第143回 「権限委譲」を強く求める人と、あえて求めない人の話

うまくできれば生産性向上や効率化、人材育成など、多くの効果が期待できる権限委譲ですが、任される部下の側にはさまざまな意識の違いがあり、実践するにはそれぞれ考慮しなければならない難しさがあります。

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「権限委譲」を強く求める人と、あえて求めない人の話

少し前のこのコラムに、「仕事を任せてくれない」と不満を持つ社員の話を書きましたが、今回もちょっと似た話です。

「権限委譲をする」ということ

「仕事を任せる」とは、言い換えると「権限委譲をする」ということです。あらためて「権限委譲」とは、「管理者が部下に仕事と行動を任せること」をいい、これがうまく行われれば、業務効率や生産性が向上する効果がありますし、任された部下の育成にもつながります。業務の属人化防止の点でも重要です。

理想を言えば、(組織で公式に決められた職務権限以外の)現場での業務執行に関する権限は、その場その場で的確に判断されることが望ましいと考えます。いちいち上司やそのまた上司など、判断を上に委ねるエスカレーションをするよりも時間がかからず、効率的です。
そうであれば、できるだけ多くの権限が委譲されれば良いわけですが、これは組織の上位から末端まで、社長から一般社員まで、同じ状況に遭遇したらみんなが同じ基準で同じ判断ができなければ成り立たず、残念ながらそれはほぼ不可能です。

私が経験してきた中では、多くの会社が仕事を「任せる」「任せない」でどうバランスをとっていくかに悩んでいます。どちらかというと部下に任せることに慎重で、上司が仕事を抱えて権限委譲が進まないケースの方が多いかもしれません。

ある会社で実際にあった事例

これはある会社で実際にあった話ですが、中堅からマネージャークラスの社員数名が、「自社の権限委譲の仕方に問題がある」という問題提起をしてきました。自分たちに適切な権限が与えられないせいで、「仕事がスムーズに進められない」「判断に時間がかかる」「臨機応変な対応ができない」など、さまざまな弊害があるそうです。問題としては確かにありえることで、理解できる部分もあります。

この話を彼らの上司である部門長たちに確認してみると、みんな一様に少し困った表情で、「彼らの言うとおりには任せられない」と言います。
話を聞いてみると、権限委譲を求めている部下たちは、「途中経過の報告や相談がない」「会社として影響が大きいと思われる重要なことでも、自己判断で勝手に進めてしまう」ということが頻繁にあると言います。それが一因となる顧客とのトラブルや作業の手戻り、仕事の優先順位の誤りといったことが発生していて、そのたびに上司がフォローしているそうです。

上司としては途中経過の報告を義務付けたり、上司である自分の判断を仰ぐように指示したりしているそうですが、これが彼らにとっては不満なことで、上司のフォローも「過剰反応」「自分たちが信頼されていない」と受け取っているようです。その結果「権限委譲に問題がある」と言っているのではないかとのことでした。

その後、会社から「権限委譲」を求める社員たちに対して、「上司が“任せよう”と思うだけの信頼が必要で、信頼されるかどうかは日ごろの行動次第」という話をしたものの、あまりピンと来ていないようでした。私からも個別に同様の話をしましたが、やはり、あまり腑(ふ)に落ちていない様子でした。
自分たちで責任を持ってスピーディーに仕事を進めたいという意欲は評価できますので、これからの意識と行動がどう変わっていくかにかかっています。でも、この感じだとまだもう少し時間はかかりそうです。

「権限委譲」の難しさ

権限委譲をするうえでのポイントとして、「誰に何をどこまで任せられるのかを事前に見極めて判断する」ということがあります。中には「みんなに平等に任せる」という人がいますが、必ずしも好ましい権限委譲とはいえません。経験、能力、本人の資質ややる気などは人によってさまざまで、任せる部下の人選はしっかり行う必要があるからです。
私のようなコンサルタントの立場では、上司には「権限委譲を積極的に進めよう」「その分、自分しかできない仕事をしよう」と指導しています。とはいえ、実際に仕事を任せようとしたときには、いろいろ考えなければならないことがあります。

この会社では、任せられない部下が多くの要求をしてきたわけですが、その理由を説明しようとすると、結局多くのダメ出しを伝えることになります。そうなると、部下はさらに不満をためることになりかねません。前向きなニュアンスで伝えて指導する難しさがあります。

一方で、仕事を任せられないことに対して、特に何も思わない人も大勢います。「上司がやってくれるならそれに越したことはない」「責任を持たずに済むならその方が良い」など、自分は指示されたことだけこなしていればよいと考える人もいますし、「どうせ任せてもらえない」などとあきらめて行動しない人もいます。
生産性向上や人材育成を考えれば、こういう人たちにも一定の仕事を任せて、できることを増やしていかなければなりません。しかし、こちらも後ろ向きな人に取り組みを促さなければならない難しさがあります。

うまくできれば効果的な「権限委譲」ですが、任される部下たちの姿勢はいろいろです。任せる側の上司の大変さをあらためて感じます。

次回は8月26日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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