第87回 医療機関の経営概論 その2

前回のコラムでは4つの経営戦略の概要をご説明しましたが、長年、数多くの病院の経営に関わらされていただくうちに、「病院の危険信号」があることに気づきました。今回はその病院の危険信号を10個ご紹介します。

医療機関の経営概論 その2

前回のコラムでは4つの経営戦略の概要をご説明しました。

第86回 医療機関の経営概論 その1

長年、数多くの病院の経営に関わらされていただくうちに、「病院の危険信号」があることに気づきました。今回はその病院の危険信号を10個ご紹介します。

10個の危険信号

(1)病院の理念、経営方針の不明確、不徹底

多くの病院の正面玄関などに、立派な「当院の理念」などが掲げられています。しかし、その理念に書かれてある内容と実際に行われている医療内容が異なることがあります。例えば、理念では「急性期医療を実践する」とあっても、実際は急性期以外の医療も提供していることがあります。その理由が収入のためである場合は、特に危険です。目先の収入に捉われて、自院が目指すべき方向性を見失っていることが多いからです。経営は、判断の連続です。判断に迷った時に下すべき方向の根拠となるのが理念です。職員が自院の理念を言えない病院は危険です。

(2)変化に鈍感、無関心

周辺の医療機関のことや、診療報酬改定など病院経営は、他業界以上に外部環境に影響を受ける業界です。このような特徴のある業界であるにも関わらず現状維持を美徳とし、変化、変更に対し拒絶反応まで示す病院もあります。今まで大丈夫だから、これからも大丈夫という理論なのでしょうか。積極的に外部から情報を得ようとしない、変化に迅速に対応できない病院は危険です。

(3)情報の管理、活用がなされていない

外部から貴重な情報を得ても、その情報を活用しなければ何の意味もありません。そもそも外部の情報に加えて、院内には貴重な情報がたくさん眠っています。月次決算、経営指標数値、原価計算など経営に活用できる院内の情報の管理、活用がなされていますか。経営指標などがすぐに出てこない病院は危険です。

(4)強い専門家志向と特別意識

病院はライセンス取得者の集まりです。誇りや自負を持って仕事をすることは望ましいことですが、その意識が強すぎると危険信号が灯ることがあります。あまりに専門家志向が強いと、全体最適という視点や協調性が低くなります。勤務先である病院の経営などに全く無関心という職員も見かけます。このような職員が多い病院は危険です。

(5)強いセクショナリズム

(4)の事柄と関連しますが、病院は専門家集団であるがゆえに、セクショナリズムが強くなることが少なくありません。他部署で困っていても手助けしない。われ関せずの姿勢。逆に他部署が自部署へ口出ししてこようものなら、非常に強い反発、反撃をしてきます。例えば採血業務は看護師も検査技師も行えます。採血は看護師(検査技師)の業務だから、検査技師(看護師)は、どんなに忙しくても採血業務は手伝わない等の考え方をしないでくださいということです。そのためには、他部署のことにも興味を持ちことも大事です。セクショナリズムを自慢するような病院は危険です。

(6)職員の教育に無関心

医療は日進月歩で進んでいますから、常に勉強しなくてはいけません。「何年前の治療方法ですか」と看護師が陰で言っていることを聞いたこともあります。たとえ医療職では無い事務職であっても、日々勉強は必要です。しかし、教育関連の予算も計上していない病院も見かけます。自己啓発として、自分の責任で勉強することも大事ですが、やはり限度があります。今まで、病院の費用で研修会などに参加したことがないという職員が多い病院は危険です。

(7)各職場に倫理規定がなく、職能中心である

病院はスペシャリストの集団ともいえるので、きちんとマネジメントしないと、職能や技術が中心となり、高い職能などがあれば、他に何も必要ないという考え方に至ってしまうことがあります。このような部門ばかりになってしまったら、あっという間に経営は行き詰ってしまうでしょう。部門別に倫理規定を設けていない病院は危険です。

(8)意思疎通に不備がある組織

知っている職員、知らない職員が混在していては、きちんと業務はできません。これが同じ部署内でも「知っている」、「知らない」とが混在していることもあります。病院は24時間稼働していますので、その体制に合わせて職員の勤務体制も決められています。朝礼などで一回言ったから、全体に伝わったなどと考えている病院はないと思いますが、イントラネット上で、情報発信をしておしまい。という病院は意外に多い気がします。イントラネットなどは、情報伝達の一つでツールでしかありません。意思疎通に問題がある部署は、大抵情報を伝える側に問題があることが多いです。コミュニケーション不足の病院は危険です。

(9)病院という組織の帰属意識が欠如

医師や看護師は、他業界に比べて、非常に転職率が高い職種です。離職率が高いということは、帰属意識が低いことも原因の一つであると考えられます。帰属意識を高めるためには、働きやすい職場にする努力や、良好な人間関係や満足する賃金報酬など総合的な満足度を上げなければいけません。職員満足度調査で、「あなたは家族が病気になった時に自院を紹介しますか」という設問にNoという回答者が多い病院は危険です。

(10)職種間や階層間での意識格差が大きい

病院は医師を頂点とした三角形で揶揄されることが多いです。医療の現場でも医師の指示が無ければ何も始まらないのも事実ですが、医師の言うことを何でも全て聞くということではありません。しかし中には「俺の言うことを聞いていればいいんだ」「口答えするな」という内容の発言をされる方もいます。これは医師に限りません。部下が、あきらめて何も意見せずに、黙って言うことを聞いている職場、病院は危険です。

今回は病院の危険信号をご紹介しましたが、次回は伸びる病院の条件について、記します。

皆さんは、どう思いますか?

次回は4月10日(水)更新予定です。

お知らせ

書籍

病院のマネジメントに関する書籍を建帛社より出版しました。
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新 医療秘書実務シリーズ 2「病院のマネジメント」 医療秘書教育全国協議会 編 藤井昌弘・岸田敏彦・丹野清美 共著(建帛社Webサイト)

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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