第124回 「部下の研修」を上司が邪魔するという話

社内研修を実施するにあたって、内容の企画や効果を高めるための環境作りなど、さまざまな工夫をしますが、中には「上司が部下の研修を邪魔する」などということがあり、それを防ぐための配慮や対応も必要です。

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「部下の研修」を上司が邪魔するという話

人材投資に関する国際比較調査によれば、日本企業はGDP比での人材投資が少なく、しかも年々低下しているという結果があります。また、働き手の社員側も自己啓発や社外学習をしている人の割合が、諸外国に比べて少ないとされています。
「企業は人に投資せず、個人も学ばない」という注釈がついていましたが、教育をはじめとした人材投資は、全体的にまだまだ不足しているといえるのでしょう。

そうはいわれるものの、企業における社内研修は、組織規模を問わず内容や形式もさまざまですが、何らかの形で実施している企業がほとんどではないかと思いますし、最近は社会人大学などの講座に通ったり、何らかの資格取得を目指したり、社外学習や自己啓発に取り組む人は増えている感じがします。
私自身も企業で行う社内研修の講師依頼を受けることがありますが、社員教育や人材育成に熱心な企業は、同じく増えてきているように思います。

社内研修の問題は“強制”という要素が拭えないこと

この社内研修を企画するにあたって、実際に経験がある人は分かると思いますが、実はいろいろ考えなければならないことが多くあり、それなりの難しさがあります。最も大きな問題は、会社として研修したいテーマがあっても、それが対象者全ての興味に合致するとは限らず、どうしても無理やり受講させるという“強制”の部分が出てきてしまうことです。

最近はキャリア意識が高まってきていることもあり、どんな内容の研修であってもわりと肯定的に捉え、積極的に取り組んでくれる人がほとんどになってきましたが、それでも全員が高い意識と興味を持って研修に臨むことは、残念ながら多くはありません。これは“強制”という要素がある限り仕方がないことです。

興味がないことを無理やり学ばせても、それが効果的でないのは当然ですから、研修企画をする中では、できるだけ多くの人が興味を持って受講できるテーマや内容を考え、効果を高めるための環境作りに関してさまざまな工夫をします。

例えば、本人の希望で選べる研修テーマを幾つか用意するカフェテリア型研修などがありますが、私自身がよく行う環境作りの一つとして、受講者の上司とコミュニケーションを取って、研修前後でのフォローを依頼することがあります。しかし、これがなかなか簡単にはいきません。

部下の研修を邪魔する理由

先日、ある会社の役員の方と人材育成に関する話をしている中で、「上司が部下の研修を邪魔する」という話が出てきました。本来であれば、上司には研修の事前事後に、どんな内容だったのかを話題にしてもらったり、持ち帰った内容を実務の中で活用できる場を作ってもらったりといったフォローをしてもらうことが、最も研修効果を高めることができ、研修を主催する側(がわ)としては一番好ましいことです。

そこまでしてくれなくても、ただ普通に気持ちよく、部下を研修に送り出してくれればよいのですが、一部に「そんな研修はムダだ」「受けても意味がない」「業務では役に立たない」などと言って、部下の意欲をなえさせるような上司が実際にいるそうです。

話を聞いた様子から、そういう態度を取る上司には、どうも二つの理由があるように思われました。
一つは上司自身が自己啓発や研修の場を好まず、他の人もみんなそうだと思いこんでいることです。良い研修を経験していないということでは被害者かもしれませんが、研修の良し悪しは受ける人の意識によって左右される要素が多くあります。どんなに良いものでも無駄と思ってしまえば無駄になります。

もう一つは自分が知らない知識やスキルを、部下だけが学ぶことに対する嫉妬や恐れのような感情があることです。自分の方が知識がある、経験がある、情報を持っているなど、部下より上でなければならないという固定観念やプライドがあったり、部下からの意見、指摘、その他下克上を嫌う、恐れるといった感情があったりするようです。
そして、どちらにも共通しているのは、上司自身に何かを学ぼうとする姿勢が極めて少ないということです。

そんな上司からの協力を得るには

この話を聞いた会社では、「上司には部下の研修を邪魔させない教育が必要だ」などと言っていました。
例えば、「部下にこんな研修をする」というあらすじ程度の内容を事前にレクチャーして、嫉妬を薄めたりプライドを汚さないようにしたり、できれば自分でも学ぼうという興味を持ってもらったり、上司の態度によっては本人の意思にかかわらず、指示命令によって強制的に協力させることも社内研修を実施するうえでの準備、環境作りとして必要だということでした。

社内研修に対する批判、苦情、否定的な意見というのは、学ぶ姿勢が少ない人ほど強く主張するように感じることがあります。それが受講する社員の上司であると研修効果を高めるどころか、逆にやらない方がマシなどということになりかねず、どう対応するかは結構問題になります。部下が研修のために業務から外れることを好ましく思わない上司は意外に多く見かけます。

社内研修で効果を得るためには、一筋縄でいかないことがいろいろあります。

次回は1月23日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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