第78回 介護医療院

2018年4月のタイミングで新たに開設が可能となったのが、「介護医療院」です。この介護医療院は介護保険施設の一つという位置づけです。まだまだ開設が許可されるようになったばかりで、どのような状況になっていくかは、今後の動向を見ていかないとなりませんが、今回は、そもそも「介護医療院」とはどういった施設なのか、概要を述べていきたいと思います。

介護医療院

本コラムでも、2018年度診療報酬改定の概要を紹介しました。同じ4月のタイミングで、新たに開設が可能となったのが、「介護医療院」です。

参考:厚生労働省
介護医療院について

この介護医療院は介護保険施設の一つという位置づけです。まだまだ開設が許可されるようになったばかりで、どのような状況になっていくかは、今後の動向を見ていかないとなりませんが、今回は、そもそも「介護医療院」とはどういった施設なのか、概要を述べていきたいと思います。

介護医療院という施設が新たに考えられた背景には、介護保険適用型の療養病床の廃止(予定)があります。この療養病床が廃止になった後に、どのような形の姿にするのか、「療養病床の在り方等に関する検討会」が設置され、議論が重ねられてきました。2016年1月には、「療養病床・慢性期医療の在り方の検討に向けて~サービス提供体制の新たな選択肢の整理案について~」というレポートの中で、医療を内包した施設類型型(医療内包型)と医療を外から提供する住まいと医療機関の併設類型型(医療外付け型)が提案されました。これが、介護医療院の原型です。最も大きな違いは、療養病床は病院(診療所)ですが、介護医療院は、病院(診療所)ではないという点です。

介護医療院の施設基準は、入居者の居室面積が8m2/人以上とされましたが、前述の療養病床からの転換の場合であれば、6.4m2/人でも可能とされました。6.4m2以上8m2未満の場合は、所定の単位数が25単位減算されてしまいます。前提が療養病床からの転換促進、転換しやすくすることが目的ですから、減算という措置で収益は減りますが、改修工事など大きな費用を掛けずに転換できるというメリットを打ち出しています。
 また、介護保険適用型の療養病床からの転換の場合、I型が目標になると思われますが、I型サービス費(I)の基準などについては、看護配置6対1以上。看護職員に占める看護師割合が2割以上。介護配置4対1以上。重篤な身体疾患を有する者および認知症と身体合併症を有する者が入所者等に占める割合が50%以上。喀痰吸引、経管栄養またはインスリン注射を実施した者が入所者等に占める割合が50%以上。回復の見込みがなく、ターミナルケア(終末期医療)が必要な者が入所者等に占める割合が10%以上。入所者の生活機能を維持、改善するためのリハビリテーションの実施。地域に貢献する活動の実施が許可条件となっています。

基本報酬の比較

転換を促進しているのであれば、利益誘導という手法もあります。そこで、介護療養型医療施設の基本報酬と、介護医療院の基本報酬を比較してみたいと思います。

介護療養型医療施設の基本報酬

多床室、看護6対1・介護4対1の場合(単位:日)

要介護度療養機能強化型A療養機能強化型Bその他
要介護度1778766745
要介護度2886873848
要介護度31,1191,1021,071
要介護度41,2181,1991,166
要介護度51,3071,2871,251

介護医療院の基本報酬

I型療養床

要介護度サービス費(I)サービス費(II)サービス費(III)
要介護度1803791775
要介護度2911898882
要介護度31,1441,1271,111
要介護度41,2431,2241,208
要介護度51,3321,3121,296

介護療養型医療施設の基本報酬と、介護医療院のI型療養床の基本報酬を比較すると、介護療養型医療施設の基本報酬に25単位加えたものが、介護医療院のI型療養床の基本報酬になっていることが分かります。介護療養型医療施設で算定できる加算点等は、介護医療院に転換した後も、同様に算定できるとされています。さらに、早期に介護医療院に転換した場合には、そのインセンティブとして「移行定着支援加算」という加算点が算定できます。この移行定着支援加算を算定する要件は、介護療養型医療施設であり、医療保険適用型療養病床または、介護保険適用型療養病床から転換した介護医療院であること。転換を行った後に介護医療院を開設した等の旨を地域の住民に周知して、介護医療院に入所した人やそのご家族等に説明を行っていること。そして、入所者および、そのご家族等が地域住民等と交流(介護予防教室、認知症カフェなど)が可能になるように、地域の行事や活動などに積極的に関与していることが要件です。この加算点は、最初に転換した時期を起算日として、1年間に限り算定が可能です。点数は93単位/日ですので、施設基準で減算される25単位を上回る単位が算定可能ということです。
介護医療院は前述したように、病院(診療所)ではなくなり、「施設」になりますので、一度転換してしまったら、「やっぱりやめた」ということはできません。元に戻ることはできないのです。目先の利益だけに捉われて転換するのではなく、中長期的な経営計画に則って転換するくらいの経営者の覚悟が必要です。

介護医療院の提供するサービス内容

介護医療院の提供するサービス内容

  • 個別ケアとして、利用者の意思、趣向、習慣の尊重
  • ACP(アドバンス・ケア・プランニング)として、人生の最終段階における医療と介護
  • 生活期リハビリテーションの実施
  • 廃用症候群からの脱却
  • 自立支援介護(食事・入浴・排泄)
  • 摂食嚥下、栄養、口腔機能、口腔ケア、褥瘡防止
  • 通所リハビリ、訪問リハビリ、短期入所
  • 地域貢献(介護者教室、出前講座、カフェ、ボランティア、地域づくり)

入所される本人の意思や考え方、その方の長年の生活習慣を尊重しますので、入所者個人単位でのケアが重要です。病院とは違い、一斉に起床したり、就寝したりする、ということを行わないこともあり得ます。また、人生の最終段階として、医療とケアの取り組みも重要です。「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(注)では、ACPが提唱されており、特に終末期のような慢性期の医療や在宅医療に対応するものであり、介護医療院においてもACPの介入が必要な利用者は多くいるとされています。さらに介護医療院は医師や看護師がいますので、リハビリテーション、ショートステイなどの在宅療養の支援も提供可能です。

(注)参考:厚生労働省
人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(PDF;101KB)

考えられる課題としては、圧倒的に知名度の低さでしょう。医療業界の中でさえ、介護医療院の詳しい内容をご存じない方もたくさんいらっしゃいます。ましてや、一般の国民、地域の住民に至っては、知っている人の方が少ないくらいの知名度でしょう。また、利用者の個々のニーズに合わせた個別対応が、経営を圧迫しないかどうかも重要な課題です。今は転換促進策として、インセンティブの加算点などもありますが、これらの点数はいずれ無くなるか、減算されます。そのときに経営が成り立つのかということも考えておかなければなりません。再び医療施設に戻ることはできないのですから。

皆さんは、どう思いますか?

次回は6月13日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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