第141回 「教えたい」の気持ちが人の成長を妨げることがある話

人材育成に対して「経験を伝えたい」「教えたい」と自分の思いを語る人がいますが、その気持ちが強すぎることから独りよがりに陥って、結果的に相手の成長を阻害してしまうことがあります。

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「教えたい」の気持ちが人の成長を妨げることがある話

私自身は組織に雇用されず、独立して仕事をしている立場ですが、同じような仕事の仕方を希望する人や企業から独立したばかりの人から、仕事に関する相談や意見を求められることがあります。独立を勧めも否定もしませんし、既に独立した人であれば素直にうまく行けば良いなと思います。ただ、その中には例外もあり、「考え方を変えないと難しいのでは」と思う人がいます。

「考え方を変えないと難しい」と思われる人とは

一つは、他人まかせが普通と思っている人です。たぶん会社でもそういう仕事の進め方が多かったのだと思いますが、何でも業者頼みであったり、知人や仲介者など他人を頼ればどうにかなると考えていたりします。会社の看板があって初めて成り立っていた関係なのに自分自身の人脈と勘違いしていたりします。そういう人にはいま一度考え直してみることや、まず自分が主体的に関わることを勧めますが、そう言われたからといって、人はなかなか変われるものではありません。

もう一つは、「自分の経験を伝えたい」「人に教えたい」「それで相手の会社を変えたい」など、自分の思いばかりを語る人です。こういう人に対して、私は「コンサルタントという仕事をするのは考え直した方が良い」と伝えます。仕事に信念を持つことは大切ですが、それが自分の独りよがりになることがあります。そもそも「教えたい」と言っている時点で、クライアントにとっては大きなお世話になることも多いです。

この人たちの共通点は、自分の専門分野に関するこだわりや、組織はこうあるべきという「べき論」の意識が強いことです。自分の中での基準が確立していて、その基準は在籍していた組織環境や、過去の経験とつながっていますが、それが全ての会社に当てはまる訳ではありません。

教えるためには必ず“相手目線”が必要

私が考えるコンサルタント像は、少なくとも「その会社を変えよう」「人を変えよう」などと言って、自ら乗り込んでいく存在ではありません。その会社が成長していくにはどうすることが早道かを相手目線で考えて、そこに自分の知見やノウハウを提供しながら実行することが仕事です。
スポーツのコーチやトレーナーのように相手の体力や技術を見ながら一緒に目標を定め、トレーニングプログラムを一緒に考え、その取り組みをサポートしていきます。全員が同じ目標を目指すことは当然ありません。しかし、「べき論」が強い人は、誰に対しても“自分の理想形”を押し付けて、あくまでそれを目指そうとします。そうやって自分基準に引きずり込んで、結果的に会社の成長を阻害する人を私は今まで何人も見てきました。

これは企業内での人材育成も同じです。「教える」という指導は、一方で「相手の思考を奪う」「考える機会を奪う」といわれ、相手の性格や資質に目を向けない「教える側の独りよがり」の指導は、相手の好奇心や探求心を失わせる原因となることがあります。自分の経験を伝える、教えるためには必ず“相手目線”が必要です。どんな言い方で、どんなタイミングで、何をすれば受け入れてくれるか、どんな施策なら実行できるか、何をどんなプロセスでやれば効果的かなど、相手の様子を知り、それを見極めて働きかけることが「自分の思い」よりもよほど重要です。

本当に人の成長を望むなら、「教えたい」という気持ちが独りよがりになっていないかを常に意識する必要があります。教える側の勝手な思いは、人の成長や育成を妨げることがあります。

次回は6月24日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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