第61回 医療機関の管理とは 人材管理編 「優資格者を確保せよ」

前回のコラムで、医療機関の情報管理について記載しましたが、医療機関が管理するものは「情報」だけとは限りません。そこで、情報以外の管理について、今回は考えてみたいと思います。

人材管理

病院という組織の特色、そこに働く人の特徴をまとめると、以下のようになります。

  • 特色1:スペシャリストの集団(有資格者の集まり)

    病院で働く人々は、言うまでもなく国家試験やそれに準じるような資格を有している人が多くいる職場です。資格者のみに許される仕事も多く存在します。

  • 特色2:チームによる連携活動が多い

    「チーム医療」という言葉も既に定着しているように医師と看護師、さらに薬剤師など多くの職種の医療従事者と連携して患者の治療にあたることが多くなっています。

  • 特色3:自立性が高い

    職種や自部署の仕事の範疇が決められていることが多いので、部署ごとの自立意識が強く、さらに対患者への早急な対応も求められるので、個人に対しても短期間での自立を要求されることが多いです。

  • 特色4:組織硬直性が強い

    部署異動や職務転換などがほとんどなく、部署内異動はあっても部署の垣根を越えての異動はほとんどありません。組織内の人事流動性は極めて低いということです。

  • 特色5:離職率(院外流動率)が高い

    転職、離職率が非常に高いです。病院間での人材移動が多いということになります。さらに退職後に再雇用するなども頻繁に行われます。

*上記のいくつかの特色に関連して、部署間のセクショナリズムが強いことも医療機関の特色です。

上記の特色から考えられる問題点は、人数だけの確保が主となってしまい、「優秀な」人材をいかに確保するかと言う視点が欠如している場合が多いことです。資格を保有していることは絶対条件ですが、そのうえで高い能力を有している人材を確保するか。対策や手法を考える必要があります。さらにもう一つ問題点を上げるとすれば、組織マネジメント力の脆弱性が考えられます。組織(部署)の自立性が高く、スペシャリストの集団で異動もなくセクショナリズムも強い組織に対して、タテの組織運営(指示命令系統など)は弱いことが多いです。
また、人材管理が弱い背景として考えられる点は、病院という医療を提供する職場は営利を追求してはいけないという固定概念が強いこともあります。職員間競争などの原因となる能力給の導入などの賃金施策は医療機関では適さないと今までは考えられていました。
さらに医療機関の収益は診療報酬点数という国の政策上の保護下にあり、職員の能力の高低により収益が変化することはなく、職員個人の能力向上の努力が経営上の利益に必ずしも結びつかないといったことも背景の一つです。

医療機関の組織(人材)の特色と問題点を指摘しましたが、そのうえで人材マネジメントの重要性を論じたいと思います。
病院は法令に定められているように医療行為の収益(医業収益)以外の収益がほとんど認められていません。マーケティングでよく用いられる4Pに沿って考えます。

  • Product(商品)

    診療行為による収益(医業収益)が収益の大部分を占める。文書料や差額別途代など(医業外収益)はあるが、新たな商品を独自に開発することはない

  • Price(価格)

    診療報酬点数という定められた定価が決められており、医療機関自らによって価格を決定する仕組みを持たない

  • Place(流通)

    対象顧客は「患者」であり、地域密着型の経営になりがちである。医薬品や診療材料などの価格も公定価格であり、医療機関がコントロールできる範疇が少ない

  • Promotion(広報)

    医療機関が広告できる範囲には、法的な規制がある。自由なPR活動は不可能

以上のように医療機関の経営には、多方面からのさまざまな制限や制約があります。そのなかで収入面を向上させるには、医療の質を向上させることにより他病院との差別化を図り、患者を多く集めることが重要です。そのためには「医師」を中心とした人材の確保が最も重要な施策となります。中でも医師の採用が最も有用であり、優秀な医師であれば、患者を引き付ける力は強く、さらに効率性(手術時間が短くなり、件数が多くなるなど)も高くなり、収益や利益が向上することが期待できます。
また薬剤師であれば、病棟や手術室に常勤する薬剤師、服薬指導など。リハビリであればベッドサイドリハビリ、リハビリによる在院日数短縮などいずれの職種も優秀な人材でなければ実現が難しい仕事が多くあり、近年の診療報酬改定でも、このような質の高い業務を高く評価する傾向があります。従って、単なる有資格者ではなく、優秀な有資格者(優資格者)を確保することが医療機関の経営にとって非常に重要な経営戦略の一つになります。

医療機関にとって優秀な人材を確保することが大事であることはご理解いただけたと思います。それでは、どうやって優秀な人材を確保すれば良いでしょうか?

職場環境の改善から始めよう

関係者が自分たちの置かれた勤務環境の現状を把握し、抽出した課題に対する改善を行うことにより、創意工夫による経営の安定や、職場がより魅力的になることにより人材確保にも貢献する効果が期待されます。労働時間管理をはじめとする適切な労務管理や健康支援、働きやすい環境整備はもちろんのこと、ワーク・ライフ・バランス(WLB)やキャリア形成なども視野に入れ、働きがいの向上を目指した環境整備に関わる幅広い取り組みを目指すことが重要です。そのために、各医療機関等において、「医師、看護職、薬剤師、事務職員等の幅広い医療スタッフの協力の下、一連の過程を定めて継続的に行う自主的な勤務環境改善活動を促進することにより、快適な職場環境を形成し、医療スタッフの健康増進と安全確保を図るとともに、医療の質を高め、患者の安全と健康の確保に資すること」を目的として、各医療機関などのそれぞれの実態に合った形で、自主的に行われる任意の仕掛けが最も効果的です。
職場環境の現状分析から始め、職環境の改善に進む。そのうえで、人事評価制度などの政策に移していくといったステップを踏むことが現実的な手法だと考えます。

皆さんは、どう思いますか?

次回は1月18日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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