中小企業診断士コラム

~在庫そもそも論~ 在庫のはじまり

「在庫削減」や「在庫の適正化」は多くの事業者が掲げる普遍的な経営課題です。本稿ではあらためて在庫のはじまり、在庫の生まれた状況や経緯を見直し、現在、在庫を課題ととらえている事業者の方へチェックリストになれば幸いです。

在庫のはじまり

はじめに

「在庫削減」や「在庫の適正化」は多くの事業者が掲げる普遍的な経営課題です。しばらくすると「先が見えない」との嘆きが聞こえてくるのも普遍的で、「永遠の課題」ともいえるでしょう。ただ、あまりに難しく考えすぎて活動を止めていませんか。「迷ったら基本に立ち返れ」という格言のとおり、初心に戻ってみれば案外と簡単に消せる在庫が見つかるかもしれません。

本稿の趣旨はあらためて在庫のはじまり、在庫の生まれた状況や経緯を思い起こすことにあります。そこから難題解消に向けたヒントを引きだせればと思います。在庫を問題視している経営者やマネージャーの方々(本稿ではこれ以降、みなさまを“事業者”とお呼びします)にとってのチェックリストになれば幸いです。

1.在庫の萌芽

どうして在庫は生まれるのでしょうか。在庫のはじまり、それは事業者の「何としても売りを上げたい」という本能に端を発します。図1をご覧ください。

リードタイムと在庫の関係

とある行為の始まりから終わりまでの経過時間がリードタイムです。よって要求リードタイムとは顧客が待ってくれる期間であり、その長さは商品や製品の魅力を表します。一方の供給リードタイムとは販売者が商品を、生産者が製品を(これ以降、商品と製品をまとめて"品目"と称します)顧客に渡すまでの期間であり、納期といい換えられます。

ここに何としても売りたい品目があるとしましょう。しかし、「要求リードタイム < 供給リードタイム」が現実です。ならば在庫で供給を早めるしかありません。この機を逃してなるものか、そんな事業者の本能、闘志、アニマルスピリッツが在庫を芽吹かせるのです。

2.在庫の出現

一方で事業者は冷めた目も有します。在庫で売ると決めたはいいが、その代償にリスクとコストを背負うのはやっぱりイヤだ、せめて当てが外れたときのダメージを最小化できないか、と考えます。図2は製造業を例にした在庫の持ち方です。

在庫の持ち方

製造業では、在庫をできるだけ材料形態で持ちます。転用可能性を残したいからです。それがダメなら中間品の形で、それでもダメなら製品で持ちます。出荷リードタイムさえ待って貰えないのなら消費の近接地に製品デポを置くしかありません。「なんとしても売るぞ」という事業者の事業意欲が、できるだけ素材に近づけて持つという冷静な判断を経て材料・中間品・製品に姿を変えたもの、それが今そこにある在庫なのです。

3.はじまりへの遡上

この生い立ちを頭に入れておくと、いざその在庫を減らすとなったときに逆利用できます。生まれたときの事情や想いにまでさかのぼることで必要性そのものに切り込めるからです。少なくとも以下の3点を問い直して、在庫する理由に迫りましょう。もしその理由を消せるなら、在庫を根元から刈り取れます。

  • その品目は本当に在庫が必要なのか?
  • その品目をリスクとコストを背負ってまで売りたいのか?
  • 要求リードタイムを延ばそうとしているか?

(1)その品目は本当に在庫が必要なのか?

今一度、在庫が生まれる理由を思い返してください。

  1. 要求リードタイム ≧ 供給リードタイム → 在庫は要らない
  2. 要求リードタイム < 供給リードタイム → 在庫が要る

まずは単純にグルーピングして見通しを良くします。(1)"≧"なのか(2)"<"なのか、品目ごとに要求と供給の両リードタイムを測定し、“≧”組と“<”組とに分けるだけです。その際、感覚に頼るのではなく、過去の出荷実績と生産実績を基にした事実で把握することが望ましいです。

そして(1)“≧”組の中に在庫がないかをチェックします。もしこの段階で見つけたらそれだけで大きな成果です。本来なら持たなくても良い在庫なのになぜだろう? と、いったん落ち着いてこれまでの経緯と、今あえて持つ必要性の有無を勘案します。そのうえでなるべくなくす方向で始末を付けましょう。

(2)その品目をリスクとコストを背負ってまで売りたいのか?

つぎに(2)“<”組に目を通します。これらは在庫が必要な品目、すなわちリスクとコストを背負ってまで売ろうとしている品目です。顔ぶれは想定どおりでしょうか。多すぎないか、メリハリは付いているか、儲(もう)かるのかとさまざまな視角から問いかけます。

こうしたチェックは「事業が見込に頼っている度合い、確実性とのバランス」を見直すことに通じます。図3で考え方を確認してください。

見込駆動と実需駆動

見込駆動は先読みした売りを信じて、売れる前から在庫という投資を始める事業の回し方です。一方の実需駆動は売りが確定してからしか動きません。不確実性の高まる近年、より選好されるのは「ヘタな見込みよりも確実な需要」でしょう。例えば【攻め】少数精鋭の見込駆動品目で新たな市場を開拓し、【守り】安定収益は実需駆動品目で稼ぐという組み合わせが考えられます。

もちろん二つのバランスは個々の会社ごとに違います。ただ、共通して問うべきは「見込みに頼って回している品目はなにか」「それらは勝負の品目だと全社が認識しているか」「見込みどおりに売れているか」です。もしも想定外の事態に陥っている品目や衰退期を迎えた品目、今後のメドが立たない品目、なのに在庫している品目が目に付いたならこの段階でケリを付けておきましょう。一度は売るぞとの熱意を抱いて在庫までした品目です。見切るのは辛く重い決断となりますが、それができるのは生みの親たる事業者だけです。

(3)要求リードタイムを延ばそうとしているか?

最後の問いは「顧客に待ってでも手に入れたいと思わせているか」、すなわち納期延長を目指した活動の進展です。王道は機能や利便性を高め、顧客の価値観に訴えかけることでしょう。営業や商品企画、製品開発をいかに活性化させるかに掛かっています。

売り方の工夫として予約販売も考えられます。この手法は鮮度が命な品目のときになどに有効です。

さらには値下げも「競合より安いのなら」と顧客を待たせる方向に作用します。ただし、実行に際しては慎重を期してください。値下げしても利幅確保が可能、もしくは全社一丸のコストダウン活動が間に合うとの算段を立ててからにしましょう。

こうしてできる限りのカードを揃えて顧客との納期延長交渉に臨みます。「在庫を減らしたいなら納期を延ばせ」とは忘れがち、かつ諦めがちな格言ですが、「いまの社会情勢下なら意外に通るものだよ」との声も聞きます。トライする価値はあるはずです。

(4)そしていよいよ……

残るは「要求リードタイム < 供給リードタイム」かつ「それでも取りに行く」と決めた品目だけです。ここまで来たら腹をくくって在庫リスクの最小化に取り組むしかありません。最も効果的なのは生産性の向上による供給リードタイムの短縮です。強い現場の構築につながる道でもあります。幸いにしてターゲット品目の絞り込みは済んでいます。

一つ一つ、粘り強く対処を重ねて在庫の必要性を潰し、実需駆動の割合を高めて行きましょう。事業者のリーダーシップと現場の呼応力が試されます。

おわりに

「在庫削減」や「在庫の適正化」を目指すなら、在庫がある状況を所与のものとするのではなく、まずは必要性そのものから疑うべきです。在庫のある状況に慣れきっていないかをもう一度見直しをしてください。月日は流れ、在庫してでも売るぞと決めたときから環境や情勢は変わっています。もはや当初の想定とは違う世界だ、なのに惰性で在庫を続けている、そんな品目を見つけましょう。
そして、生みの親たる事業者としての責任を果たしましょう。いざ現場を巻き込んで全社一丸「在庫を減らせ」の号令を発布するのは、そうした地ならしを終えてからでも遅くありません。

この記事の著者

ナレッジ・ビー 代表

髙田 富明

組立型とプロセス型、毛色の違う製造業2社において生産技術と情報システムの畑を歩む。30年の経験を積んだのち、2018年にFA/ライン設計/生産管理/原価計算のフリーランスエンジニアとして独立。中小企業診断士の知見も活かしつつ顧客工場の業績向上活動に伴走中。

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