第9回 「平均残高」を覚えて銀行と上手くつきあう

銀行が業務を行うにあたって重視する指標に、平均残高、があります。

平均残高とは、一定期間内の、預金残高や融資残高が、その期間内で平均していくらあったか、を表すものです。その計算は次のように行います。

4月~9月の、ある企業の平均預金残高を算出する場合、

4月~9月の日数は183日

4月1日の預金残高:8,946,238円
4月2日の預金残高:8,611,930円
4月3日の預金残高:8,736,093円



9月28日の預金残高:13,219,526円
9月29日の預金残高:13,580,234円
9月30日の預金残高:7,530,912円

183日間の、一日ごと預金残高の単純合計:1,853,670,501円

単純合計1,853,670,501円÷183日=10,129,347円

これが、4月~9月の平均預金残高、となります。

同様に、平均融資残高も計算されます。

■あなたの会社の平均残高を銀行は見ている
銀行はコンピュータで、あなたの会社の、平均預金残高と平均融資残高を算出し、行員はそれをチェックしています。

「3月31日の融資残高を大きくしておきたいから、3月31日をまたいで一時的に融資を受けてほしい。」

と頼まれる企業は多いですが、これは月末融資残高を大きくするものであり、平均融資残高を大きくすることとはなりません。

銀行の決算期は3月31日で、半期決算は9月30日です。銀行は融資残高や預金残高を、ライバルの銀行と競っています。自分の銀行の規模を大きく見せるべく、3月31日と9月30日の融資残高、そして融資を受けると増える預金残高を大きくするために、3月31日と9月30日をまたいで一時的に融資を受けてほしい、と頼まれる企業は多いのです。

ただ銀行としては、月末残高より、銀行が利益を出すにあたって本当に重要なのは平均残高の方です。

銀行は、融資を行うことにより企業から受け取る利息が、一番の収益源です。
そしてその利息は、1日1日の融資残高に対して、銀行は受け取ることができます。

例えば1,000万円を、金利2.0%、4月1日に借り入れ、途中返済はなく、半年後の9月30日に一括返済した場合。その融資により銀行が受け取る利息は次のとおりです。

10,000,000円×2.0%×(183日÷365日)=10万273円

一方、銀行から頼まれ、1,000万円を金利2.0%で、3月31日に借り入れて4月1日に返済する場合、その融資により銀行が受け取る利息は次のとおりです。

10,000,000円×2.0%×(2日÷365日)=1,096円

前者の方が、銀行が受け取る利息は圧倒的に大きいです。こう考えると、月末残高のような一時的な残高より、一定期間における平均残高の指標の方が、銀行が利益を出すために見る指標としてはずっと重要であることが分かります。

■平均融資残高とともに平均預金残高も銀行が重視する理由
銀行は一企業において、平均融資残高とともに平均預金残高を重視します。

それはなぜか。

平均預金残高が大きい企業ほど、実効金利が高くなり、それだけ銀行は儲かるからです。

例えばA社が、平均融資残高5,000万円、融資金利2.0%、平均預金残高0円であれば、A社は5,000万円を金利2.0%で借り入れていたことになります。

しかしB社が、平均融資残高5,000万円、融資金利2.0%、平均預金残高2,500万円であれば、平均融資残高から平均預金残高を引いた、実質平均融資残高2,500万円により、平均融資残高5,000万円・融資金利2.0%で計算された利息分を銀行は受け取っていたことになります。

もう少し分かりやすく説明します。まず実効金利の計算式は次のとおりとなり、

実効金利=(融資額×融資利率-預金額×預金利率)÷(融資額-預金額)

預金金利を0.1%としますと、A社の実効金利は、

(5,000万円×2.0%-0円×0.1%)÷(5,000万円-0円)=2.0%

と、融資金利と全く変わりません。銀行が受け取る融資利息は年間で

5,000万円×2.0%=100万円

銀行はA社には5,000万円の融資を行って、年間で100万円の利息を稼ぐことになります。

一方でB社の実効金利は、

(5,000万円×2.0%-2,500万円×0.1%)÷(5,000万円-2,500万円)=3.9%

となり、銀行は、平均融資残高から平均預金残高を引いた実質平均融資残高2,500万円の融資で、融資で受け取る利息100万円から預金で銀行がB社に支払う利息2.5万円(2,500万円×0.1%)を引いた97.5万円を稼ぐことになります。97.5万円の利息を実質2,500万円の融資で割ると、実効金利が3.9%、という計算になります。

つまりB社は、5,000万円の融資のうち2,500万円は自社の預金を自ら借りているのと変わらないこととなり、しかし銀行にはその分も含めて融資の利息を支払っているため、B社としては損、銀行としては得、ということになります。

このように、銀行は儲けて利益を出すために、一企業において、平均融資残高とともに平均預金残高を高くするよう、注視しているのです。

■銀行は融資先企業に、預金残高を大きくしておいてほしいと言う
あなたの会社が銀行から融資を受けているのなら、銀行から、預金残高を大きく保つようにしておいてほしい、と言われることは多いのではないでしょうか。

その背景には、今回述べたことがあるのです。

そして銀行は、融資を受けるとともに預金残高を大きく保ってくれる企業は銀行を儲けさせてくれる企業として、大事にします。

銀行とつきあいを深めたいのであれば、預金残高を意識し、どこの銀行にいくらの預金を置くのかを常に考えておくと、銀行とのつきあいが上手くなっていくことでしょう。

しかし預金は、普通預金や当座預金にしておき、決して定期預金にしないことです。融資を受けている企業が定期預金を解約しようとすると銀行に止められるからです。何かあった時に備え、いつでも預金を引き出せるようにしておいてください。

次回は6月17日(火)更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

基幹業務システム SMILE V 2nd Edition 会計

高度な分析機能と数多くの管理機能をラインアップし、財務会計から管理会計までを幅広くサポート。スピーディーで正確な伝票処理、柔軟なデータの分析と有効活用を実現します。

この記事の著者

株式会社グラティチュード・トゥーユー 代表取締役

川北 英貴

株式会社グラティチュード・トゥーユー代表取締役。資金繰り改善コンサルタント。1974年、愛知県東海市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、97年、大垣共立銀行入行、主に中小企業向け融資業務を行う。同行を退職後、2004年に株式会社フィナンシャル・インスティチュートを設立。代表を退いた後、2016年、株式会社グラティチュード・トゥーユー設立。中小企業向けに資金繰り改善・経営改善のコンサルティングを行う。著者は『絶対にカネ詰まりを起こさな い!資金繰りの教科書』他、合計11冊。
銀行融資・資金調達の中小企業向けノウハウ【資金繰りプラス】

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

お問い合わせ・ご依頼はこちら

詳細についてはこちらからお問い合わせください。

お電話でのお問い合わせ

0120-220-449

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

ページID:00078011