第20回 収入改善編 収支分析(原価計算)2

■医療機関の原価計算作業工程
前回は原価計算を導入する目的を決めて、院内にプロジェクトチームを発足させ、原価計算を実施することを院内に周知するというところまで述べました。今回は、実際の作業について述べます。

まず始めに自院用の原価計算のロジック(ルール)を構築するということを認識してください。
財務会計と違い、管理会計である原価計算は決まったルールはありません。
ある程度決まった手法はありますが、医療機関ごとに細かな点の運用が異なっているのでその点を考慮に入れて、自分たちの医療機関に最も適したロジックを組み立てることができるとになります。
しかし一度組み立てたロジックは、むやみに変更しないこともポイントです。
やたらと変更すると対前月比や対前年比などの時系列的な指標数値に影響があります。原価計算では、時系列のデータを重視するので重要な意味を持ちます。
どうしても見直しが必要であれば2年に一度、診療報酬改定があるので、このタイミングで必要があれば変更するのがよいのではないでしょうか。

では、ロジックを組み立てるにはどうすればよいか。
それはまず院内の情報収集から始めます。
院内にどのようなシステムが稼動していて、どのような集計ができるのかなど現状調査から始めるのがよいでしょう。(ちなみにERPシステムが医療機関にも広く導入されれば、原価計算も容易に実施できるし、このような調査も不要となる)調査が終了し院内事情が把握できたら、次にその把握したシステム事情に合わせて、考えられる按分区分*を作成します。

※按分区分:ある数値を配賦するのに、最も適していると思われる比率
※按分区分例:患者数比率や収益比率、各種医事データの比率など

按分区分の比率は、「外来」・「入院」・「外来+入院」という三つの視点で基本的に作成します。
例えば患者数比率という按分区分であれば、外来患者数比率、入院患者数比率、トータル患者数比率という三つの按分区分ができることになります。
ここでのポイントは、後で使うか使わないかをあまり重要視しないこと。
まずはできるだけ多くの按分区分を作成することが重要です。
さらに按分区分の作成とその特徴を精度と作成の難易度から見ると、収入比率<人数比率<活動量比率という関係になります。
すなわち活動量比率が最も精度が高いがその比率数値の作成も難易度が高いということになります。

■費目
次に費目の抽出になりますが、病院の財務会計システムから損益計算書データを抽出することが一般的です。
医療機関は病院会計準則という会計法に準拠しているが、この準則は現在新旧混在となっており切り替え途中の段階です。
収入と費用の金額はこの損益計算書データを基礎ベースにしますが、その費目は部署別に集約されていることが多いです。
この部署別に集約されている数値を最終的に、目的とする報告単位に集約することが原価計算となります。

■原価計算の種類

  1. 部門別原価計算・・・外来は診療科別、入院は病棟別に集約するのが基本。他に透析部門や救急部門など個別に報告単位を設けることも可能
  2. 診療科別原価計算・・・入院部門もすべて診療科単位へ集約
  3. 医師別原価計算・・・外来、入院含めてすべての数値を医師へ集約する。基本は常勤医師が報告対象となる。非常勤医師は診療科単位に集約する原価計算の報告単位は、一般に1の部門別原価計算と2の診療科別原価計算が一般的であり、その利用度を考慮に入れて細かい単位の原価計算を求めてもその利用価値は高くなりません。

■階梯(かいてい)式配賦方法
医療機関の組織は、図1の一番上のように入院部門は病棟別に、外来部門は診療科別に、さらに診療を支援する部門として放射線科や薬剤部などに分かれており、さらに事務部門などが全体の補助部門として構成していることが多いです。

図1

そして、その組織単位でさまざまな数値が集約、把握されていることになります。
そこで、その集約単位を出発点として、最終的な原価計算の報告単位にまで繰り返し集約作業させる方法が階梯(かいてい)式配賦方法といいます。

最初にその業務内容からプロフィット部門とコスト部門に分けます。そのコスト部門の代表的な部署が事務部門です。

事務部門を例に説明すると、医事課入院係3F病棟担当者の経費(人件費など)は、3F病棟の仕事を請け負っていると考えます。
また事務長は特定の部署の仕事ではなく病院全体の仕事を請け負っていると考えます。
そこで、特定の部署の仕事を請け負っていると考えられる費用はその部門にストレートに計上(直課)し、特定の部門に限定できない費用は、前述した按分区分を利用して他の部署に配賦します。
次に医師からの指示によって初めて活動する部門(薬剤部等)の費用を、直接診療する部門へ計上する。
検査の指示や薬の処方箋などのデータから、直課できる数値は始めに直課し、残りの数値をまた按分区分を利用して配賦します。
この段階で集約された原価計算は部門別原価計算となり、さらにもう一段階、病棟部門を診療科単位に集約すれば診療科別原価計算となります。
この階梯(かいてい)式配賦方法のポイントは、最初に直課できるものは直課することと、その医療機関の運用にあわせて最も適した按分区分を選択して費目に紐付けることにあります。
直課できる数値が多いほど精度の高い原価計算となります。

費目の抽出、按分区分の作成、費目と按分区分の紐付け、階梯(かいてい)式配賦方法が理解でき、作業が終了すれば原価計算の結果は得られます。
しかし、結果が得られても医療機関の経営には何ら影響はありません。
医療機関はこの原価計算の結果を使い、経営改善を実施することが重要です。次回は原価計算の結果の利用方法の例を示したいと思います。

皆さんは、どう思いますか?

FMCAでは、医療機関の原価計算の導入のご支援を致します。お気軽にご相談ください。

次回は7月10日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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