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【コラム】経営視点での5Sが会社を元気にする
生産現場での利用というイメージが強い5Sだが、企業のありたい姿に向けての活動を支える道具として、経営者の視点で眺めると、5Sが持つ可能性の高さに気づく。
[2018年 6月21日公開]
この記事のポイント
・5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、ありたい姿を達成するための手段である。
・古典的手法と思われている5Sだが、活躍のステージを変えることで、企業のありたい姿実現に向けての強力なツールになる。
5Sは、企業の「ありたい姿」実現に向けた活動を支える強力なツールだ
5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)は、ありたい姿を達成するための手段である。改善の基本としてその効果も十分に認められており、素晴らしい手法であることは間違いない。一方で、生産現場中心の改善手法と考えられている傾向があることも否めない。「5Sはもういいから、もっとレベルの高い改善を行いたい」「5Sは製造業でしょ。うちには関係ない」と話す経営者が少なくない。しかし、視点を変えて5Sを定義し直すと企業経営に応用できることが分かる。では、経営者から見た5Sとはどういったものだろうか。
まず経営者にとって5Sは、企業の持続的成長を実現するために課題解決する手段にほかならない。課題とはありたい姿と現状とのギャップである。現状置かれている状況と経営者が考えている望ましい状態、期待される状態、目標等との間には当然ギャップが生じる。このありたい姿というのは、置かれている立場や役職によっても変わってくる。経営者にとってのありたい姿は、経営理念やビジョン、中長期的な方向性、経営計画が達成された姿だ。そのありたい姿を実現するために、5Sは強力な道具なのである。
視点を変えると5Sの本質が見えてくる
では経営視点で5Sを考えたとき、どのような定義になるだろうか。最初は2S、つまり整理・整頓である。通常の5Sでは「いるものと要らないものを分ける。要らないものは捨てる。要るものはすぐに取り出せる状態にする」と定義されており、どうしても物を取り扱うイメージが強い。経営レベルで考えると「外部環境の変化に応じて、経営資源の配分を見直すこと」であり、これこそまさに「選択と集中」となる。経営視点で2Sを捉えたら整理・整頓とは選択と集中にほかならない。
さらに、2Sに続いて、清掃・清潔・躾がある。通常、「汚れやごみを無くして職場をきれいにし、3Sを維持し、決められたルールを守る」とそれぞれ定義されている。目線を上げて考えてみると、仕組みを作る・行動し、改善する・つまりPDCAをまわすプロセスを通して部下の人材育成につなげていく、といった一連の経営活動と捉えることができる。このように、事業のリソース配分見直しから人材育成まで、戦略的な思考と行動として捉えることができる。目線の高さを変えるだけで経営レベルでも活用できるのが5Sの本質的な考え方であり、経営視点の5Sと通常の5Sは立場の違いによって見る角度の違いだと言える。
古典的な手法も、使い手次第で最新のツールとして威力を発揮する
5Sが徹底されれば人材育成につながる事例を紹介する。つい先日製造業関係者との間でこのような会話があった。相手を仮にAさんとしよう。
筆者「現在取り組んでいる課題を改善したときの効果金額を教えてください。」
Aさん「今期は現場の2Sを中心に取り組むので効果金額は算出できません。」
筆者「…?」
筆者「それでは何のために2Sに取り組むのですか?」
Aさん「…?」
筆者「2Sをやる理由があるはずでしょう?」
Aさん「現場をきれいにするため…ですか?」
Aさんを決して悪者扱いするわけではない。2Sは重要な要素なので、今期重点的に取り組むことは安全面、品質面、生産性の面からも素晴らしいことだ。では、この会話のどこに問題があるのだろうか。そもそも、Aさんが取り組もうとした2Sの本当の「目的」は一体何だったのか。現場をきれいにするため、と回答しているが、本当に「きれいにすること」そのものが今期重点的に取り組む課題なのか。「きれいにすること」は真の目的ではなく、あくまでも「手段」であり、きれいにすることで何か解決したいもっと重要な課題があるはずだ。それでは、Aさんが以下のように回答してきたらどうだろうか?「現在、○○の課題があります。その原因は△△です。それを解決するために、現場をきれいにする必要があります。だから、2Sを「いつまでに」完了させます。そうすれば、問題が発生しなくなり、金額として□□円の効果が出てくるはずです。」
戦略的な5Sの思想が浸透すると、このようなやり取りが可能となる。繰り返すが、何かの課題を解決するための手段が5Sだ。つまり「きれいにすること」は現場で抱えている課題を解決するために必要な手段の一つに過ぎない。ところが、何のために2Sに取り組むのか目的と手段が一致していないため、最初のような会話になってしまった。
また、在庫を例にとって考えてみたい。戦略レベルで在庫管理する際に「適正在庫」という言葉がある。これは、「要らない在庫は減らす、必要な在庫は持つ」という考えだ。低迷している既存事業を縮小し、新規事業を拡大させることで、売上・利益を現状から○%向上させるという経営計画を策定したとしよう。そのために既存顧客に対して保有していた製品・商品の在庫を減らし、新規顧客向けに在庫をいつまでに、どの程度持てば最良の状態となるか、戦略的に考える必要が生じる。その状態がありたい姿となる。一方で現状では、多くの在庫が倉庫スペースを占領している状況であれば、余剰スペースを生み出すという課題が出てくる。そこで2Sを行い在庫の適正化を図っていく。実際の在庫を2Sするのは現場の方々だが、選択と集中の方向性を出し、適正値を設定することは経営者にしかできない。まさしくこれが経営視点の2Sである。
このように、同じツールでも立場や視点を変えることで、全く違うものの見方、考え方が可能となる。特に多くの方が知っている古典的な手段こそ、さまざまな視点で見直しアレンジすることで、新しい活用法が見つかるだろう。
ゲスト紹介
堀口 英太郎 氏 プロフィール
中小企業診断士
堀口 英太郎(ほりぐち えいたろう)
一般社団法人東京都中小企業診断士協会城北支部所属
企業内診断士フォーラム代表幹事
モットーは、「まずはやってみる」
1999年 大学卒業、プラスチックメーカー入社。販売、生産管理を経て、現在は全社のものづくり改善を推進する企画部門に所属。
2012年 中小企業診断士合格、翌年登録。
2018年 4月から、企業に勤務している中小企業診断士の研究会「企業内診断士フォーラム」の代表を務める。
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