第167回 医療DXと医療AI その8~在宅医療~

高齢化の状況は全国一律の現象ではありません。特に都市部で急激に起こり、高齢者人口が多くなると当然比例して死亡者数も増加します。「在宅医療」は現在、都市部を中心に新規開業が活発です。病院以外、すなわち「在宅で看取(みと)る」ということが注目されているのです。

医療DXと医療AI その8~在宅医療~

「在宅医療」は現在、都市部を中心に新規開業が活発です。日本全体の人口は減少していますが、65歳以上の高齢者人口は2025年で3,657万人となり、カナダ一国の総人口の3,400万人を上回ります。このうち、75歳以上の後期高齢者は2,000万人を超えています。高齢者人口は2042年には3,878万人に達すると予想され、その人口はピークを迎えます。75歳以上の人口は、全人口の25%を占めるとされています。

高齢化が進んでいるが病院や病床数は減少傾向

高齢化の状況は全国一律の現象ではありません。特に都市部で急激に起こります。都市部の中でも埼玉県の高齢化スピードが著しく、2010年に75歳以上の人口が15年後の2025年には2倍になりました。高齢者人口が多くなると、当然比例して死亡者数も増加します。日本では8割以上の方が病院で最期を迎えます。

しかし、国の政策上、病院や病床は減少しており、このままだと近い将来に病院で死を迎えられない高齢者が出現する可能性が高いです(買い物難民ならぬ死亡難民です)。そこで病院以外、すなわち「在宅で看取(みと)る」ということが注目されているのです。この在宅での看取りを含む医療が在宅医療です。

注目を集める看取りを含めた在宅医療

具体的な在宅医療の内容は、呼吸補助療法、栄養補助療法、排せつ補助療法、在宅注射療法、補助腎臓療法などがあります。病院で受けられる医療とほぼ同等の内容が在宅でも可能です。しかし、訪問診療の支援が必要ですし、なにより家族の負担が非常に重いため、実際に在宅で行われる医療内容は、血圧測定や脈拍測定、健康相談、服薬指導などが圧倒的に多いです。

在宅医療の担い手、中心的な役割を担っているのは、看護師であることが多いです。もちろん、在宅医療に熱心な医師もいますが、まだ少数派です。それに比べて、看護師は1名いれば訪問看護ステーションの設立ができ、国も積極的に看護師を在宅医療に活用しやすい環境を後押ししています。

急性期医療機関がこの訪問看護ステーションを併設していることが多く、急変時の対応などは、この急性期医療機関が受け持つ仕組みです。このような施設を併設することで、在宅医療へ誘導しやすくなり、急性期医療機関の入院患者管理が容易になるメリットがあります。さらに急変時の対応を実施することで、患者の囲い込みにもつながるでしょう。患者側も急性期医療機関の併設施設という安心感もあり(例えば、何かあったら優先的に入院できるなど)、在宅医療への移行を後押しする要因となります。

実際、患者が在宅医療をするかどうか判断するときに、懸念することの一つに急変時の対応があります。何かあったらすぐに対応してくれる病院や連絡方法などをきちんと整備していないと、患者が安心して在宅での医療にシフトしてくれません。当然24時間対応が必要になりますから、診療所が単独で対応するのは非常に困難です。

在宅医療におけるDX

このような状況にある在宅医療ですが、DXでどのようなことが行われているでしょうか。
在宅医療の診療の現場は患家です。外出先でいかに効率よく診療を行うために患者などの情報を収集するかが重要になります(在宅診療において、収益アップのポイントは何件診療に回れるかとなります)。従って、なるべく安全にかつ効率よく診療を終わらせたいのです。

あるシステムでは、院外でアナログ的なデータを事前に患者情報収集システムの中に取り込んでおくことが可能です。収集したデータは電子カルテと連動しており、医師が診療に利用するだけではなく、その他の職員にも情報共有され、それぞれの専門性の中で診療や診療支援の活動に生かされます。

このようなシステムは、在宅診療の場だけではなく、初診患者の情報収集にも応用が可能です。何件診療に回れるかがポイントと前述しましたが、この分野でも地図アプリとナビなどをベースに効率よいルートの自動作成、誘導などといったものもあります。特にナビについては、車載型よりも、スマートフォン搭載型の方が圧倒的に利用頻度が高いです。
その理由は、スマートフォン上で運用されている電子カルテに記載されている患者さんの住所をタップするだけで最短経路を示してくれるからです。このシステムはデイサービスの送迎などでも使われはじめています。

また問診も単なる電子化ではなく、AIが最適な質問を患者に聞いていきます。質問の回答内容から次の質問内容も変化する仕組みです。このため大事なことを聞き忘れたとか、診察の中でもう一度医師から聞かれることなどがなくなります。将来的には、この問診した内容から(自動)診断が行われ、典型的な処方であれば、医師を介さず処方などが行われることになると考えられます

病院と違って、在宅医療は持っていける医療資源が限られています。そのような環境下で質の高い医療を効率よくこなしていくためには、やはりDXの力が必要です。今後もさまざまなツール、システムの登場が期待できます。

皆さんはどう思いますか?

次回は12月10日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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