盲導犬に由来する概念で、「盲導犬は飼い主への服従が原則だが、例外もある。例えば主人が路面の凍結を分からず『進め』と命じても、危険と判断すればあえて拒絶する」そうです。
たとえフォロワーであっても、盲導犬のように「建設的なノー」を言える環境と気概が欠かせないということになります。
こうした時に、私たちは犬ではありませんので、自身が「考えていることをキチンと言語化」して伝えなければいけないのではないでしょうか。皆さんは、ご自身の価値観・考えていることを適切、的確に言語化・表現できていますでしょうか。
思考を言語化するということ
最近、どういうわけか、経営者や社員の方々との話の中で「自分が考えていることの“言語化"の難しさ」というテーマにたびたび出くわすように感じています。
私自身は、「自らの思考・価値観」に関心が強いからか、この「言語化」に対する意識が高いように思います。少なくとも、自分の「思考」つまり「考える」という作業でさえも「言語」で形成されていると思っています。
私たちは「何となくスキ」とか「何かイヤ」では、「スキなもんはスキ」と言っている幼い子供と同じレベルであり、
経営者が社員に、あるいは営業がお客さんに「何かを伝える」
とか、逆に
社員が経営者の発言を、営業がお客さんの言わんとすることを「理解しようとする」
といった作業において「言語化能力」は避けられないのではないかと思っています。
最近、1on1を実施される会社も増えているように感じていますが、その際にも、メンバーの言葉を「拾う→紡ぐ」という作業をしていると思います。
「拾う」段階では、その人の本音や情熱、価値観にまつわる具体的な事象を足掛かりの一端として掘り下げて、さらに「紡ぐ」段階で、自らの言語化能力をフル回転させて適切なレイヤーでの抽象化表現を提示することで、相手の気づきを促す作業をしていると思います。しかし、必ずしもうまく進められているとは限らないのではないでしょうか……。
そんなことを考えていると、NIKKEIリスキリングで楽天大学学長・仲山進也さんの著書『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方』の講演録に「自分で考えて動ける」「思考力のベースになる“言語化”」というキーワードが並んでいましたので、ご紹介させていただきます。
漫画アオアシに学ぶ 自ら考えて動ける人になる方法(NIKKEI リスキング Webサイト)
この中で「インプットを増やすには視野を広げる必要がある」と指摘していますが、そういう意味では、そもそも「心理的柔軟性」がないと「視野を広げる」につながらずに自分自身で進化の機会を奪ってしまうことになるように思います。
ということは、「心理的柔軟性」、つまり、自分の価値観・考えと違うことをもいったんは受け入れたうえで、その違いやその思考の背景を自分なりに「言語化」して整理することで、自分の思考・価値観が明確になり、確固たる「心柱」になるということでしょうか……。
そういえば、2021年11月25日の日経新聞「逆風順風」欄の「アピールしない人は強い」の中でイチロー氏や大谷翔平選手のことが書かれていましたが、二人とも「言語化能力」が高そうですね。
~前略~ 人の心は左右できない、自分のできることだけに専念する、という姿勢は一流選手に共通するスタンスだ。伸び悩んでいる選手に限って、どうにもできない相手の心中を考えすぎるきらいがある。~中略~「人様が決めること」と割り切るのは案外難しい。周りにどう見られているか、毎日気にしながら暮らしているのが、むしろ普通だろう。
そこへいくと、投打二刀流に「人様」から懐疑の目を向けられながらも、委細構わず疾駆してきた大谷はやっぱり違う。大谷やイチロー氏ら、ことさらにアピールしない人はたぶん、本当に強い人。そこがなんとも格好いい。
今後もよろしくお願いいたします。
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