ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
建設業界でリモートワークを実現するには? 働きやすい環境の構築と定着のポイント
働き方改革関連法の適用により、建設業界においても長時間勤務の是正など、労働環境の改善が求められています。よりよい労働環境を構築する方法の一つとして、リモートワークの実施を考えている企業もあるでしょう。
建設業界でのリモートワークにおいては、在宅勤務だけでなく、事務所などと現場をつなぐなどの形で実現する方法もあります。
本記事では、労働環境の改善と生産性向上に役立つ、整備のポイントと実施企業の事例をご紹介します。
目次
建設業界でのリモートワークの現状
リモートワークの実現と浸透は、深刻な人手不足への対策としても有効です。国土交通省も建設業における業務の省人化を後押ししています。
国土交通省は、2024年4月には一戸建て住宅や小規模な集合住宅の工事完了検査をリモートでも可能にするとし、「デジタル技術を活用した建築基準法に基づく完了検査の立合いの遠隔実施に係る運用指針や「デジタル技術を活用した建築基準法に基づく完了検査等の検査者の遠隔実施に係る運用指針」を公表しています。
遠隔検査の類型と運用指針との関係
- * 出典:デジタル技術を活用した建築基準法に基づく完了検査等の遠隔実施について(リモート検査の推進)<遠隔検査の類型と運用指針との関係>図より引用(国土交通省Webサイト)
その一方で、建設業界ではリモートワークが浸透しづらいという課題があります。厚生労働省による「令和5年度テレワーク人口実態調査」によると、建設業で雇用されている人材のテレワーク実施率は26.4%と、他業種と比較して低水準です。また、同調査によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に増加したテレワーク実施率は、低下の傾向にあるとのことです。
建設業界でリモートワークを実施し、その後定着させるためには、リモートワークの実現・定着のハードルとなる課題を明確化し、それをクリアできる環境を構築することが重要です。あわせて、生産性向上に寄与する方法やツールを選択することによって、現場にも浸透する環境を構築できるでしょう。
建設業界でのリモートワークの実施と定着にある課題
リモートワークの実現と定着に向けて、まずは建設業界でよくある課題を把握しておきましょう。
建設業でのリモートワークによくある課題
- 現場作業が主になる職種ではリモートワーク自体が困難
- 根強いアナログ業務への傾倒
- 業務の属人化
- リモートワーク実施後に生産性が低下
建設業では、現場作業が多いことから職種によってはリモートワーク自体が困難なケースがあります。また、従来の働き方では事務所で行わなければならない作業も多く、現場と事務所の往復が必要なケースがありました。
また、業界全体でアナログ業務が根強く残っていることや、業務の属人化が大きな壁になっている場合もあります。さらには、リモートワーク実施後に生産性が低下してしまい、取りやめてしまうケースもあるようです。これは、ITリテラシーやITスキルが個人によってばらつきがあり、ITツールの活用が進まなかったことが原因と考えられます。
リモートワークの実現と定着三つのポイント
建設業におけるリモートワークでは、「在宅勤務」「モバイル勤務」「サテライトオフィス勤務」の三つのスタイルが考えられます。
一般的にリモートワークというと、自宅から作業を行う在宅勤務を想像してしまいがちですが、現場でスマートフォンから資料を閲覧するなどの方法で業務を行うこともリモートワークの一種である「モバイル勤務」にあたります。
また、各拠点や事務所から現場をチェックする業務などはサテライトオフィス勤務の一種です。ここからは、これらを踏まえてリモートワークを実現するために重要なポイントを三つご紹介します。
【ポイント1】リモートワーク化が可能な業務を洗い出す
まずは、リモートワーク化が可能な業務を洗い出しましょう。
例えば、次のような業務は比較的容易に実現できます。
リモートワーク化が可能な業務の例
- パソコンを使用する業務
- 現地で行う事務作業
- 本社やそれ以外の場所での事務作業
- 記録書類の保管や管理
- 施工図面のチェック
- 会議
- 現地調査
- 工事完了検査 など
【ポイント2】リモートワーク環境に必要な環境を把握する
リモートワークを実現するには、オフィス外でも円滑に業務ができる環境を構築することが重要です。ポイント1で洗い出した業務をリモート化するために必要なものを用意しましょう。
リモートワーク環境には、インターネット環境に加え、パソコンやタブレット、スマートフォンなどのデバイス、ITツールが必要です。
業務に使用するITツールに関しては、クラウドサービスの利用でさまざまな業務のリモート化が可能です。これらとあわせて、セキュリティリスクを理解し、サイバーリスク対策を見直しましょう。
【ポイント3】 コミュニケーション環境を構築する
リモートワークの定着においては、円滑なコミュニケーションを実現する環境も重要です。しかし、対面業務とは異なり気軽に質問したり、情報を共有したりすることが難しいという特徴があります。
オフィスにいなくても円滑にコミュニケーションを取れるようにWeb会議システムをはじめ、ビジネスチャットツールや建設業に特化し、コミュニケーション機能が搭載されたクラウドサービスを導入するなど、幾つかの方法を検討してみましょう。
建設業でリモートワークを実現した事例
では、具体的にどのようにして実施すればよいのでしょうか。ここからは、実際にリモートワークを実施している企業の事例をご紹介します。
現場での施工管理業務にICTツールを活用した事例
現場での施工管理業務にICTツールを活用した事例です。この事例では、クラウドサービスの導入とあわせて現場の職長全員にタブレットを支給し、タブレットで資料や図面を閲覧できるようにしました。
従来、資料や図面は事務所のファクスで受け取っていたことから、事務所に立ち寄る手間と紙の資料にかかるコストが発生していました。
リモートワーク化の効果としては、ペーパーレス化による事務用品費の低減、クラウドサービスの導入によるサーバー保守や機材費用の削減、交通費の削減を実現しています。
同社では、リモートワークの導入に際してICT化のメリットを社員に理解してもらえるように努めたといいます。その施策の一つとして、若手社員にICTを積極的に活用してもらうようにしました。
若手社員が現場をけん引して仕事の成果につなげていったことで、他の社員が啓発されて会社全体のICT化が進んだそうです。
各現場の事務所をサテライトオフィスにした事例
各現場に設置した事務所をサテライトオフィスとして、リモートワークに活用した事例です。
各事務所をサテライトオフィスにしたことで、社員は自宅に近い事務所で業務を行えるようになり、移動時間を削減できました。あわせて在宅勤務も承認制で実施しています。
社員個人のスキルに応じて作業できる業務が異なるため、リモートワークで働きたい社員にはスキルアップが必要です。社員がスキルアップに取り組むことは、組織強化にもつながります。
このように職場環境を改善したことで、女性社員の人数も増加したそうです。また、移動にかかるコストの削減、本社の電気使用量の削減、労働時間の削減を実現しています。
建設現場をスマートフォン・タブレットでリモート監視した事例
建設現場をスマートフォンやタブレットでリモート監視した事例では、カメラ付きのスマートフォンやタブレットをテレビ電話のようにして、現場を映しだすことで現場を訪れることなく監視できる環境を構築しました。
スマートフォンやタブレットの画面を見ながら現場にいる作業員などと会話できるようになり、指示や情報共有の迅速化を実現しています。この事例では、現場への移動にかかる時間とコストを削減できました。
リモート立ち会いを導入した事例
タブレットPCを用いてリモート立ち会いを導入することで、業務のリモート化を実現した事例です。この事例では、タブレットPCで記録しながらWeb会議システムで現場を配信することで、遠隔での立ち会い確認ができました。
この方法により、現場にいる作業員と発注者だけでなく、複数人で同時に現場を視聴できるようになり、施工状況や立ち会い状況をリアルタイムに把握できるようになりました。
また、画面収録機能を用いることで、内容を再確認することも可能です。立ち会い資料や調書もオンライン上で提出・記入・閲覧が可能なツールを導入し、ペーパーレス化と立ち会いにまつわる業務の時間短縮を実現しています。
まずはできるところからリモートワーク化を
人手不足対策と労働環境の改善が求められている今、業務のリモートワーク化は業務効率化と生産性向上を図るうえでも重要です。
各拠点のサテライトオフィス化やスマートフォン・タブレットを活用した現場業務もリモートワークの一種です。これから実施したい企業は、リモート化が可能な業務を洗い出し、すぐに実施できる部分から着手することをおすすめします。
関連するソリューション
メッセージやスタンプ、写真、図面、報告書を簡単に送信できるグループチャットです。関係者間の情報共有の円滑化を実現。スマートフォン操作による施工報告書の作成など、業務効率化にも寄与します。
使い慣れたLINEを業務でも安心して使用できる、ビジネス用のLINEです。顧客管理ツール(CRM)との連携も可能。効率的かつ効果的な販促活動を実現します。
Microsoft社のクラウドサービス「Microsoft 365」に、大塚商会のサポートをセットにしてご提供します。クラウドでの共同作業やファイル共有、Web会議などを通じてリモートワークに必要な環境づくりを支援します。
シンプルで使いやすいWeb会議サービスで、会議のリモート化を実現。在宅勤務者と現場作業者、あるいは顧客との打ち合わせもリモート会議で効率化できます。
大量のデータも送受信できる、マルチデバイス対応のオンラインストレージです。ファイル共有時の容量制限やセキュリティリスクに関する悩みを解決。社内だけでなく社外とのデータ共有にも活用できます。
ビジネスに特化したクラウド・コンテンツ・マネジメント・プラットフォーム(CCM)です。最高クラスのセキュリティ下でファイルを共有できます。共有ファイルの容量は無制限で利用できます。
建設業特有の見積作成をはじめ、営業活動分析や実行予算作成、概算利益予測など、受注管理にも対応した建設業向けのシステムです。Excelのような使い勝手でITツールに不慣れな方も安心して利用できます。
SMILE V 2nd Edition 会計 プロジェクト原価管理業務オプション
仕分け情報をもとに、会計帳票やプロジェクト単位の原価管理帳票を作成できます。「SMILE 会計」をベースに建設業・リフォーム業で必要となる原価管理機能を拡張。工事と間接コストの管理や債権債務の健全化にも寄与します。
新規商談から契約、工事管理、アフターフォローまで情報を一元管理。安心のセキュリティ体制と柔軟なカスタマイズ性で、各企業の業務方法にマッチする業務管理を実現します。
関連ページ
本ページで紹介した建設業での業務効率化を実現するシステム・ソリューションをはじめ、導入事例、話題のトピックス記事といった情報をまとめてお探しいただけます。
資料ダウンロード
大塚商会「建設DXリーフレット」
昨今の働き手の不足という課題に対して、対策は進んでいますか?
大塚商会では働く人がより働きやすい環境を構築するために、「建設DX」と位置づけ、支援しています。本資料では、大塚商会の建設DXソリューションをご紹介します。
- 形式:PDF
- ページ数:16ページ