第142回 「社内異動」への考え方で少し気になった話

多くの会社で行われる社内異動。最近はメリット、デメリットでさまざまなとらえ方があり、実施するうえでも配慮が必要ですが、この社内異動に対する社員の意識として、以前から少し気になっていることがあります。

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「社内異動」への考え方で少し気になった話

社内の人事異動は、一般的には4月と10月の前後に多く実施され、今頃はその対象になった人たちが、そろそろ新しい環境に慣れた頃ではないかと思います。
この社内異動について、最近はいろいろな考え方があります。全国規模の転勤や部署異動を当たり前に行う会社がある一方、勤務地限定制度のように会社都合の転勤(転居を伴うような異動)は行わないとする会社があります。社員の中でも転勤を好まない人が増えているといわれる一方で、若いうちだからこそといって地方勤務や海外勤務を希望するような人もいます。それぞれの業種や職種、またその人の立場や役割によって、その必要性やとらえ方はさまざまです。

社内異動にはメリットもデメリットもある

これは少し前のことですが、ある有名企業の経営者が、「社内異動なんかしている余裕はない」と語っている記事を目にしました。世間一般で通用する一定の専門スキルを身に付けようとすれば、社会人人生の限られた時間の中で、関連性のない社内業務をローテーションしているような余裕は持てないという意味のようです。

私自身、この話は確かに一理あるとは思いつつ、社内異動には当然ですがメリットもあります。話に出てきた「専門スキルが積めない」というのは確かにデメリットですが、その一方異なる業務経験を積むことができる、視野や人脈が広がるなど、一般的にいわれるメリットがあります。同じ人が長く同じ部署にとどまらないということは、癒着や不正が起こりにくい土壌につながるということもあります。

一般的にいわれるメリットとして、会社側では「組織内の人員の過不足調整や業務効率化」「さまざまな業務経験を積むことによる人材育成」などが挙げられ、社員個人であれば「マンネリ打破」「新たなスキル習得」と、それに伴う「モチベーションアップ」などが挙がります。
一方デメリットでは、「業務に慣れるまでは生産性低下」「希望しない業務や適性不足の可能性」「専門性の低下」、それに伴う「モチベーションダウン」などが挙げられます。

これは当事者のとらえ方によって、同じやり方がメリットにもデメリットにもなるということで、なおさら個人の状況をよく考えて実施しなければならないことが分かります。結局はこれらメリットとデメリットとのバランスを考えて、効果的に活用していくことが重要ということです。

組織を利用しながら自分のキャリアを作る

この社内異動の話に関連して、以前から少し気になっていることがあります。それは主に大企業に所属している中堅層以上の人たちに自分がやりたい仕事の希望や将来の展望について尋ねても、そのイメージをほとんど持っていない人が結構たくさんいることです。会社からいわれる異動や職種転換に対して、「とにかく精いっぱい、できる限り応えていきたいと考えている」などと言っています。これを愛社精神が旺盛、従順で素直、現状に肯定的などということはできますが、その反面、自分のキャリアを100%会社に委ねてしまっているということもできます。自分の身の上は会社が決めるものだと割り切っていて、そのことにあまり疑問も持っていません。

もちろん、自分のキャリアについて自分なりの危機感を持ち、異動に関する希望を出したり、自分なりに何かを学んだりという人も増えていますが、その一方、会社に在籍し続けることが最優先で、自分の職種や専門性へのこだわりが薄い人も意外に多いと感じることがあります。会社が当たり前のように存在し続けて、そのレールに乗っていればよいと思っているように見えますが、会社が存続しているからといって、自分の仕事も安泰とは限りません。
キャリア意識が希薄な理由の一つには、「今の会社にずっといる、いられる」と思い込んでいるかつての年功序列や終身雇用の名残、弊害もあるのではないかと思っています。

ゼネラリスト人材もスペシャリスト人材も組織としてはどちらも必要ですが、それぞれ相応の専門性があります。スペシャリスト人材では現場の技術や業務スキルにおける専門性であり、こちらはわりと意識されているように思います。しかし、もう一方のゼネラリスト人材では、経営知識、マネジメント、リーダーシップなどが求められる専門性ですが、こちらに対する意識や、それが本当の意味で身に付いている人はまだ少ない感じを受けます。それは社外に出た途端に通用しなくなるゼネラリスト人材が大勢いるからです。

社内異動に関しては、実際に辞令が出れば基本的にそれに従うしかありません。ただ、そんな中でも自分の専門性は何なのか、自分のスキルや経験は他へ行っても通用するのか、そもそも自分のやりたいことは何なのかなど、自分自身のキャリアは常に意識しておくことが必要です。

どんな組織に属していても、自分のキャリアを人任せにするべきではありません。組織を利用しながら自分のキャリアも作っていくくらいの意識があってよいのではないでしょうか。

次回は7月22日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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