第123回 社会の中でも企業でも、なかなか難しい「敗者復活」の話

今の社会は、敗者復活が難しい環境だといわれ、そのことがさまざまな弊害を生んでいるとされますが、企業の中でもこれと同じことが起こっており、敗者復活ができる環境づくりを考えていく必要があります。

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社会の中でも企業でも、なかなか難しい「敗者復活」の話

あるテレビ番組を見ている中で、「敗者復活」という言葉が耳に残りました。
そこで語られていた内容は、「今の社会は勝つか負けるかのギスギスした社会になっていて、さらに一度負けるとなかなか敗者復活ができないため、それが心の病であったり、人を傷つける犯罪であったり、他人を顧みない風潮の一因になっているのではないか」とのことでした。何となく納得をしながら話を聞いていました。

最近は特に「格差社会」が問題とされ、勝ち組と負け組との差が広がりすぎて、一度うまくいかなくなるとそれを挽回することが難しくなっています。でもそれが自由競争や資本主義という経済体制の本質という気もしますし、解決のためには既得権の排除という問題も絡んで、実行するには多くの困難があります。

人事評価には「格差を生み出すための仕組み」という側面も

この番組の中で言っていた「社会」を「企業」に置き換えてみると、共通していることが幾つか目につきます。
例えば、私が関わることが多い人事制度であれば、「評価」というものが必ずついて回ります。評価する項目を作り、それらを評価する基準を設け、さらにそれぞれが担っている役割を明確に定義するなどして、ある程度の客観性に基づいて評価する仕組みを整えようとしますが、評価自体は「格差を生み出すための仕組み」という側面があります。
これは、どんなに細かい検討を重ねて作り込んだ制度だったとしても、それを運用したからといって100%公平で公正な評価ができるわけではありません。

例えば、プロフェッショナルなスポーツの採点競技では、審判員も同じく経験豊富でプロフェッショナルな人たちですが、その人たちが同じ場所で同じ演技を見たとしても、採点結果がぴったり合うことはありません。それを不公正と言い切ることはできませんし、そもそも何をもって公平、公正というかは、定義することが難しいです。

評価が固定化してしまう傾向がある

また、さまざまな企業で行われている人事評価の結果を見ていると、それぞれの人に対する評価があまり変わらず、固定化している傾向が往々にして見受けられます。
「仕事ができる人とできない人とは、そんなに入れ替わらない」「仕事の能力は急には変わらない」というのはある面では真実だと思いますが、その一方、一度貼られたレッテルがなかなかはがせません。

特に中小企業の場合は、個人間の相性なども絡んで、その人の評価結果や組織内での序列といったものが、いつまでたっても変わらないことがあります。少人数のメンバーで固定化した集団では、現状を変えようとする力がよほど大きく働かない限り、俗にいう下克上や抜てきというものは起こりにくく、序列が固定化するのは、ある程度やむを得ないことなのかもしれません。

また、役職任命のような場面では、昇格、降格、栄転、左遷、その他いろいろありますが、よほどの失敗や責任問題、能力不足といったものがない限り、明らかに外した、降ろしたと見える処遇は避けているケースが多いです。
これには、報酬が減って生活が成り立たなくなってしまうのは好ましくない、やる気をなくしてしまっては困るといった理由はありますが、組織内で一度役職を外したり降格したりすると、再び戻すのが難しいということもあるようです。要は「敗者復活がしにくい」ということです。

「敗者復活」ができる環境作り

これはある会社で聞いた話ですが、システム開発部門の部長が、自身の担当プロジェクトを大失敗させて部長から降格になったそうです。しかし、その後は心機一転させるために管理系の部門に異動し、そこで徐々に実績を認められて部長職に返り咲き、その後もさらに評価を高めて、最終的には執行役員を務めるまでになったそうです。

まさに「敗者復活」といえますが、これは本人の努力だけでなく、周囲がその人を見捨てずに、環境や役割を変えるなど、チャンスを与え続けたということがあります。このように、「敗者復活」は本人の努力だけではなかなか難しいところがあり、それが可能な環境作りや、周りからの後押しが必要です。

人が人を評価する限り、初対面の印象やインパクトが強かった一部の印象に左右されることは、なかなか避けられません。しかし、そのままの評価が固定化してしまうことによって、本当は育つかもしれない可能性の芽を摘んでいることがあります。それは社会の中でも企業においても、あまり好ましいことではありません。
「敗者復活」の環境作りは、簡単にできるものではありませんが、取り組まなければならないテーマと言えるのではないでしょうか。

次回は12月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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