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第139回 病院移転大全~その6~
前回は移送や搬送をスムーズに行うために必要な手順を解説しました。今回は、これまで解説した内容以外のその他の諸注意事項について解説します。
病院移転大全~その6~
その他の諸注意事項
移送ルート
前述しましたが、モノのルートと患者のルートとを区分すること。時間帯で区分しても良いですし、ルート自体を区分してもどちらでも構いません。さらに移転当日が雨天だった場合の、雨天用ルートも考えておく必要があります。
諸官庁との打ち合わせ
当該病院が救急指定病院だった場合、移転前後は救急車の受け入れは困難ですので、管轄の消防隊と事前に相談にする必要があります。いつまで旧病院での受け入れが可能なのか、いつから新病院で受け入れが可能になるのか。救急車を受け入れられない期間に救急患者を受け入れていただく救急病院への挨拶も必要です。また新病院の救急車の搬入ルートは? といった内容が相談内容となります。
新病院の運用が開始されたら、消防隊の方々に内覧していただく機会を作りましょう。
警察への事前相談も必要です。特に移転当日、モノや患者が旧病院と新病院の間で関係車両が行ったり来たりします。周辺の交通事情に影響を及ぼす可能性もありますので、移転当日のスケジュールをお知らせしておいたほうが良いです。交通整理に来てくれる場合もありますし、アドバイスをくれることもあります。
シミュレーション
移送の計画を机上で作成したら、実際にシミュレーションを行います。机上では想定していなかった内容が明らかになることもあります。さらに移転当日に想定外のことが発生した場合、現場を一度でも見たことがあるのと見たことがないのとでは、対処の方法が異なることもあります。
シミュレーションを行う場合は、曜日や時間帯など、できるだけ実際の移転日の状況に合わせて実施しましょう。
リハーサル
リハーサルもシミュレーションの一部です。移転計画に則って、実際に患者役の職員を乗せたストレッチャーを移送してみます。エレベーターの待ち時間や廊下の狭さ、具体的にどの場所が注意する場所なのかが職員の皆さんが実感してもらうことが重要です。またストレッチャーなどからの移乗を職員に経験してもらい、移転当日の具体的なイメージ作りにもなります。
リハーサルは基本的には一回で良いですが、職員の希望があれば部分的なリハーサルをさらに実施しても良いと思います。
シミュレーションとリハーサルの結果から、移転計画を微調整します。
移転前日と当日
移転前日まで病院は診療を行っていることが多いため、移転前日の診療が終了してから荷造りを現場で始めることになります。部門や部署によってはもう少し早くから荷造りを開始できるところもあると思いますので、早めに開始可能なところは荷造りを終わらせていただき、他部署への荷造り応援に回ってもらいます。移転プロジェクトのメンバーもこの時は各部署に荷造り応援として入ります。
移転当日は、移転計画に沿って、各自行動します。移転プロジェクトメンバーは各自担当部署の懸念される部署などの現場に行きます。しかし、プロジェクトリーダーは必ず移転本部にいるようにします。その理由は移転当日の想定外事項のジャッジのためです。想定外の事項の収集に時間を要していては、移転計画全体に影響を及ぼすこともありますので、プロジェクトリーダーの的確でスピーディーな判断、指示が求められます。移転当日は必ず想定外のことが発生すると考えておきましょう。
移転当日は多くの機械も搬送されます。機械が搬送された直後、必ず機械の稼働確認を行います。したがって、各部署の人員は旧病院の搬出チームと、新病院の搬入チームとに分けておく必要があります。搬出チームは搬出が終了したら、新病院へ移動し、搬入された物品の荷ほどき、整理に当たります。
機械の稼働確認をすぐに行わなかったことを理由に、後になって機械の不具合について搬送業者が保証を拒んだ事例もあります。搬送直後に稼働確認を行い、稼働を確認したサインをする用紙を準備しておくと搬送業者とのトラブル防止にも役立ちます。
新病院がいつから運用開始するかにもよりますが、移転当日に全ての荷ほどきをする必要はありません。しかし、多くの場合荷造りよりも荷ほどきのほうが時間をかからないようです。荷ほどきの際に出るゴミですが多くの場合、搬送業者が回収してくれますので、部署の前(廊下)にゴミを出しておく(搬送業者が回収します)などのルールを決めておく必要があります。
リハーサルと内覧会
移転後、新病院の運用が開始されるまでの間にリハーサルと内覧会を行います。内覧会は地域住民向けと医療関係者(地域の医療機関や消防隊など)とに分けて実施すると良いでしょう。特に地域住民向けの内覧会は地域住民に患者役をボランティアでしていただく参加型の内覧会にすることをお勧めします。将来自院の患者となるかもしれない、地域の住民に少しでも早く新病院に慣れていただくためにも地域住民向けの内覧会は重要です。
さらにこの地域住民向けの内覧会が職員にとってはリハーサルも兼ねています。地域住民向け内覧会で慣れていないところを見せたくないということであれば、内覧会の前に職員によるリハーサルを行っておきましょう。
医療関係者向けの内覧会は、全体内覧と個別内覧のコースを用意しておきます。
全体内覧コースは、文字どおり、新病院全体を相対的に内覧します。個別内覧は、内覧者の専門に合わせた内覧コースとします。その場合内覧案内者は、もちろん専門にあわせた新病院の担当者(医師を含む)とします。患者様を新病院にご紹介していただくわけですから、安心して患者様を紹介してくださいと内覧会の機会を通じてアピールすることができます。
アフターフォロー
「移転が完了して新病院の運用が開始されたら終了」ではなく、いったん振り返り、反省点を挙げましょう。必要であれば、何か行動に移さなければならないことも出てくるかもしれません。これら全ての事柄が終了して移転プロジェクトチームの解散です。
終わりに
6回にという長期にわたり、病院の移転について述べさせていただきました。
病院の移転というプロジェクトは医療関係者自身にとっても、一生のうち一回経験するかどうかのプロジェクトです。そしてこのプロジェクトは決して失敗してはならないプロジェクトでもあります。病院の移転という稀有な体験を仕事柄多く経験した筆者が、その内容を皆様と共有したいという想いから記述させていただきました。私自身が実際に経験した内容を中心に記述しましたので、これから移転を考えている、あるいは移転した経験がある方々とは状況が異なることもあるかもしれませんが、ご容赦ください。これらの記述内容が皆様のお役に立てば幸甚です。
- * 移転に関してのご相談は以下にお願いします。
【株式会社FMCA】fujiimca@gmail.com
次回は8月9日(水)更新予定です。
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