第45回 病院の移転は引っ越しとは違います その1

皆さんは引っ越しの経験はありますか?ご家族が転勤族だった方もいらっしゃると思いますが、新しい土地に移るドキドキ感と不安な気持ちは何とも言えない経験ですよね。病院の移転も、近年多くなっています。要因はいくつかありますが、特にまとまった土地が確保できる地方部では移転が多いですね。病院の移転も引っ越しには違いないのですが、皆さんが経験している引っ越しとは大きな違いがいくつもあります。

新しい建物が別の土地に建設され、物品を新しい建物に移動する。多くの方が持つ引っ越しの概念だと思いますが、病院の物品には、特殊なものが多く、また物品数も多くあります。物品を移動してもらうのに、専門の業者さんにお願いすることになりますが、特殊なものの中には引っ越し専門業者では対応できない物もあります。さらに移動するという点で引っ越しと全く異なるのが、入院患者さんがいらっしゃるということです。入院患者さんの移動についても、ほとんどの引っ越し業業者が「入院患者の搬送は担当できない」と答えるはずです。「できる」と答える業者がいたら、医療関連サービス振興会の基準をクリアしているのかどうかの確認が必要です。病院はさまざまな業務を外部に委託できますが、特に患者さんへの影響が大きい8業務に関しては、医療関連サービス振興会の基準をクリアしている会社に委託しなければならないという法的な規制があります。規制されている8業務の中にこの「患者搬送」が含まれているからです。

これで「引っ越し」と「移転」の違いは理解していただいたと思います。では、その準備手順と役割分担を中心にお話ししていきたいと思います。移転のための準備期間としては、多くの場合1年前から準備がスタートします。病院側では、この引っ越しに関するプロジェクトに専念する職員を選出する場合もあります。通常の業務の片手間でできる業務ではないので、1年間引っ越しプロジェクトに専念する職員を選出することをお勧めします。病院側は、当然ですが、自分たちで物品を運んだりするわけではありません。物品を移動する業者などのコントローラー役、引っ越しプロジェクト全般のマネジメント役となります。

登場人物と役割

役割としては、プロジェクトマネージャーである職員、物品移動を担当する引っ越し業者となりますが、多くの場合はプロジェクトマネージャーをサポートする企業(注1)とサポート契約を結び、一緒にマネジメント業務に当たることが多いです。

注1:株式会社FMCAでは、病院移転業務のサポートを実施しています。

最初に決定するのが、このサポート企業の選定、契約となります。この後に引っ越し業者の選定となりますが、契約条件出し、契約金額の適切さの判断など通常業務では経験したことの無い業務内容が続きますので、サポート企業に業務を担当してもらうと、別業務に専念できるメリットも生まれます。サポート企業と一緒に引っ越し業者の契約金額の交渉を実施するというケースもあります。プロジェクトマネージャー(病院職員)、サポート企業、引っ越し担当業者が病院移転に関しての必要最低限のメンバーとなります。

移転プロジェクト手順

1.キックオフミーティング

病院内に、「移転業務に関しての業務が開始しました」という宣言になります。移転関連ミーティング(委員会)を立ち上げることで、移転に関しての疑問、諸問題を相談する場所が明確になります。
移転関連委員会:各職場の移転担当委員を選出し、その中から全体委員会に出席コアメンバーをさらに選出してもらうピラミッド型の構造とします。

2.調査

◇現状物品調査・現状図面作成

現病院の物品調査(どこに何があるのか、さらに採寸も実施)を行います。この作業は最終的に図面に反映させますので、サポート企業あるいは引っ越し業者が担当します。マネジメント業務としては、いつどこの場所に調査が入るかの調整を行います。現病院では通常診療が行われていますので、診療終了後や休診日に実施することが多いです。調査にはその場所の移転担当者に立ちあってもらいます。制限がある中での調査ですので、調査箇所の多少にもよりますが、全ての箇所の調査が終了するまで数カ月間を要します。

◇現場のヒアリング調査

物品調査と同時並行的にヒアリング調査を行います。現場との打ち合わせは今後数回実施しますが、その中でこのヒアリング調査は現場との打ち合わせの第一回となります。
このヒアリング調査では、移転に伴い移設したい物品と新規購入を希望する物品を中心にヒアリングします。この情報は移設物品を明確にし、移設量を計算することで、移設に要する日時、ルートなどを決定するのに利用します。この調査も診療時間外に実施するので、数カ月を要します。
新規購入希望物品に関しては、この後、病院側で購入の可否検討が行われます。検討が終了したら、新規購入物品(新病院への直接搬入物品)と移設対象物品、残置物品(移設時にそのまま現場所に残しておくもの)の3種類に区分できますので、その情報を図面上に表します。


例)搬入先図面……図面上に移設機器と新規購入機器を色分けし、配置場所を示した図面(イメージ図)

◇調査結果の分析と検討課題の抽出

物品に関して、新規に購入する物品、移設する物品、残置する物品に分けられましたが、さらに引っ越し業者が担当する物品とそうでない物品とに分ける必要があります。病院では普通の家の引っ越しや企業などの移転と違い精密機器類が多く、その代表的な機器が放射線関連機器です。この放射線機器に代表されるような精密機器の移設は機器メーカーに移設を担当してもらいます。したがって、機器メーカーに移設に関連しての作業時間や費用、移設に関しての注意点などを機器メーカーからもヒアリングしなければなりません。特に大型の放射線関連機器は、移設するために分解、移設、組立て、調整という段階を踏みますので、対象機器の使用不可期間も長いことが多いです。診療側への影響も最大限配慮しなければなりません。さらに搬出、搬入に関して大型特殊車両によるものも多いのでその調整(注2)も必要です。

注2:移設の際に病院内の廊下にひびが入る、病院敷地内のアスファルトが凹むなどが考えられる時には適切な事前処置を行い、作業を実施してもらうというような調整事項

この他、現場ヒアリングの結果で出てきた要望や問題点を解決する方法を検討していきます。

◇スケジュール表作成

移転日、新規開院日をゴールとした計画表を作成します。マスター計画表(概要スケジュール表)、機器関連スケジュール表など、必要に応じて数種類のスケジュール表を時間単位/日単位で作成します。プロジェクト室内には常に最新スケジュールを掲示、更新し、他のスケジュールとのブッキングに注意しながら計画を進めます。このような計画表は非常に細かくなりますので、パソコンを使っての情報共有も技術的には可能ですが、あえて室内に大きく掲示し可視化することによる情報共有の方がお勧めです。なぜなら、院長などが来室された際にも、このスケジュール表で現状説明が可能ですし、進捗状況も一目で確認でき、安心していただけるからです。


例)マスター計画表(イメージ図)

今回はここまでにしましょう。これはまだまだ移設の最初の段階ですよ。次回は入院患者をどのように搬送するのかを中心にお話しします。

皆さんは、どう思いますか?

次回は9月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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