第19回 収入改善編 収支分析(原価計算)

■医療機関も収支分析(原価計算)が必要な時代に
民間企業では、「自社製品の製造原価はいくらで、販管費が何円」というような会話は、社内で頻繁に交わされ、コスト削減目標などの各種数値目標の設定に利用されることが多いと思います。
経営者の最大の関心ごとの一つでもあるし、社員もその数値目標が賞与などへの評価に連動していることが多いので生活に直結することもあり必死に努力することになります。

一方、医療機関では施設単体での収支は、財務諸表も作成していますし、当然把握していますが、内科や整形外科などの診療科単位で収支はどうでしょうか?内科医の外来の収支はどうですか?透析部門や3F西病棟などの部門単位で収支はどうなっているのでしょうか?等など毎月きちんと把握している施設は実は意外と少ないようです。
(統計結果ではなく経験値として)しかし、それでも医療機関の経営は、今までは何とかなってきました。あくまでも今まではと改めて強調させていただきます。

医療機関の経営は非常に外部環境に左右されやすい特徴を持ちます。
昭和36年に国民皆保険制度が創設され、日本全国に医療機関を普及させたいという時期は母船護送船団方式で守られた業界で、経営も非常に(他の業界に比べれば)楽でした。
しかし、現在は超高齢化社会(これほど短期間に高齢化が進んだ国は日本の他にはありません)に突入し、毎年約1兆円ずつ医療費が増え、『医療費亡国論』まで唱えられ、厚生労働省の政策も医療費をいかに削減するかがすべての政策の根幹とあっては、今までと同じような経営で成り立つわけがないですし、よい医療を実施することさえ難しい時代になったと言えます。

そこで、近年注目されてきたのが、「医療機関における収支分析(原価計算)」(以下原価計算と記す)です。
医療機関も「収支を最大に」「コスト削減しろ」「無駄遣いするな」と掛け声はよく聞かれます。だが、
そもそもどこの部署が、何をどれだけ使用して収入はいくらで、コストはいくらで、その結果、利益はいくら出ているのか?という肝心なことを把握していることが前提になっていなければ、現場も混乱するばかりで、経済効果も上がるわけがありません。

では、原価計算を実施すればそれで解決かといえばそうではありません。
原価計算そのものには多くの施設は取り組むのですが、途中で挫折する医療機関が後を絶ちません。
途中で導入を諦めてしまう理由はいくつかありますが、後段でその解決方法を示しながら導入のプロセスに沿って詳述したいと思います。

■原価計算導入の目的
医療機関に限らず原価計算を利用する場面はいくつか想定できます。「人事評価に使いたい」「コスト削減に使いたい」「収支を最大にしたい」あるいは「MRIなど高額な設備投資の案件などの判断(シミュレーション)に使いたい」などが一般的でしょう。

最初に原価計算を導入する目的を明らかにしておくが重要なのですが、このことは、原価計算に対しての投資(ソフトや人や作業時間など)をどれだけ割くのかということの判断材料となります。
すなわち、何となく診療科別に収支が知りたいというレベルでは投資を行う価値がないということになります。
人事評価などに利用したいということになれば、精度も職員が納得するレベルに達しないとモチベーションが低くなったり、不平不満がつのったり、逆効果となることは目に見えています。
では、どのような目的にも利用可能な精緻な原価計算を組み立てたらよいのではという意見もあると思いますが、米国のUCLAで非常に高額な投資を行い精緻な原価計算の仕組みを構築したことがありましたが、予想された効果が得られず大失敗したという有名な話があります。
バランスが重要であるという教訓です。このことからも、まず原価計算の目的を決定することに重要な意味があることがわかってもらえるでしょうか。

■プロジェクトチーム発足と院内周知
原価計算の導入目的が決まったら、次に誰が担当するのかということになります。
医療機関内のシステムは、各部門システムは稼動しているが、ERPのような統合システムは、まだほとんど導入されていません。
従って、医療機関内にスペシャリストは多いがジェネラリストは少ないということになります。

そこで、各部門からスペシャリストを収集し、原価計算のプロジェクトチーム(以下PT)を発足させることになります。
この組織横断的なPTの活動を通じてスペシャリストをジェネラリスト化する教育の場としても活用できます。
PTのメンバーは事務系職員になることが多く、医療機関の事務員は満足な院内(社内)教育体制がないことが多いので、非常に有効な勉強の場面となります。
医療機関の経営は院長だけで行うものではなく、今後事務系職員の力があるところとないところでは大きな差が出てきます。
そして、PTのメンバー選出ですが、収入の部分については医事課から、経費の部分は人件費を担当している総務課からと材料費を担当している用度課から選出することが一般的です。
また、PTメンバーとして適任の人物像は、年齢は30歳台から40歳前半くらいまでのフットワークが軽く、担当業務に精通していることはもちろん、好奇心が旺盛な性格というのが、ポイントです。
よく知っているが面倒なのか積極的に情報提供してくれないような人がメンバーだと、なかなか動き出さないし、満足のいくような結果も得られないことが多いです。
さらに全体の総括者として、各種数値の妥当性などチェック機能を果たしてくれるような人物が院内にいらっしゃれば、PTリーダーとして適任です。

ただ、せっかくPTを選出しても、その多くは日常定常業務を抱えている。
このように原価計算の業務に作業時間が工面できないということは、医療機関が原価計算の導入に頓挫する一つの要因となります。
そこで原価計算の業務や作業に時間を割けなければ、作業を外部に委託する手法もあります。
そのような受託業者はコンサルティング会社が請け負うことが多く、医療機関の原価計算の導入のノウハウや経験を積んできているので、その知識を応用することも可能です。
軌道に乗るまでうまく外部業者を活用し、最終的には医療機関職員自身で、作業から結果分析、対策立案から実行、効果検証までのサイクルを動かせるようにすることが重要です。

PTの選出が終わったら、次は、院内に原価計算を実施することを周知する広報活動となります。
原価計算に使用するデータは院内の様々な部署に存在することが多く、各部署へヒアリングや情報収集に実際に行き実施することが多いです。
いくら同じ医療機関の職員とはいえ、根掘り葉掘り自部署のことを他部署の人間に聞かれたら気分のよいのもではありません。
ましてや、外部業者にいたっては言わずもがなです。
職員広報誌や全体朝礼の場で紹介するだけで、その後の作業や協力度合いがまったく違いますのでそのような場面を活用することも考えましょう。
次回は具体的作業内容を記述します。

皆さんは、どう思いますか?

FMCAでは、医療機関の原価計算の導入のご支援を致します。お気軽にご相談ください。

次回は6月12日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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