ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
原価を下げて利益確保する重要性とは? 経営基盤強化のためのポイント
この記事では、売上原価に関する政府の調査データ、原価削減の重要性やメリットなどを解説します。
企業が利益を確保するには、売上拡大はもちろん原価の削減も欠かせません。特に近年は、原材料費や人件費の高騰が続いており利益を圧迫するケースが増えています。そのため、原価を抑える取り組みが経営基盤の強化につながります。
本記事では、売上原価に関する政府の調査データから見える近年の傾向、原価削減の重要性やメリットについて紹介します。原価削減のヒントとしてご参照ください。
目次
1.売上原価に関する調査データ
経済産業省が出しているデータを基に企業の売上原価に関する傾向を探ります。
産業別の売上原価率
経済産業省の「企業活動基本調査」によると、産業別の「売上高に対する売上原価比率」はどの産業でも微減となっています。これは、多くの企業が原価削減や生産性向上に取り組んだ結果として表れていると考えられます。
売上原価率が下がっているということは、売上高(利益)の割合が増加し、企業の収益性が向上していることを示しています。業界や業種によって具体的な取り組みは異なるものの、原価削減の強化や業務プロセスの改善、生産効率の向上が効果を発揮していると言えるでしょう。
例えば、製造業では生産ラインの自動化やロボット技術の導入、管理システムの最適化が進み、人的リソースや無駄な工程を削減することで効率化が図られています。
売上原価率は減少傾向にある
売上原価・売上原価率の推移
経済産業省の「2024年版中小企業白書」においても、企業規模問わず2010年以降は売上原価率が減少傾向にあることが分かっています。
売上原価率減少の背景には、費用を単に抑えるだけでなく、生産プロセスそのものを見直し、業務フローを改善することで、売上高を維持しながら原価を削減できている可能性が考えられます。特に中小企業は、日本でDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれるようになった2018年以降、売上原価が上がっても売上原価率は低下し続けているため、業務効率化や生産性向上が進んでいると考えられます。
2.なぜ原価削減が重要なのか?
業種・業界、企業規模を問わず、多くの企業で原価削減の取り組みが進んでいることが分かりましたが、なぜ原価削減がこれほど重要視されているのでしょうか。
利益率を向上させて経営の安定性を強められるため
企業の利益は売上から原価を差し引いて算出されるため、原価を削減すれば売上が同じでも利益率を向上させることができます。特に景気の変動や市場環境・顧客ニーズの変化が激しい現代においては、利益率の向上が企業の経営基盤の強固や、安定的な事業運営に大きく影響します。
例えば、売上が減少しても原価も適切に抑えられていれば利益を確保できるため、経営への影響は最小限に抑えられます。一方、原価率が高いままだと、売上がわずかに落ち込んだだけでも経営に悪影響を及ぼすリスクが高まります。従って、原価を下げて利益率を高めることは、経営における不測の事態に備えるためのリスクマネジメントとしても重要です。
また、利益率が高まることで、企業は得た利益で再投資しやすくなります。例えば、製造業では新しい生産設備への投資が可能になり、生産性が向上することでさらなる原価削減につながります。資金に余裕が生まれれば、急な環境変化やトラブルに迅速に対応でき、リスク分散や事業拡大のチャンスを逃さずに済むでしょう。このように原価削減による利益率向上は、経営の安定性を支える大きな力となります。
競争力を維持・強化できるため
国内外の激化する企業間競争において原価削減に取り組むことは、価格競争力を強化するために欠かせない施策です。同じ品質の製品・サービスであっても、価格がわずかに異なるだけで消費者の選択が左右されるケースは多々あります。そのため、原価を抑えることで、より魅力的な価格設定が可能となり、他社との差別化を図ることができます。
また、原価削減によって生まれた資金を品質向上や新製品開発に投資することで、競争力・企業のブランド力をさらに強化することもできるようになります。
結果として、原価削減による競争力強化は、単に低価格戦略を取るだけでなく、価値の高い商品・サービスを適正価格で提供するための基盤づくりにつながります。これにより長期的に持続可能なビジネスモデルを確立し、激化する市場競争の中で生き残りやすくなります。
人手不足問題に対応するため
少子高齢化の影響で労働力人口が減少している現代において、限りある人的資源の中で利益を確保するためには、原価削減がますます重要になっています。
そのため、業務プロセスの見直し・改善といった原価削減を行い、利益を確保することで、その利益から人材獲得や労働環境整備のための投資が可能になります。特に人材不足が深刻な中小企業が避けなければならないのは、利益がなくなり、人材採用を維持できなくなるまで財務状況が切迫することであるため、利益確保のための原価削減は一層重要といえます。
適正な利益確保は、人員確保のための原資確保につながり、結果として人手不足問題に対応できる体制整備にもつながります。人材の充足は経営の持続性・安定性には欠かせないため、会社の持続的な成長のためには原価削減の取り組みが求められます。
3.原価削減が企業に与えるメリット
原価削減は利益を確保するための重要な施策です。原価削減施策を進めることで、企業にはさまざまなメリットがもたらされます。
【1】利益率の向上による経営の安定化
原価を削減することで、売上が同じでも利益率を向上させることができます。利益率が高まると、売上の増加に頼らずとも安定的な利益を得ることができるため、不測の事態や市場の急激な変動に対する柔軟な対応力が向上し、企業の持続的な成長が支えられます。
特に景気の変動や市場ニーズの変化の波が激しい業界では、売上の増加だけでは利益確保が難しい場合があります。原価削減は売上増加よりも直接的に利益に影響を与えるため、企業の財務基盤を強化するための効果的な手段といえます。
また、削減したコスト分を設備投資や新規事業開発、人材育成に振り向けることで、将来にわたる成長基盤を構築でき、景気の変動というリスクに備えながらも長期的な安定性を実現できます。
【2】資金繰りの改善
原価を抑えることはキャッシュフローの改善にも直結します。例えば、製造業や流通業などでは、原材料費や労務費といった費用が大きな割合を占めますが、これらを見直すことで毎月の支出を削減できます。これにより企業は安定したキャッシュフローを確保できるようになり、経営の柔軟性が向上します。
余裕を持った資金繰りができるようになると、急な経済変動にも対応しやすくなり、経営の安定性が増します。例えば、景気後退や市場の急激な変動に直面した場合でも、十分な資金的余裕があれば、倒産リスクを低減させることができるようになります。さらに企業の長期的な成長に向けた投資にも回せる余力も生まれるでしょう。
【3】競争力の強化
市場競争が激化する現代において、原価削減による競争力の向上は、企業の生き残り戦略として欠かせない要素です。多くの競合企業が存在する中で、同じ品質の製品・サービスをより低コストで提供できる企業が競争優位性を持つことになります。競争力が強まることで、ステークホルダーからの信頼も高まり、リピーターや新規顧客の獲得にもつながります。
また、競合他社との競争に勝つことで、マーケットシェアの維持・拡大がしやすくなり、安定した収益基盤の確立にもつながります。競争力を強化することで、価格だけでなく品質やサービスレベルを維持しつつ、他社よりも有利な条件で提案できるため、市場での存在感を強化しやすくなるのです。
【4】働き方改革の促進
原価削減の取り組みは、働き方改革の促進にもつながります。これまで人手が頼っていた作業や非効率的な業務をITツールの活用によって効率化・自動化することで、従業員一人一人の業務負担が軽減され、長時間労働の削減やワークライフバランスの向上が期待できます。
また、原価削減のために業務プロセスを見直し、ITツールによる効率化を進めることで、限られた人材を高付加価値業務へとシフトしやすくなります。これにより従業員は、より創造性や専門性が求められる業務に集中でき、モチベーション向上やスキルアップにもつながります。結果として、企業全体の生産性が高まると同時に、従業員満足度や定着率の向上も期待できます。
4.企業の利益を圧迫する原価とは
具体的にどのような原価が企業の収益性を阻害しているのか、どうすれば原価削減につながるのか、そのポイントを理解することが重要です。
固定費として企業の収益を圧迫しやすい原価
企業が安定的に利益を確保するためには、原価のコントロールが欠かせません。特に固定費として継続的に発生する原価は、事業規模が拡大するにつれて増大しやすく、経営を圧迫する要因となります。
例えば、事業規模が大きくなるほど高騰しやすいオフィス・工場の光熱費(電気代、ガス代、水道代など)は、原価の代表例です。また、「本来3人で済む業務を5人で行っている」といった余剰な工数も、企業の利益を圧迫します。業務プロセスが煩雑だと人的リソースが無駄に消費されがちです。
さらに設備やシステムの老朽化が進んで、維持管理費がかかる場合もあります。古い設備を無理に使い続けることで、故障やトラブルが頻発し、予期せぬ修繕費用が発生するリスクが高まるため、結果として、計画外の出費によって企業のキャッシュフローを悪化させてしまいます。そのため、定期的な設備点検やリプレースを行うことで、リスク管理を徹底し、原価の増大を抑える取り組みが必要です。
ITツールの活用は原価削減につながる
原価の中でも、非効率的な業務にかかってしまっている余剰な工数は削減施策の効果が得られやすいといえます。特にデータ入力や集計業務などの繰り返し、かつヒューマンエラーが起きやすい業務では、人的リソースが圧迫されやすくなります。こうした業務プロセスを見直し、ITツールを活用することで、業務改善・業務効率化が進み、結果として原価削減につながります。
例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで、単純作業の自動化が実現し、作業時間を大幅に削減することが可能です。また、プロジェクト管理ツールやコミュニケーションツールを活用することで、情報共有や進捗(しんちょく)管理がスムーズになり業務の停滞や情報の断絶を防ぐことができ、全体の効率が上がります。
さらに原価削減を進めるにあたって、原価を適切に管理することも必要です。原価を「見える化」することで、どこに無駄な費用がかかっているのかを把握でき、改善すべきポイントが明確になります。これにより、原価削減施策を効率的に進められるだけでなく、利益確保に向けた仕組みづくりもしやすくなります。
まとめ
本記事では、売上原価に関する政府の調査データから見える近年の傾向、原価削減の重要性やメリットについて解説しました。
企業の利益確保には、売上拡大だけでなく原価削減が欠かせません。近年、原材料費や人件費の高騰が続く中で、経営基盤を強化するためには原価を抑える取り組みが求められています。原価削減によって利益率を向上させることで、経営の安定性を高めるだけでなく、競争力の向上や人手不足への対応にもつながります。さらに新たな投資機会が生まれるメリットもあります。企業は業務プロセスの見直しやITツールによる業務効率化を通じて原価削減を図り、安定的な経営基盤を構築することが大切です。