第134回 病院移転大全~その1~

「引っ越し」をした経験がある方は多いと思いますが、「病院の引っ越し」を経験した人はあまりいません。今回は、筆者のこれまでの病院移転経験で得られた知見をまとめて公開したいと思います。

病院移転大全~その1~

皆さんは、「引っ越し」をした経験がある方は多いと思いますが、病院に長く勤務している方でも、「病院の引っ越し」を経験した人はあまりいません。そもそも個人宅の引っ越しと「病院の移転」とでは多くの点で異なり、移転においては経験が非常に重要です。筆者は今まで病院移転を多く経験してきましたので、今回のコラムでは、これまでの経験で得られた知見をまとめて公開したいと思います。これから病院の移転を考えている関係者のお役に立てれば幸甚です。

ステップ

多少の前後はありますが、病院の移転のステップは以下のとおりです。

  1. 移転日
  2. 担当者、組織(プロジェクトチーム)
  3. 医療機器担当・入院患者担当・什器担当
  4. マスタースケジュール・個別スケジュール
  5. 現状図面・移転先図面・移転前後リスト(From / To リスト)
  6. 移転物・置地物・新規購入物
  7. 各部署打ち合わせ
  8. 移送ルート
  9. 諸官庁打ち合わせ
  10. シミュレーション
  11. リハーサル・内覧会
  12. 移転当日
  13. アフターフォロー

移転日の決定

移転に関して初めに決定しなければならない事項は、いつ移転するかという「移転日」です。病床規模や移転内容(全面的な敷地外移転なのか、一部の施設の敷地内移転なのかなど)にもよりますが、一日で終了するパターンから数日を要する場合まであります。移転当日は当然ですが、外来も入院も診療は不可能です。救急患者の受け入れもできません。診療ができないということは、医業収益も減少することになります。このようなもろもろの影響を考えると祝祭日などを含めて休日に移転を行うことが、もっとも望ましい移転日となります。

移転に数日間を要するような病床規模の大きな病院は、ゴールデンウィーク期間中を移転日と設定することが多いです。ただし、ゴールデンウィークも年によって飛び石連休になるなど、さまざまなパターンがありますので注意してください。移転日の翌日が平日、特に月曜日というのもできれば避けた方が良いです。移転は何らかの予想外のことも起きますので、その対応に追われながら、まだ不慣れな場所で通常診療することは非常に職員に対し負荷がかかりますし、事故にもつながりかねません。可能であれば移転日の曜日は週末の曜日とし、移転後万が一の対応ができる時間的な余裕がある日時を選択します。

最初に移転日を決定する意義は、これだけではなく、職員に対しての意識付けの観点からも有効です。移転日が決まれば、そこから逆算して職員自身が「今、何をすべきなのか」を意識して、移転に関してのプロジェクトに対し積極的に協力してくれます。この点からもはじめに移転日という目標を明確にすることは非常に重要です。

さらに移転日が決定したら院内に掲示します。掲示することで患者さんへの啓発活動にもなります。移転先近隣の住民に対しての効果的なアピールにもなります。特に全面的な敷地外移転の場合、現在の外来患者の一部は通院が不便になって移転先の病院に受診することを躊躇(ためら)う人もいます。移転先の病院に通院してもらうためにも希望あふれるイメージの移転ポスターを掲示しましょう。また、「病院の引っ越し」は移転先近隣の住民に新規患者になってもらうためにも有効な手段です。

プロジェクトチーム発足

プロジェクトチームの発足は移転日の決定と前後しますが、移転という一大プロジェクトを経験のない職員だけで運営することは非常に危険です。「移転」は絶対に失敗が許されません。多くの場合、移転の一年前くらいから移転準備は始まります。移転の業務内容は多岐にわたりますので、数人で担当分野を決めて実行します。これらを統括する責任者は、病院職員になりますが兼務ではなく、期間限定の「移転業務専任者」とします。

この移転業務専任者は、病院の経営層との打ち合わせ、現場の意向確認と、各担当者からの報告、相談などに対しての指示役となります。前述した「担当者」の分担については、移転内容にもよりますが、「入院患者担当」「医療機器担当」「什器担当」となります。

  • * 株式会社FMCA作成

アドバイザリー的な役割として、移転経験者をこのプロジェクトチーム内に必ず入れておくことをお勧めします。可能であれば移転経験者が各担当者となることが理想です。ただし移転経験者が非常に少ないため、病院内だけで探すのは現実的にはかなり困難です。病院移転を専門にマネジメントする会社も日本には数社ありますので、そのような会社にこの部分だけを委託することも一つの方法です。

次回のコラムで、各担当の具体的な業務内容と注意点などをお話しします。

皆さんはどう思いますか?

  • * 移転に関してのご相談は以下にお願いします。
    【株式会社FMCA】fujiimca@gmail.com

次回は3月8日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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