第133回 予算管理

一般的に予算を作成する目的は、「利益の最大化」にありますが、病院経営においては、これのみが目的ではありません。しかし、経営を継続させるためには、重要なツールでもあります。今回は「予算管理」について解説します。

予算管理

あと数カ月で新年度になりますが、新年度の予算編成の作業をしている最中のところも多いのではないでしょうか。今回のコラムでは「予算管理」についてお話しします。

1962年に大蔵省企業会計審議会が公表した原価計算基準によると、予算とは

予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるもの

とあります。予算と実績の差異分析を適時行い、経営の効率化に役立つツールといえます。予算作成や差異分析の目的は「利益の最大化」ですが、病院においてはこの「利益の最大化」(重要な課題ですが)のみが目的ではありません。この部分が一般企業と異なる点です。

病院経営における予算管理の考え方

病院経営では、収益の減少を伴わないと考えられる状況でも医療サービスが低下するようであれば、そのような費用削減などは行わないと考えます。逆に費用が増加しても収益がすぐに増加するとは考えにくいような内容の場合、医療サービスが向上するようであれば実施するということもあります。このように、病院は純粋に「利益の最大化」のみを追求する予算管理ではありませんので、予算管理に力を注いでいる病院は多くありません。おざなりに予算を作成している病院も見かけます。

しかし、たとえ「利益の最大化」が唯一の目的ではないとしても、予算管理は非常に重要なツールであることに違いはありません。むしろマイナス改定が続き収入が増えることが難しく、さまざまな費用が高騰している現在、経営を継続させるために最も必要な経営ツールであると考えます。

予算管理の三つの機能

計画機能
病院の目標設定、目標を具現化した目的の設定、原価や利益率などの利益計画
達成機能
計画と実績の対比、差異分析、修正(代替)計画、修正後の差異分析
調整機能
各部門計画の資源配分の調整
  • * 株式会社FMCA作成

予算管理の機能を三つに集約したのが上記の表です。
一つ目の機能は病院全体の目標を受けての各部門目標を計画するということです。そのために原価や利益率などの情報が必要となりますが、多くの病院はこの数値を持っていません。クリニカルパス別の原価計算(注)を実施することを強くお勧めします。全てのクリニカルパスの原価計算を行わなくても、病院の上位10疾患だけでも行うだけでも活用範囲が非常に広いです。

二つ目の計画の中心は差異分析と差異が大きければ計画を修正(代替)するということです。この段階でもクリニカルパス別の原価計算があれば、収益の構造も費用の構造も明らかになっていますので、差異分析も修正も簡単に行えます。

三つ目の計画は計画実行のための資源の配分を調整する機能です。費用対効果や今までの実績などを参考に調整します。

予算の体系は以下の図を参考にしてください。

医業収益は、上記図以外にも室料差額や保健予防活動収益もありますが、特別な事情がなければ外来収益と入院収益でよいと思います。医業収益予算のベースには特に経営環境が大きく影響します。特に診療報酬改定、医療関連法改正、近隣病院の動向など、外部環境の影響を強く受けますので、日ごろから情報収集を行う必要があります。病院の収益には季節的な要因もあるため、過去の実績も参考にします。具体的な数値目標の設定には、損益分岐点を参考に決定します。

費用構成割合が高い材料費と給与費に注意

一方で費用ですが、特に費用構成割合が高い材料費と給与費に注意が必要です。また、設備関係費は減価償却費が含まれる科目ですので、高額な医療機器の購入予定や増改築などが予定されていたらこの科目にも注意が必要です。

予算管理上、費用を変動費と固定費に分類することも必要です。変動費とは医業収益によって増減する費用のことです。代表的な変動費は材料費です。固定費は医業収益の増減に影響されない費用のことで代表的な費用は給与費です。ちなみに費用を変動費と固定費に分類しないと、前述の損益計算値も算出できません(計算に必要です)。

予算管理項目は損益計算書(PL)の科目が基本です。それぞれの病院の状況に合わせて予算管理する項目は変更されてよいと思います。しかし、あまり細かく、効果があっても低い額のものは特別の理由がない限り予算管理項目には入れないほうがよいでしょう。

予算編成の実務ですが、一般的には、まず経営方針に基づいて作成されます。次に中長期利益計画を策定し、短期利益計画を策定しますが、この短期利益計画が予算管理です。経営者にしっかりと予算編成の段階から関係してもらうことも成功のポイントです。

皆さんはどう思いますか?

  • (注)クリニカルパス別原価計算のご相談は以下にお願いします。
    【株式会社FMCA】fujiimca@gmail.com

次回は2月8日(水)更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

中小規模病院向け医療ソリューション 電子カルテシステムER

電子カルテシステムERは、カルテ入力やオーダリングの機能をはじめ、部門業務を支援する豊富な機能を搭載。医療施設の運用に合わせ部門システムや介護福祉システムとの連携も柔軟に対応でき、業務の効率化と情報共有を支援します。

ワイズマン介護・医療シリーズ 医療・介護連携サービス MeLL+(メルタス)

医療・介護連携サービス「MeLL+」は、地域包括ケアや法人内連携など、医療と介護のシームレスな連携を実現する医療・介護連携サービスです。医療関係の情報と介護関係の情報をクラウドのデータベースに蓄積し、それぞれの施設から「必要な情報を必要な時に」どこからでも共有・閲覧することができます。

この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

お問い合わせ・ご依頼はこちら

詳細についてはこちらからお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-220-449

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

ページID:00236958