第125回 「1人だけの新卒」を心配する会社の話

昨今は見直しが言われる新卒一括採用も、大企業では相変わらず大規模に行われますが、中小企業で大人数の採用は難しく、そんな中でさまざまな事情から「1人だけ」採用することになった新卒者について相談されました。

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「1人だけの新卒」を心配する会社の話

新卒一括採用は日本独自のもので、そもそもは終身雇用が前提の慣行とされていることから、昨今では廃止や見直しの方向性が言われるようになりました。

社会人経験がない新卒者の安定した就業や人材育成、組織階層の積み重ねといった点ではメリットがあるとされる一方、一定の時期を逃してしまうと就職活動が難しくなってしまうことや、過度な年功運用に陥りがちといったデメリットも言われています。今後は徐々に通年採用の方向にシフトしていくことが予想されますが、そうはいってもそこまで一気に変わるものでもなく、今のところは多くの企業で従来どおりの取り組みがされています。
特に大企業ではまだ採用活動の中心であることが多く、各社で数十から数百人規模の新卒者を採用しています。しかし、中小企業の場合はそこまで大人数の採用はできません。

別々の会社から届いた「1人だけ」採用の相談

そんな中で、それぞれ別の二つの会社から、同じような相談がありました。さまざまな事情で「1人だけ」採用することになった新卒者についてです。

1社は、過去に新卒を毎年数人ずつ採用していた実績はあるものの、経営体制が変わるなどの事情があって、ここ数年は新卒採用を行っていませんでしたが、今期たまたま紹介された学生を1人だけ採用することになった会社です。

もう1社は、これまで5人前後の新卒採用をコンスタントにしてきた会社で、今期の業績が厳しいために見送りを考えていたとのことです。しかし、世代の断絶は好ましくないという意見から、結果として新卒を1人だけ採用することにしたそうです。

それぞれの会社ともに、新人にはしっかり研修をして早く一人前に育てたいという意識が強い会社で、これまでは社内でカリキュラムを組み、じっくり時間をかけて細やかな研修、指導をしていたそうです。ただ、今回は対象者が1人だけで、社内では満足な研修体制が組めないということもあり、両社ともに2~3カ月ほどの期間の外部研修を受講させることにしたそうです。

ここでどちらの会社も心配していたのが、新卒社員の自社への帰属意識でした。私には「どう対応すればよいのか……」というアドバイスが求められた訳です。

できるだけ頻繁にコミュニケーションを取ること

私からそれぞれの会社に大事なこととして伝えたのは、心理学でいう「単純接触効果」もしくは「単純接触の原理」といわれるものの話です。

これは「接触回数、接触頻度が多ければ多いほど、個体間の親密さは増す」というもので、人間関係でいえば「顔を合わせたり話したりする回数、頻度が増えるほど、相手に対して好感を持つ」ということです。
この原理を応用してやるべきことは単純で、外部研修を受けている新卒社員の様子をできるだけ見に行く、メールや電話で多くの会話をする、定期的に面談する、その他食事の機会を設けるなどさまざまな方法を駆使して、できるだけ頻繁にコミュニケーションを取ることです。

これはある会社であった事例ですが、配属直後から客先に1人で常駐することとなってしまった新卒社員がおり、その上司は新人に「用事があってもなくても、毎日17時に必ず直接電話連絡をしてくるように」と指示をしました。メールでも、チャットでも、伝言でもなく、必ず直接電話することがルールでした。

この新人は、常駐し始めた当初はそこまで毎日上司と話す話題もないし、いちいち面倒だと思っていたそうですが、それが習慣になってくると「ああ、今日はこの話をしよう」など、その日の話題を考えるようになっていったそうです。それを続けていた中でのふとしたある日、「あの人が自分の上司」「自分の会社はここではない」と、はっきり意識するようになったと言っていました。

上司も約束とはいえ、毎日新人の電話対応をするのは大変だったと思いますが、会社への帰属意識という点で好ましくない業務環境だったにもかかわらず、その新人の気持ちをしっかりつなぎとめていたのは、素晴らしいことだったと思います。

接する回数を増やすことが意外に効果的

「単純接触効果」「単純接触の原理」は、離れたところにいる社員でなくても使えるもので、必ずしも新卒者に限ったものでもありません。信頼関係を作ったりコミュニケーションを円滑にしたりするために、接する回数を増やすというのは単純なことですが意外に効果的です。

世代や価値観が違う、共通の話題がないなどと言って、お互いが接することを何となく避けていると、コミュニケーションが悪くなって、その影響が仕事にも出てきてしまうことがあります。
もしも、自分の身近に今一つ折り合いが良くない上司や部下がいるならば、まずは単純に接する頻度を増やしてみることが、意外に良い方法なのかもしれません。

次回は2月27日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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