第140回 「みんなそう思っている」と言って叱責したリーダーの話

ある会社のミーティングで、リーダーが一人のメンバーに対して、「みんなそう思っていることを代わりに言った」と叱責していましたが、いかにも総意があるかのような話には注意する必要があります。

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「みんなそう思っている」と言って叱責したリーダーの話

コンサルティングの一環として、定例会議や進捗(しんちょく)会議、その他の社内ミーティングにオブザーバーとして参加させていただくことがあります。コンサルティングセッションや研修などだけでは、どうしても一過性、その場限りとなりがちなため、より本質的な課題解決や改革改善に向けて、その会社の日常業務の中に入って指導やアドバイスなどを行うことが目的です。

このエピソードも、そんな活動である会社の社内ミーティングに、オブザーバー参加していた時のことです。

社内ミーティングでの叱責とその背景

仕事の進捗状況の確認をしている際に、リーダーがあるメンバーのことを、かなり厳しい口調で叱責し始めました。私が見ていた限りでは、特に仕事上の進捗遅れや不手際があったわけでもなく、ごく一般的な話の流れの中から急に始まったため、何が地雷だったのかはよく分かりません。ただ、「態度が良くない」「コミュニケーションが悪い」「協調性がない」といったことを、かなり強い調子でまくし立てています。

そして、リーダーはやり玉に挙がっているメンバーに対して最後に一言、「みんながそう思っていることを、俺が代わりに言ってやっているんだ!」と言います。

私も専門家としてミーティングに同席している立場上、その場では「原因はともかく、会議の場でその言い方は問題がある」とリーダーをたしなめ、後日あらためて話を聞くことにしました。

その後、このリーダーに話を聞いてみると、こんなことを言っていました。

まず、叱責を受けたメンバーは、仕事はそれなりにできるものの、先輩や同僚からするとちょっと生意気に見えるような態度や行動を取ることが、結構頻繁にあるそうです。
リーダー自身はそれほど気にしていなかったそうですが、配下のサブリーダーから「あのメンバーの態度や行動は問題である」「他のメンバーもみんな自分と同じように苦々しく思っている」という話をされ、リーダーにはしっかり指導してほしいと言われたそうです。

そう言われて以降、注意して様子を観察していると、確かにそんな感じに見えなくもありません。ただし、誰かと険悪な関係性は見えませんし、何か明らかなトラブルがあるわけでもありません。
それでもサブリーダーは相変わらず「アイツは問題だ!」と繰り返し言ってきますし、そういう話を何度も聞いていると、「みんなそう思っている」と言われたこともあって、自分の中でも徐々に問題意識が強くなっていったそうです。

そんな流れがあった中で、冒頭のミーティングでの「みんなが思っている」「みんなの代わりに言っている」との発言になったようでした。

「みんな」の評価の実態

この話を他のメンバーたちにも、あえてストレートに聞いてみました。

するとみんな、「あれはそういう背景があったのですね」と言いながら、「確かにそういう部分はあるけど、別にそれほど気にならない」「仕事はちゃんとしていますしね」「別にいいんじゃないですか、ちょっと生意気なところがあるくらいのほうが」などと言い、「みんながそう思っていた」というにはちょっと違う状況です。
さらに、「サブリーダーの○○さんは怒っていましたけどね」「リーダーから尋ねられたときに“そんなところはありますね”とは言いましたが、それほど問題とは思っていませんでした」とも言っていました。

こんなことからすると、どうもサブリーダーが個人的に抱いていた不満が、「みんなそう思っている」との言葉で増幅され、リーダーもそうだと思い込んでしまって、結果的にはちょっとピント外れ感の強い叱責になってしまったのが実態のようでした。

多方面とのコミュニケーションの重要性

単なるコミュニケーション不足といってしまえばそれまでですが、特に人間関係にかかわるような話で、この「みんながそう思っている」というような、いかにも世論や総意を背景にしているかのような言い方には、実は特別な注意が必要です。自分の正当性を高めるためにそう言っているだけで、実際にはそうでないことが多々あるからです。

今回の件でもリーダーは自分なりに情報収集したようですが、“信頼しているナンバー2クラス”のサブリーダーからの話を、わりと鵜呑みにしていたところがありました。

その後、このリーダーとサブリーダーとであらためてコミュニケーションをとり、当該メンバーへの評価や指導方法を確認しあったとのことでした。

こんな噂話に近いことを発端としたトラブルは、仕事上のオフィシャルな場面でも時々起こります。そんな場面に遭遇した時のリーダーは、偏った思い込みに陥らないように、多方面とのコミュニケーションを日頃から意識しておく必要があります。自分自身がそれぞれのメンバーたちと直接話していれば、その手の認識違いは、ある程度回避することができるはずです。

「みんなそう思っている」は、本当にそうなのかという点に注意が必要な言葉だと思います。

次回は5月20日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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