第139回 「仕事を任せてくれない」と不満を持つ社員の話

権限委譲が大切という認識は多くの人に共有されていますが、ある会社で1人の社員から「上司が仕事を任せてくれない」という話があり、上司から話を聞くと「任せたくても任せられない」という理由がありました。

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「仕事を任せてくれない」と不満を持つ社員の話

「権限委譲」という言葉を耳にすることは多いと思います。上司が担っている業務の一部を部下に委ねるマネジメント手法をいい、部下に自律的な行動を促して責任感や主体性を身に着けさせて、最終的には組織の生産性向上を目的とします。部下育成のためには必須の取り組みといえるでしょうし、私もマネージャークラスの人たちには、自分で仕事を抱え込まず、部下にできるだけ権限委譲していくように指導します。

ただ、そうはいっても、実際に権限委譲をしていくことにはそれなりの難しさがあり、それぞれの部下の能力、性格、意識の持ち方などによって対応の仕方は変わります。そこで部下の意識との間にギャップがあると、部下の側は一方的に不満を持ったりすることがあります。

上司と部下との間にある意識のギャップ

これは、ある企業でコンサルティングを進めている中で、1人の社員から出てきた話ですが、その人の上司が「仕事を任せてくれない」「自分に判断させてくれない」「何でも指示される」「権限委譲をしてくれない」と言います。そのせいで自分の成長速度が遅くなってしまっていて、自分のキャリアプランの中で考えている目標が達成できないとのことです。
確かに上司が「自分でやった方が早い」などと考えて、部下への権限委譲が進まないケースはよく見かけることはあります。

この社員からの話を上司に伝えてみたところ、上司はちょっと渋い顔をしながらこんなことを言います。
「指示した仕事を後回しにして、違うことを優先しようとする」「自分の思い込みで、周りの状況を考えないで行動することがある」のだそうです。「行動力があるのは良いが、仕事の優先順位をつける能力が足りない」「全体最適の意識が薄い」という評価で、「信用できないことが多くて、本当は任せたいと思う仕事も任せられない」とのことでした。

最近は、自分自身のスキルアップに対する意識の高い人が増え、「早くいろいろなことを経験したい」「いろいろな仕事をやらせてほしい」という希望を聞くことが増えました。自分のキャリアを自分なりにきちんと考えるのは大事なことですが、その一方で下積み的な仕事を嫌がったり、どう見ても能力不足なのに自己評価が過大だったり、そのことを指摘しても納得せず、一方的に不満を持ったりする人も同じように増えた感じがします。

上司が「任せられない」と判断するのには理由がある

この企業の件で言えば、私は部下の仕事ぶりを日々観察している訳ではありませんので、実態を客観的に見ることはできません。上司が慎重すぎて部下を過小評価したりしているのか、それとも部下の仕事ぶりに問題があるのか、実際のところは分かりません。
ただ、それでも言えることは、部下にその仕事を任せるかどうかを決めるのは上司であり、上司が「任せられない」と判断するには、それなりの理由があるということです。そして、その理由を一言でいってしまえば、その部下は「上司が認める結果を残していない」「上司のニーズに応えていない」ということです。

もしも顧客との取引で、自社に仕事を発注して(任せて)くれなかったからといって、その顧客に不満をいうことはほとんどないはずです。自分たちが顧客のニーズに応えられなかったということを反省し、できることを改善し、新たな提案をして受注につなげる努力をするでしょう。
しかし、相手が上司になった途端に捉え方が変わってしまい、あたかも「自分に仕事を任せない上司が間違っている」という話になってしまいます。「相手のニーズに応えていない」という点では同じなのに、上司に責任転嫁をしています。
これは上司との関係性を少し勘違いしていると思います。上司というのは「相応の結果を見せなければ自分への見返りは得られない存在」であり、自分の身内のように損得抜きで愛情を注いでくれる訳ではありません。

上司の求めるニーズを考え、それに応える行動が重要

仕事を効率的に進めることを考えれば、できるだけ現場に近い人が判断できるような権限委譲が必要で、それは多くのマネージャーが理解しているはずです。その前提があるにもかかわらず、上司が「任せられない」というのは、やはりそれなりの理由があります。上司の意識が偏っていたとしても、まずはその意識を変えなければ、権限委譲は前に進みません。

上司にこびたりゴマをすったりする必要はありませんが、上司のニーズが何かを考え、それに応える行動をすることは、自分のやりたい仕事にたどり着くためには必要なことです。
「仕事を任せてもらえない」ということには、何か必ず理由があります。

次回は4月22日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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