中小企業診断士コラム堅実経営への道~日次損益の見える化~

日次で損益を把握し、黒字か赤字かを即判断できるデイリー損益グラフの描き方や考え方などの実践法をご紹介します。

堅実経営への道

はじめに

さまざまな企業を支援していると、多くの経営者から業績把握のスピードアップについて相談を受けます。例えば、「今ウチってもうかっているの? 月初から今日までの損益を知りたい」「このまま行くと今月は黒字だろうか? 着地点を予想できたら」、すなわち「できるだけリアルタイムで業績をモニターするにはどうすれば良いか」との問いです。ただし、同時にくぎも刺されます。「複雑なのはカンベンして」「せいぜいExcelに打ち込むくらいかな」。

そこで本稿では表計算ソフトを使った“マージンを可視化してその日のうちにその日の業績を知るグラフ”、名付けて“デイリー損益グラフ”の描き方をご紹介します。まずはこのグラフの全体像を、次にそれを見ながら経営するメリットを述べ、最後に実際の運用を例示します。「こんな選択肢もあるのか」「これならウチでも始められそう」、そんな気づきやヒントになれば幸いです。

1.目的とメリット

ご紹介する“デイリー損益グラフ”がどんなものか、概要と背景のロジックをご説明します。

目的とメリット

(1)目的

日次で損益を知ること

業績を把握するうえで多くの経営者が真っ先に気にされること、それは損益分岐点でしょう。赤字と黒字を隔てる境界線のことです。その境界線と現時点との相対位置を示し、今が黒か赤かを見せる計器盤になる、それがデイリー損益グラフの目的です。

(2)メリット

先を見た経営判断ができる

「今月は損益分岐点をもう超えた?」「いや達していない、あとどれくらい?」、これらが分かるだけで経営のかじ取りはグッと楽になります。既に超えた、すなわち黒字なら一安心、より一層の上積みを狙います。いまだ超えていない、赤字なら何としても早期に対策せねばなりません。今の損益を把握して軌道修正を重ねながら望む着地点に向けてかじを切っていく、そんな経営を可能にします。

堅実で安定した経営を実現できる

黒字経営を継続する定石は短スパンかつ高頻度でPDCAを回すことです。

  1. 日次で商いを締める
  2. 状況を見て軌道修正する
  3. 1と2を繰り返して月次の好業績を期す
  4. 3を繰り返して通年の好業績を期す

デイリー損益グラフはこのサイクルを機能させるための数値情報を提供します。

カンタンに、スモールスタートできる

デイリー損益グラフは取引の件数次第ですが、紙伝票ベースで十分回せます。グラフの描画はExcelなどの表計算ソフトに任せればOK。スタート時点で大げさなシステムは要りません。慣れて成果を実感したら、より詳細な情報を提供できるシステムへと拡張することも可能です。

2.基本用語とロジック

デイリー損益グラフは“限界利益”という財務会計の考え方から成り立っています。最初に三つの基本用語、マージン・変動費・固定費を頭に入れてからロジックの説明に進んでください。

基本用語とロジック

マージン

売りもの(以降、商品と称します)を売った後に財布に残るおカネです。本当の稼ぎを意味します。財務会計では“限界利益”や“貢献利益”と呼ばれるものです。

マージン=売値-仕入代(式1)

例えば、6,000円の部品を仕入れて1万円で売ったらマージンは4,000円です。手元には売上の1万円があるものの、そのうち6,000円はもう消えていると見なします。既に支出が確定しているからです。

変動費

個々の商品にひも付く支出のことです。仕入代や外注加工代が該当します。ひも付いている商品の売上がゼロなら変動費もゼロ、売りが立つにつれて変動費も増えるという関係になります。下記は式1の書き換えです。

マージン=売値-変動費(式2)

商品が違えばひも付く支出も変わるため、マージンは商品ごとに異なります。

固定費

事業活動の母体(会社や店舗、工場といった組織)を維持するための費用を指します。負債の返済額や設備代、家賃、人件費が主な費目です。電気代など毎月決まって請求される費用、細かい経費も該当します。売上には連動しません。たとえ売上がゼロでも支払わねばならない、確実に財布から出ていくおカネです。固定費を商品ごとに割り振る必要はなく、母体の総額として集計するだけです。

ロジック

ここまでの三要素を組み合わせると赤字か黒字かを判定できます。

黒字の条件:
(売上数量×マージン)>固定費
(売上数量×〈売値-変動費〉)>固定費(式3)

売り上げた個々の商品のマージンを合計して、その高が会社全体の固定費を上回れば黒字達成です。売上高を追うのではなく、マージンの高を追い求めるのがミソ。マージンは固定費回収の原資であり、回収し終えた後は利益に転じます。従ってマージンの最大化を狙ってかじ取りしていけば好業績は約束される、そんなロジックです。

3.事前準備

運用を例示します。まずは事前の仕込みから。

説明の舞台として商品Aのみを販売し、経営者が1人で切り盛りしている個人商店を想定してください。対象をm月度、その稼働日数は25日とします。そして今はm月の前月末です。

事前準備

【場面1】m月が始まる前、商品ごとのマージン算定

商品Aの売値と販売予定数量を仮決めします。「m月はAを@1万円で250個売りたい」予定が決まれば変動費とマージンの計算です。「仕入部品aは1個6,000円だからAが1個売れれば部品仕入代をマイナスして4,000円が残る、これがマージンだ」
従ってもくろみどおりm月中にAが250個売れたら月間のマージンは250個×4,000円=100万円となります。

商品ごとのマージン算定

【場面2】同じくm月が始まる前、固定費の算定

m月を操業するための費用を集計します。店舗や加工設備、さらには経営者自身の生活費確保(人件費に該当)、借入金の返済などもあるでしょう。下記の図をご覧ください。合計額が固定費です。

固定費の算定

この80万円は、たとえ売上がゼロであっても支払わねばならないおカネです。その意味では「m月が背負っている借金」であり、損益分岐点そのものです。よってこの額を最初に超えるべきハードルと置きます。

【場面3】同じくm月が始まる前、検算と目標着地点の設定

ここまでを検算しましょう。

場面1~2を経て商品Aのm月末の着地点は売上数量250個、マージン合計100万円と予定されました。これを予定ペースとします。一方、場面3からは今月の固定費として80万円が必要と分かります。もしもマージンを合計して80万円に達しなければ赤字です。
従って今月の販売目標の下限、必達ペースは200個となります。これは実現可能な数字でしょうか? 値付けに問題はありませんか? こうして設定した数値の整合性をチェックします。これでm月の目標が固まりました。

グラフにすると下記になります。

検算と目標着地点の設定

4.デイリー損益グラフの運用

【場面4】m月の稼働1日目~

さあm月の始まりです。やることは売れた数量を記録して1日を締めるだけ。

予定の販売ペースである10個/日に対して実際は? もし低調傾向だと判断したなら早急に対策を打ちます。どれだけ先を読んだアクションを起こせるかがカギとなりましょう。売れた数量には4,000円を乗じて稼いだマージンを算出して累計します。

この累計額を稼働日に沿ってグラフにしたものが“デイリー損益グラフ”です。

デイリー損益グラフ(1日目~)

【場面5】m月の稼働20日目あたり

いよいよホッとするときです。

マージンの累計額が固定費に達しました。昨日まではマージンの全額を借金返済に費やしてきましたが、もうそんな日々は終わりです。今月の黒字が確定して、この瞬間からマージンは丸々利益!! 売れた分のマージン全てが財布に残ります。

デイリー損益グラフ(20日目あたり)

【場面6】稼働25日目、m月末

m月を締めます。

20日目以降に増えたマージンを合計すれば月度利益になります。マージン積み上がりペースを毎日モニターして、ペースダウンの兆しを読み取って即効でテコ入れ策を講じたのが功を奏しました。そうして手にした成果が実働20日目での借金返済、残り5日間で積み増したマージン20万円、利益率20%だと読み取れます。

デイリー損益グラフ(25日目、m月末)

5.留意点など

デイリー損益グラフの運用手順をまとめます。

留意点など

  1. 商品ごとの売値・変動費・マージン、事業母体の固定費を事前設定しておく
  2. 毎日の売上数量を記録していく
  3. 売上数量にマージンを乗じて累計額を算出する
  4. それをグラフにする

表計算ソフトと、そのグラフ描画機能を使うだけです。最後に実行着手に際しての留意点を二つ、そして発展的な使い方を追記します。

(1)変動費におけるロスの扱い

商品ごとの変動費を算定する際にはロスへの考慮をお忘れなく。ロスとは仕損や廃棄、返品などを指します。いずれも売上が立たないのでマージンは入ってきません。けれども仕入代という支出だけは発生します。その損失額を無視できない商品については、予想されるロスに見合う分だけ変動費を割り増ししておきましょう。

(2)損益計算書(P/L)との関係

財務諸表上の利益とマージンによる利益は一致しません。後者からは在庫増減による利益変化が抜け落ちるためです。とくに在庫を積み増した月度の利益を少ないと感じられるでしょう。でもどうぞご安心を。これは単なる計上タイミングの違いです。長いスパンで差異はならされていきます。また、銀行や外部関係者は後者の利益をより重視します。なぜなら、マージン高にはキャッシュの裏付けがあり、事業の持つ稼ぐ力をより端的に表すからです。

(3)発展的な使い方

マージンの生かし方にはもっと先があります。「売値を上げ下げしたら業績はどうなる?」とのシミュレーション(直接原価計算)や、目標利益到達までの販売必要数算出(CVP分析)が可能です。また複数の商品がそれぞれ違うマージン幅を持つ場合、どんな販売ポートフォリオを組めばもうけを最大化できるかとの問いにも答えてくれます(線形計画法)。マージン・限界利益には財務会計の長い歴史をとおして豊かな知見が蓄積されています。

また、活用が進むとより詳細に損益を見たい、例えば、商品群ごとや営業担当部門ごとに、といったニーズが生じるかもしれません。そんなときはマージン集計機能をあらかじめ備えたパッケージソフトの導入をご検討ください。限界利益・直接原価計算・CVP分析などのキーワードで検索すれば複数の候補ソフトがヒットするはずです。

おわりに

「損益を早く知りたい、それを経営良化に結びつけて良好な財務体質を築きたい、でも面倒は避けたい」と多くの経営者が望んでいます。マージンに着目することは、その望みを最もシンプルにかなえるアプローチだと考えます。売値と仕入代との差がマージン、そのマージンを集計して固定費を上回れば黒字。ロジックは明快です。やることは毎日売れた商品のマージンを記録してグラフにするだけ。「これならカンタン」「やってみるか」そう感じていただけたなら何よりです。堅実経営に向けて、さあ第一歩を踏み出しましょう。

著者紹介

ナレッジ・ビー 代表

髙田 富明

組立型とプロセス型、毛色の違う製造業2社において生産技術と情報システムの畑を歩む。30年の経験を積んだのち、2018年にFA/ライン設計/生産管理/原価計算のフリーランスエンジニアとして独立。中小企業診断士の知見も活かしつつ顧客工場の業績向上活動に伴走中。

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