第126回 研修するなら「まず上司から」が当てはまらなくなっている話

企業研修を実施してきた中で、受講者から「上司から先に研修すべき」という声が上がることがあり、それを肯定する意見も耳にしますが、現場ではそれが必ずしも当てはまらないと思う場面に出会うことが増えています。

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研修するなら「まず上司から」が当てはまらなくなっている話

企業研修は、私自身も過去に数多く受講してきましたが、今は講師をして関わることがほとんどになりました。
研修内容を企画するにあたって、自分の経験を踏まえて受講者にとって意味があるものや、参考になるものが何かを考え、理解しやすく受け入れやすい伝え方を考えます。

これまで多くの企業でさまざまな内容を実施してきましたが、受講した社員から時々上げられる声の中に、「この研修は上司も受けているのか」「できているとは思えない上司から先に研修すべきではないか」というものがあります。
自分自身は研修内容を理解して共感したものの、自分の上司はそれにのっとった行動ができていない、などといった不満や批判を含んだ声と考えることができます。

こんなことから、研修を行う場合には、役職上位の者から順に実施していくことが良いと言われたりします。
確かに自分たちが受けた教えを上司が実践していなかったり、教わった内容と正反対と思われるような行動を取っていたりすれば、そんな文句の一つも言いたくなる気持ちは分かります。

私自身も、社内で研修を受ける側の立場だった頃は、「自分たちよりも上司の方が先ではないか」とよく思っていました。これまでの階層別研修の考え方も、基本的には同じようなことだと思います。この「研修するなら上司から先に」という考え方は、それが必要、好ましいと思われることもありますが、私がいろいろな企業の社内研修をお手伝いする中では、必ずしも当てはまらないと思う場面に出会うことがたびたびあります。

費用対効果の面から研修を考える

そう感じる理由の一つに、特に費用対効果の面から「研修をいかに有効に活用するか」を考える企業が増えてきていることが挙げられます。そして、組織の「上から」「一律に」研修を行うことが効果的ではないと判断しているケースが増えているように感じます。

具体的には、社内研修などを通じて学ばせることで、その内容を身に付けて行動を変革できる余地が大きいのは、年齢が高いベテラン社員よりも若手や中堅層の社員であり、人材投資の効果を高めるには、従来の階層別研修のように全ての社員に均一に実施するよりも、効果が見込める可能性が高い年齢層、職種、選抜人材などを集中的に研修した方が良いという話です。

役職上位者や高年齢者など一定の経験や実績があり、自分なりの価値観が既に確立していて、中には頑固さを増している人たちに対して、研修を通じて行動変容を求めても効果を得るのは難しく、それならばもっと投資効果が高いと思われる若手、中堅層に注力したいということです。
少し冷たい感じはしますが、投資効果、費用対効果という考え方の中ではやむを得ないところかもしれません。

上司の学びは自己啓発が基本

これはある会社での研修に対する考え方と実施方法ですが、受講者の上司に対しては、部下と同じことを学ばせて率先垂範を期待するのではなく、部下が学んでいる内容の概略を伝え、それを否定したり邪魔したりしないようにくぎを刺すことだけをしています。できれば上司には、研修後の部下に対してヒアリングをして、学んできた内容を実践できるようなサポートを求めます。もし上司が同じ内容を学びたいと思ったならば、「それは自分の力でやりなさい」ということだそうで、多少の費用補助をするケースはあっても、上司の学びは自己啓発が基本とのことでした。

私が企業の人材育成の現場に関わる中での実感として、これまでの階層別研修のように、同じ属性の対象者に一律の研修を施すようなやり方は、少しずつ減ってきていますし、これからも増えることはないだろうと思います。「みんな一緒」というものは必要最小限になり、伸びしろが見込める若手社員や幹部候補、一定の条件で選抜された者、評価の上位者など、研修を必要とする者や投資効果が高いと思われる者が受講者に選ばれ、その人たちに対して集中的に育成を実施していくようになるのではないでしょうか。

自ら学ぶべきものを見つけ、常に学ぶ姿勢を持ち続けること

「社内研修なんてつまらないし面倒くさい」「会社での研修なんて時間の無駄」などと言っている人たちも、これからは社内研修を受けたくても受けられなくなる、受けることさえ認められないという時代になるかもしれません。「部下から」でも「上司から」でもなく、「効果が高い人」「向上する人」が優先になるでしょう。

それぞれの人が受け身にならず、自ら学ぶべきものを見つけ、常に学ぶ姿勢を持ち続けて、なおかつそれを実践していくことが必要になっています。

次回は3月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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