第46回 もう一度言いますね。病院の移転は引っ越しとは違います その2

前回は、キックオフミーティング、ヒアリング調査、(マスター)計画書作成までお話ししました。ここまで数カ月を要しているはずです。この頃には、移転先での現場の運用などが固まってきますので、必要な物品と不必要な物品、さらに新規購入を希望する物品が再度追加情報や要望として出てきます。新旧の配置図面を作成しながら、日々情報を更新していきます。

移転日と診療開始日の決定

マスター計画書が完成しているということは移転後、診療を開始する日が決まっているということです。規模の大小によって、移転に伴う日数は異なってきます。移転日および診療開始日を決定する際は、移転日と診療開始日との間に日曜日や祝日を挟むと良いでしょう。移転に伴う不具合などが万が一発生した場合のリカバリーの予備日として、また現場での最終チェック日として活用することができます。

移転に何日必要なのかは、特に搬送する入院患者さんが何人いらっしゃるのか? が大きく左右します。移転マネジメントをする立場からは、安全のために一時帰宅が可能な入院患者さんは一時帰宅していただき、新病院へ再入院してもらうことをお勧めしますが、入院患者さんを一時帰宅させる収益面での影響が大きいので、最近の事案では入院患者の一時帰宅は一切無し。しかも短期間で移転を完了させるという要望が多いです。移転日数が長くなれば外来も休診する日数が増えるので、外来収益にも影響が出ます。ゴールデンウィークやシルバーウィークなど休日が連日あるタイミングで移転を行うと収益面での影響は少なくて済みます。しかし、敷地外移転だった場合、道路の渋滞なども場所によってはありますので、慎重に検討してください。

患者搬送/物品移送計画

安全を考え、敷地外移転であれば、入院患者の搬送は1日100名程度に留め、物品は24時間稼働で移動させるということも考えます。敷地内移転であれば、1ルート100名/日×3ルートで、合計300名程度/日搬送することも可能です。昼間は患者搬送が中心、夜間は物品中心としますが、移転先が遠い、近いなどの諸条件にも注意が必要です。搬送ルートを何本に設定するのか? 必要な人員は? 車両は用意できるのか? なども考えておかなければいけません。敷地内移転であれば、搬送距離も短くてすみますが、敷地外移転の場合は一般道を利用して移送や搬送しますので、最寄りの警察などにも事前に相談しておくことが必要です。経験した事例では、搬送予定の一般道の要所に職員を配置して事故に注意するように指導されたことがあります。

入院患者搬送で注意が必要なことは、現実可能な計画を作成することです。このために実測はもちろんですが、EV(エレベーター)の速度、EVの開閉速度なども測定して所要時間を決めていきます。EVについては、EVのボタンを押して扉を開いて待っている係なども配置することがあります。患者搬送で歩留りを起こしやすい場所は、このEV待ちです。搬送入院患者数が多い場合は、搬送ルートを複数用意します。搬送ルートが変われば搬送にかかる時間も変わりますので、そのことも計画表に反映させなければなりません。また雨天時の場合のルートはどうするのか? ということも考えておかなければなりません。患者搬送ルート、物品移送ルートは別ルートにした方が安全性は高まります。さらに動線は一方通行とします。一方通行にすることで、衝突の可能性が低くなります。

入院患者搬送計画を事前に作成しますが、詳細な計画書は直前にならなければ確定しません。理由は一年も先の移転日にどんな患者さんがどこに何人入院しているかなど、だれも分からないからです。そこで、準備としては病棟毎にある程度どのような患者さんが考えられるかを調査し、患者さんの状態に合わせてどのような体制で搬送するのかを医師や看護師とミーティングします。医療的な重症度より、どちらかと言うと看護重症度に沿って付き添い人員数や、搬送手段を決めていきます*。
(弊社では、患者さんの状態をチェックすると自動的に搬送手段を選択するソフトを使用します。)

搬送手段は、ストレッチャー、車椅子、自走などですが、付随して点滴や人工呼吸器などを装着している患者さんもいらっしゃるのでこの点も頭の中に入れておきましょう。敷地外移転の場合は、患者搬出場所(正面玄関患者待合室になることが多い)に患者だまりを作って、歩留まりを防ぎます。もちろん患者さんの状態には最大限配慮した上でのことになります。患者の搬送に車両を利用する場合に、外部の運転手(タクシー会社等)にお願いすることもあると思いますが、労務規定上、必ず一定の時間内に一定の時間以上の休憩を運転手に取らせないとならないので、この点にも配慮した計画表を作成しなければなりません。また、つい忘れがちなのが患者さんへの食事です。昼食や夕食の時間に、どの患者さんが新病院のどこにいて、どの患者さんが旧病院のどこにいるのか? を明確にしておくことが重要です。朝から順調に搬送が済み、計画以上に搬送してしまったら、いるはずの患者さんがいないということになりかねません。患者さんの食事は、とろみ食や減塩食など患者さん個々に合わせて作られますので、栄養部との連携が必要です。また職員の昼食をどうするのか? ということも場合によっては考えておくことが必要です。患者搬送計画書は、何号室のどの場所の患者が新病院の、どの病室のどの場所のベッドに移動するのかということを時間軸や搬送ルート、搬送方法、搬送担当者等を表している計画表です。患者搬送については、大きく旧病院内搬送、(車両等による)新病院への搬送、新病院内の搬送に区分されます。敷地外搬送の場合、ストレッチャーで旧病院内搬送、車両による搬送、またストレッチャーで新病院内搬送などがあり、患者の移乗が発生します。移転日には何人もの患者の移乗を行わなければなりません。慣れていない職員が多くの患者の移乗作業をすると腰などを痛めます。そこで活躍するのがセラピストの方々です。普段から慣れていますし、男性職員が比較的多い部署でもあります。全ての職員の方々がそれぞれの役割を担って全員で病院移転に参加してもらいます。

物品についても移送計画表を作成します。物品の移送については、移送順番がポイントです。移送する順番を間違えると、物品を移送したが、置く机がまだ来ていない。部屋の手前に大きな移送物が先に搬入され、後から来た物品が部屋に入らないなどの問題が生じかねません。特に放射線科、検査科の物品(医療機器)は精密機器も多いので、慎重に移送しなければいけません。移送してから再稼働までの調整に数日要する機器などもありますので、事前にヒアリングして、移送する順番に注意して計画表を作成します。この計画表には新規購入物品の搬入計画も入ってきますので、搬入業者の交通整理も同時に行わなければなりません。物品担当と患者搬送の担当者は別の人物にしておいたほうが良いでしょう。新規で購入した物品ではなく、移送する物品(特に医療機器)の中には、引っ越し業者では取扱いができない精密機器があり、そのような機器を移送する場合はメーカーに移送を依頼するのですが、移送料が発生する場合があります。またメーカーやディーラーに移送をお願いする場合も、勝手に自己都合で移送するのではなく、物品移送計画に沿って移送してもらうことを説明し了解してもらいましょう。移送計画に反映させるために機器毎に移送に当たっての注意点(水に注意/振動に注意等)や解体、組立てなどの工程が必要なのかなど事前にメーカーやディーラーに必要事項を記入していただきます。その記載内容を基に移送計画を作成することになります。機器移送計画表は物品移送計画表とは別に作成し、縦軸に個別の機器名。横軸は時間軸の計画表を作成します。機器類は移送後に現場職員立ち合いのもと、稼働確認を行います。移送後時間が経ってから、稼働しないという問題が発生しても、原因が移送によるものかどうか特定しにくいので、移送後直ちに稼働確認を行うことが理想です。移送に伴う過失であれば、(入っていれば)保険扱いになります。移送による過失がなければ、修理費などを請求されることも考えらえます。ちなみに機器以外の物品移送計画表はエリア単位での移送計画にすることが多いです。

リハーサル

事前に職員参加のリハーサルも行います。特に患者搬送については、ストレッチャーや車椅子などを実際に使用し、患者役の職員も配置して実際に病室から正面玄関などまで搬送し、患者の移乗もその場で行います。時間も計測しておき、問題点や課題の有無、その解決方法などの検討を行います。必要に応じて移乗の訓練なども個別に実施してもらうこともあります。

リハーサルは部署別と全体の二種類が考えられますが、特に全体リハーサルは必ず実施した方が事前に問題点が判明することもあるので必ず実施しましょう。職員全員参加のリハーサルは現実的には実施困難だと思いますので、複数回実施するか、参加者から不参加者へ伝達、指導となります。

梱包と開梱

荷物の梱包と開梱ですが、移設を担当する会社との契約によって異なります。職員として楽なのは、梱包、開梱とも移送会社側が実施してくれる契約内容ですが、当然費用は高くなります。現実的には梱包、開梱とも職員が実施することになるのが多いと思います。問題は直前まで使用しているものが多く、移設後はすぐに使用する物品が多いということです。梱包作業は、事前に可能なものはなるべく実施しておくことが大事です。それでも残業して梱包をする部署がほとんどでしょう。開梱は梱包に比べれば時間はかかりませんが、大量の梱包に使用した段ボールなどが発生します。この後始末のことも考えると、やはり移設、翌日診療開始は避けた方がよいですね。

二回に渡り、「病院の移転」についてお話ししました。まだまだ気を付けなければいけない点などもありますが、少しでも雰囲気が伝わったら幸いです。移転を計画している病院様がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。

皆さんは、どう思いますか?

次回は10月7日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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