第79回 環境変化(高齢化)に合わせた経営戦略

現在の日本は総人口は減少していますが、高齢者の数は増加しています。高齢者の身体的特徴は、「病気になりやすい」、「病気が治りにくい」、「複数の疾病に罹患している」ことなどが挙げられます。医療機関の顧客である患者は高齢者であることが多いため、高齢者患者が多い状況に合わせた経営戦略を考える必要があるのではないでしょうか。

環境変化(高齢化)に合わせた経営戦略

現在の日本は少子高齢化であり、総人口は減少しています。しかし高齢者の数は増加しています。問題は、高齢者の数の増加ではなく、これほど早く高齢化率が上昇していった国は、世界のどこを見ても見当たらないということです。

内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、団塊の世代が後期高齢者の75歳に達するのが、2025年です。同じ年に65歳以上の高齢者の数は、約3,677万人となり、2042年には、3,935万人とピークを迎えて、その後は減少していくと予想されています。しかし、年少人口(0~14歳)、生産年齢人口(15~64歳)も減り続けていますから、高齢化率は、その後も上昇を続けます。2065年には、高齢化率が38.4%となり、日本の総人口の約2.6人に一人が65歳以上になる見込みです。

図:高齢化の推移と将来推計

*出典:内閣府 平成29年版高齢社会白書(全体版)第1章第1節 高齢化の状況
1 高齢化の現状と将来像

高齢者の身体的特徴は、「病気になりやすい」、「病気が治りにくい」、「複数の疾病に罹患している」ことなどが挙げられます。医療機関の外来待合室を見回しても、高齢者の患者が非常に多いです。
このような人口動態の中、医療機関の顧客である患者は、当然、高齢者であることが多いのですから、(顧客として)高齢者患者が多い状況に合わせた経営戦略を考える必要があるのではないでしょうか。

ストラテジー1:付加価値

多くの医療機関が、保険医療機関であることから、全国統一料金(点数)、統一(医療)サービスと考え、他施設との差別化、付加価値を付けることが難しいと考えている方も多いと思います。しかし、全国統一料金で全国統一サービスであっても、そのサービスを提供できるかどうかは別問題です。機器などの有無や、実施可能な人材の有無などの問題もありますが、統一価格であればなおさら、実施可能・対応可能なメニューの数は、付加価値に繋がります。さらに対応できることが多くなると、他医療機関からの紹介患者も多くなりますので、その視点からも重要です。

ストラテジー2:長期療養可能な体制

現在の医療政策は医療費の適正化(医療費抑制)ということで、在院日数が長いことは良くないとし、診療報酬などでも早期退院などに点数が付き、在院日数が長くなると、医療機関への収入が減少するような仕組みが一部採用されたりしています。現場では、入院したその日に、「当院では2週間以上入院することができないので、次の転院先等を考えておいてください」などと言われます。これでは、患者や患者家族が安心して療養できません。
確かに、急性期医療を担っている医療機関では、入院が長期化すると減収してしまうこともあります。しかし、入院が長期化しそうな患者をどの施設も受け入れができないのかというと、そんなことはありません。今年4月から新しく創設された「介護医療院」なども活用の検討に十分値すると思います。急性期医療機関からの転院患者が多く紹介されることも期待できます。そして何より患者や患者ご家族に安心して療養していただく体制を整え、提供することが重要です。

長期の医療が必要な患者例

脳血管障害/呼吸器障害/意識障害/(入院透析が必要な)慢性腎不全など

ストラテジー3:他医療機関で拒絶される患者を受け入れる

前述のストラテジー2とも共通しますが、他医療機関では、なかなか受け入れが困難な患者を、積極的に受け入れるようにします。

他医療機関が受け入れ困難な患者例

MRSAなどの感染症/高額な抗がん剤や免疫抑制剤投与患者/(夜だけ)人工呼吸器装着者/(症状が進んでいる)認知症 等 複雑な対応が必要(希望)されている患者

このような患者は、高齢者とは限らず、20歳代など年齢が若い方もいらっしゃいます。さまざまな事情で障害が残った方や身体が動かせなくなった方などが対象です。若い患者の中には、会話はできないが、パソコンなど使用して意思疎通ができる人もいます。コミュニケーションが取れれば、看護や介護のスタッフもケアしやすい状況が生まれます。

ストラテジー4:営業活動

今までのストラテジーの準備を完璧に整えたとしても、他の医療機関や地域の住民、患者が何も知らなかったら、意味がありません。そこで、医療機関の部署に「営業部門」を作ります。この営業部門は、単なる自院の宣伝などの広報活動だけではなく、患者や患者を紹介してくれる他医療機関の満足度を上げる活動を行います。この活動もむやみやたらに営業訪問活動するのではなく、きちんとマーケティングを実施したうえで、具体的な営業活動の内容を考え、実行していきます。時には、院長同士のトップセールス活動などの機会もあるかもしれません。四つのストラテジーを紹介しましたが、営業部門の立ち上げが、最も重要なストラテジーだと考えます。

いろいろ戦略を述べてきましたが、もう一つ忘れてはいけないことがあります。それは、誰がこのストラテジーを実行するかということです。医療機関の職員が理解して、納得して戦略を実行に移していただかないと、絵に描いた餅になってしまいます。医療機関の経営層は、まず自院の職員に納得してもらうまで説明を繰り返し理解してもらうことが、最初の一歩かもしれません。

皆さんは、どう思いますか?

次回は7月11日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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