第86回 医療機関の経営概論 その1

なぜ医療機関は倒産するのでしょうか。民間企業の中には、有名なカリスマ的な経営者が何人もいますが、医療機関でカリスマ的な経営手腕を持っている方は、非常に少数です。従って、医療機関職員の能力を活用することが医療機関の経営には重要となります。

医療機関の経営概論 その1

これまでのコラムは、個別の内容について記述してきたことが多かったような気がします。今回から数回は、概論的な内容を記述しようと思います。
いきなりですが、なぜ医療機関は倒産するのでしょうか。医療機関に限ったことではありませんが、原因はいくつか考えられます。まず、資本調達とその資金運用の原則や基本を無視した設備投資があります。過剰な設備投資などが該当します。そして現状の経営を改善できない経営体質です。関連事項として経営者の経営に対する取り組み姿勢の欠如、経営環境の変化を見通す能力が甘く、変化に対応する意思決定が遅かったり、対応策そのものが貧弱だったりすることなどがあります。経営者である院長は「医師」です。医師は医学については非常に長い期間、深い知識を得るために学習します。しかし、「経営」のこととなると、勉強もしてきていないので、医師だからという理由だけで、必ずしも優れた経営者になるとは限りません。名選手が必ずしも名監督にはならないのと同様です。医師として必要な能力と経営者として必要な能力は全く異なります。医師の得意分野は当然、「医療」ですので、自分の得意分野の土俵で話を聞きたがる人が多い気がします。一般的に経営者や医師は、選ばれた人間であるとの意識があるので、エリート意識が強く、環境変化にあまり関心がありません。現状維持傾向が強く、短期的な視野、見通しは優れているが、中長期的な視野は、あまり得意ではありません。自院中心的な思考で、業界全般の活動には消極的です。当然、これらは一般論ですので、該当しない方々もたくさんいらっしゃるとは思いますが、イメージ像としては、大きくかけ離れてはいないのではないでしょうか。
民間企業の中には、有名なカリスマ的な経営者が何人もいますが、医療機関でカリスマ的な経営手腕を持っている方は、非常に少数です。従って、医療機関職員の能力を活用することが医療機関の経営には重要となります。

4つの医療機関の経営戦略のポイント

1.差別化戦略

「他の医療機関とは違う」「自院にしかできない」となれば、全国から患者は集まってきます。他の医療機関との差別化をするには、どうすれば良いでしょうか。意外かもしれませんが、他医療機関と差別化するのは簡単ではありません。医療機関の場合、大学病院などに、最新の医療技術や医療機器が集中していることが多いので、その大学病院等と比べても自院の方が、優れている点を作り出さなければ差別化とはいえないからです。ポイントは、「何か一点に絞ること」です。これだけは大学病院にも負けないという特徴を作り出すことです。疾患でも良いし、手技、技術でも良いので、その一点に人、物、金を集中的に投資して、強化することが大事です。なかでも「人材に関して」が、最も重要です。手術や手技などは、この医師はできるが、こちらの医師は、まだできないなど「人に起因」して可能、不可能が分かることが多いからです。「この手術は僕だからできたんだよ」「この手術は僕にしかできないよ」などの発言をいわゆるゴッドハンドの医師から聞いたこともあります。できる医師を自院のなかで増やしていく人材育成なども時間とお金はかかりますが、このような取り組みも必要です。
注意すべきは、その集中させる点を見誤らないことです。昨年末に、心疾患に特化するという経営判断をした医療機関が休院したニュースが流れました。この医療機関の近くには、有名な病院もあり、差別化しきれなかったということと、地域の住民、患者に心疾患のニーズがそれほど高くなかったという集中する点を見誤ったことが原因です。さらに何かに集中するということは、集中しない分野も出てくるということになりますので、その分野をどうするのかも考えておく必要があります。現在は医療機関の機能分化政策が進められていますので、他医療機関と連携して相互で弱い分野を補い合うことができれば理想的です。

2.新市場開拓戦略

診療所の新規開業時には、必ず実施する診療圏の市場調査ですが、定期的に実施していますか。医療機関の半径2km、5km、10km圏内の人口構成はもちろん、どのような疾患の患者が何人住んでいるのか把握していますか? 把握されていれば、自院で受診している患者数はすぐに分かりますので、シェアは出せます。シェアが高ければ患者分布の範囲を広げる(遠くからも来てもらう)ための戦略を考えます。逆にシェアが低ければ、どこの医療機関に患者は流れているのか。なぜ他医療機関に患者は行くのかなど競合病院との比較調査を行います。
新市場の開拓は、まず現状の市場を知ることから始まります。市場を把握してから、新たな開拓戦略の立案、実行と移ります。そのためには各情報を収集する能力や対応策を立案できる実働部隊が必要です。

3.新サービスの開発戦略

1.の集中させる点や2.の市場調査の結果から、新たな患者サービス内容を考えます。自院しかできない新サービスであれば、差別化にも役立ちます。さらに独創的な患者サービスであれば、新たな市場が開拓できるかもしれません。新しいサービスは、院内の1部署が考え提供することは、まず考えられません。大抵複数の部署が関係して、一つのサービスを提供することになります。従って、部署間の連携が密接であることが要求されます。

4.多角的戦略

医療以外の企業では多角化経営している事例は、たくさんあります。医療機関は、医療だけをやっていれば良いというものではありません。医療機関は医業以外の「その他の収益業務」について、何でも自由に行って良い訳ではないという法的な制限がありますので、その認められている範疇の中でということにはなりますが、医業外収益を得るための戦略も必要です。しかし、何のノウハウもなく医業以外の収益業務を始めても失敗するのは明白ですので、やはり医業周辺の事業ということになります。予防医学、健康管理などから検討を始めるのが良いでしょう。

以上の4つのポイントをご紹介しましたが、いずれも職員個人で実行できるものではありません。ましてや院長自らが行うものでもありません。集団、組織として動く、動かすことが重要です。従って動ける職員、能力の高い職員を育てることが重要なことはご理解いただけると思います。人材育成のなかでも特に、優れた能力を持ち、その能力を発揮できる職員(経営者補助管理者)を育成する仕組みを作り上げることが重要です。全ての職員を育成しなくても良いのです。本人のポテンシャル、意思、性格などを考慮して経営者をサポートする管理者として教育するという医療機関の経営に必要な人材を育成することが、今後の医療機関の経営にとって重要なことであると考えます。

皆さんは、どう思いますか?

次回は3月13日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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