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第1回 証拠と記録の発達
いまや、インターネットやスマートフォンなどの社会環境の発展に伴い、グローバルでデジタル情報が簡単に生成され流通される時代になりました。400字詰め原稿用紙や、メカ屋の象徴ドラフター、フィルム写真とか、とんと見かけることが無くなりましたね。
デジタルの時代では、アナログ時代に比して、コピーして一気にグローバルに情報を拡散できるという利便性を手に入れることができました。でも、これは大変なリスクも伴うのですね。もし、不完全な情報だったり、間違った情報だったり、なりすまされた情報だったり、ねつ造された情報だったりしたら……。そしてそれが確認できなかったら……。
このコラムでは、情報セキュリティの3要素CIA(Confidential:機密性、Integrity:完全性、Availability:可用性)のうち、特に、「I」の完全性=本当をいかに担保するか、について書いていこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
第1回は「証拠と記録の発達」について。
とある情報が本当であることを他人にわかってもらうためには、本当であることを証明しなくてはなりません。
「証明」とは、「ある物事や判断の真偽を、証拠をあげてことがらをあきらかにすること」(小学館)とあり、
「証拠」とは、辞典より引用すると
・証明の根拠。事実認定のよりどころ。あかし。証左(広辞苑)
・事実を明らかにする根拠となるもの(小学館)
・物事を証明するしるし。あかし。証左(旺文社)
・事実であることを明らかにするよりどころとなる事や物。(三省堂)
・ある命題(真偽不明の主張や存否不明の事実)の真偽や存否を判断する根拠となるものをいう。(ウィキペディア)
と記載されています。
証明したい内容=「事象」は、いつ(When)、誰が(Who)、何を(What)、どこで(Where)、何故に(Why)、どうやって(How)の5W1H全て、もしくは組み合わせになります。
証明したい・伝えたい「事象」をきちんと残すことが「証拠」ですね。これは大昔から人間のコミュニケーションには欠かせないものでした。
というのも、「事象」は、そのとき、その場所にいないと共有できない情報であり、発生したその瞬間から全て過去の情報となってしまうため、将来のある時点や、その場にいない人に正確に伝えることができないからです。 このため、いろんな「記す・配る・残す」ための技術・文明が発達してきました。
ロゼッタ・ストーン(BC196年)、木簡(BC100~)、蔡倫の製紙法の発明(105年)、グーテンベルクの活版印刷の発明(1445年)、写真の発明(1825年)、エジソンの蓄音機(1877年)……まさに、必要は発明の母であり、ニーズを実現するための物理的な発明の宝庫です。
さらに、ただ記録するだけではのちのち不明確になるため、長期に亘って誤解の無いようにいろいろな工夫がなされ、『記録管理』という文化が発達してきました。
署名、印鑑、花押、封書、割符、新聞、稟議、契約書……これらは、世間のルールであり、技術のみならず運用と併用される生活習慣=文化ですね。
証拠と記録というキーワードで、面白い実話がありますので、紹介します。
◆ガリレオ、土星の環を発見!
“SMAISMRMILMEPOETALEUMIBUNENUGTTAUIRAS”
これは、何と書いてあるのでしょう?
これは、アナグラムという文字の並べ替えで別の内容とする暗号文字列です。
解読すると “Altissimum planetam tergeminum observavi”となり、
英文では、"I have observed the most distant planet to have a triple form"です。
1610年6月にガリレオが、土星が3つの星からできているのを望遠鏡で発見しましたが、確証を得ることができませんでした。このとき、トスカーナ大公国首相のベリザリオ・ヴィンタにだけ平文で知らせ、友人やライバルのケプラーに送付した手紙にこのアナグラム文を記載したのです。
自分が新発見をしたことの証拠を残すために、手紙と郵便を活用した、実に巧妙な公証です。
まんまと、この手紙を受け取ったライバルのケプラーは、解読することに精を出したそうです。
このように、人間は文明の発達と共に、趣向を凝らして『伝える』、『証明する』方法を進化させてきました。
伝え方、本当にいろいろありますね。私もこの仕事に携わって十数年ですが、その間にもどんどん進化を遂げています。
次回は、記録管理のリスクと、その対応方法について書きたいと思います。
2月上旬の更新予定です。
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