第21回 収入改善編 収支分析(原価計算)結果活用

■医療機関の原価計算の活用事例
前回、前々回と医療機関の原価計算の具体的な手法を述べてきました。
原価計算の導入の目的は、言うまでもなく原価計算の結果を利用して近代的な経営を行い、質の高い医療を提供することにあります。
原価計算も計算して、数値を求めることが目的では無く、その結果(数値)を経営に活かすことが目的です。
そこで原価計算の結果を具体的に活用した事例をいくつかご紹介したいと思います。

【注意】
実際は、詳細な数値分析を行い、原因を探求し、その対策を立案、実行を行っています。
記載している数値についてもポイントとなる数値のみの記載となります。

<経費削減に成功した事例>
診療科:整形外科外来

<原価計算の結果および現状分析>
収入額:約6,700万円/月
経費額:約6,890万円/月
固定費率:74.3%、変動比率:28.6%、総経費率:102.9%

※主たる固定費:人件費・一般経費、主たる変動費:医薬品費・診療材料費
◆赤字額が大きくないため、人件費以外の経費圧縮で黒字化が可能と判断した。
(人件費への施策は医師のモチベーションや離職防止のため最終的な手段と判断)
◆変動費内訳の詳細を分析すると、膝関節の疼痛(とうつう)管理に処方される医薬品と診療材料に関する費用が突出しており、さらにその使用頻度も多いことが確認できた。
◆突出した使用頻度になっていた理由は、医薬品、診療材料ともいったん開封してしまうと他の患者に使用できないような容量、規定となっていたため、破棄率が異常に高いことが原因であることも同時に判明した。さらに処方回数も他院に比べ多いこともわかった。

<対策と結果>
◇より小さい容量、規定の製品を探すも適当な医薬品、材料が存在しないことが判明し、また同時に行っていた卸との価格交渉も不調となった(最初は医師に配慮し、同メーカー内製品で探していた)
◇そこで、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の中から探し、安全性や有効性の確認を行い、採用するに値するという根拠となるデータを収集し、医師と何度も議論を行った。最終的には医師の了解を得て採用する医薬品、医療材料の変更を実施した。同時に学術論文から投与量、投与回数など一般的なガイドライン情報の提供も医師に行った
◎半年後に恒常的に黒字を計上する診療科となった

<収入額増に繋がった事例>
診療科:形成外科外来

<原価計算の結果および現状分析>
収入額:約1,370万円/月
経費額:約1,445万円/月
固定費率:92.0%、変動比率:13.3%、総経費率:105.3%
◆赤字の原因は高い固定費にあるのは、明らかだった。さらに収入額の低さも大きな要因と判断した
◆固定費の中の一般経費を詳細に分析したところ、機器リース費率が高いことが判明。これはルビーレーザー(しみやほくろを除去する医療機器)の機器リース費用であり、さらにこのルビーレーザーの使用頻度が著しく低いことも明らかになった

<対策と結果>
◇ルビーレーザーの使用頻度を高めることを前提に、医師と話し合いを行う。医師はルビーレーザーの機器が前任の医師の選択によって機種が決定されたことに不満を持っていた(心理的な影響から積極的に機器を活用しなかった)
◇リース契約が終了する時点で、新機種の選定は、費用が現状より高くならないことを条件に現在の医師に選定しなおしてもらうことで納得していただき積極的に今の機器を稼働させる確約をもらう
◇院内広報誌、公開医学教室などを通じてルビーレーザー療法を紹介し後方支援を実施
◎3ヵ月後に黒字診療科に転換

<病床稼働率のアップに繋がった事例>
部門別原価計算を実施し、病棟ごとの収支状況が明らかになった

<原価計算の結果と現状分析>
◆黒字の病棟と赤字の病棟の二極化現象が確認できた。この違いは在院日数や病棟稼働率の違いによることは明らかだった。
◆病棟の患者の管理は病棟師長など看護師が中心となって実施していた。

<対策と結果>
◇病棟ごとの収支結果を現場に知ってもらうことが、まず重要であると考えた
◇職員食堂に毎月、病棟ごとの収支結果を掲示した
※掲示するか否かで、数か月議論が続きましたが、最終的には事務長のご判断で決まりました
※掲示後、病棟師長から抗議がありましたが、掲示を続けました
◇単に収支結果を掲示しただけではなく、病棟稼働率が1%アップした際の試算結果も掲示しました
◇赤字病棟の看護師が自主的に、病棟稼働率を上げる対策を考えるミーティングを行った
◇病棟稼働率向上ミーティング実施1か月後には、黒字に転換

今回は代表的な原価計算の活用事例を2例、少し変わった例を1例示しました。
最も多い活用例は、事例1のように経費対策の原因を探し、「コスト削減」につなげることでしょう。
しかし活用方法としては、経費削減のほかに事例2のように収入をアップさせることやまた、新たに透析を始めるとか(増やす)、MRIなどの高額医療機器の入れ替えといった際の、シミュレーションを事前に実施することも可能です。
特にMRIのような高額医療器機を購入した場合、その稼働状況を把握することは、病院経営にとって重要な課題です。
これは機器を購入したとき原価の構成上大きな減価償却費が発生し、機器の償却年数も4年から6年といった長期間のものが多いからです。
具体的には損益分岐点を算出し、1ヶ月あたりの目標稼動件数といった目標数値を設定し取り組むことになります。
このほかの活用方法としては、人事考課に原価計算の結果を取り入れる医療機関も徐々に増えています。
ただし、人事考課といってもすべての評価を原価計算の結果で行うのではなく、一定金額の部分的な導入にまだ留まっています。
その理由は、原価計算の収支の結果の要因がすべて個人に起因するわけではないからです。
しかし医療機関の最も高額な原価である人件費に評価制度が導入されはじめたこと自体に、大きな意義があると考えます。
実際に医師の給与評価に原価計算の結果を反映させる仕組みを導入した病院もあり、病院の中で、最も高額な医師の給与を見事にコントロールされている病院もあります。
医師も適切に評価されているのですから、全体的に金銭的な満足度は高いようです。このような病院は今後も増えるでしょう。

さらにこのような活用方法以外には、院内清掃業務や臨床検査業務、給食業務といった各種業務を自前から業者への業務委託へ、また逆に業務委託から自前にといったように、より生産性のよい手法へ切り替える際に用いることも可能です。
実際に検討する際は、業務委託の手法や範疇など各業者がさまざまな手法、ノウハウを持っているので、単に原価計算の結果だけで、切り替えるのではなく、それぞれのメリット、(リスクを含めた)デメリットも含めて総合的に判断することになります。

原価計算を中心にお話してきましたが、原価計算の結果をどのように活かすかが問題であり、どのように計算するかはあまり大きな問題ではありません。
また、結果と評価とは連動するものですので評価の仕組みを構築しておくことも重要です。
皆さんは、どう思いますか?

FMCAでは、医療機関の原価計算の導入のご支援を致します。お気軽にご相談ください。

次回は8月21日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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