第138回 「できない上司」を支える部下たちへの甘えの話

「仕事ができない上司」であっても、部下は何とか上司を支えようとするとのアンケート結果がありましたが、部下のフォローによって、会社はその上司の問題を知らない、もしくは理解できていないことがあります。

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「できない上司」を支える部下たちへの甘えの話

以前目にした、あるアンケート結果の話です。若手社員の男女各100人に「上司」に対するスタンスについて聞いたところ、「優しいけど仕事のできない上司」と「冷たいけど仕事のできる上司」とのどちらがよいかという質問では、7割近い人が「冷たいけど仕事のできる上司」を選んでいました。
その一方で、「優しいけど仕事のできない上司の部下になってしまった時にどんな接し方をするか?」という質問では、「何とかして上司を支える」との回答が7割を超えており、およそ4人に3人は「支える」と答えていました。
これを「優しい部下」「協力的な部下」が多いとする見方はできますが、もし実際にこういう状況があると、いろいろ困ったことが起こってきます。責任や権限を持つ上司の能力不足による悪影響は、部下の場合よりも圧倒的に大きく、本来ならば一刻も早くその上司を職責から外して、そのポジションを他の人材に任せるべきなのです。しかし、実際にそうなることはあまり多くはありません。

上司の能力不足が問題視されないケース

「代わりの人材がいない」などの理由がよくいわれますが、私が見かけるのは、会社側がその上司に問題がある状況を知らない、もしくは多少の事情は把握していても、そこまで大きな問題と思っていない状況です。結果として特に対策されることもなく、見て見ぬふりをするような状況になっています。
そして、会社が実態を把握できていない最も大きな理由は、その上司の能力不足を、部下たちがある程度カバーしてしまっていることにあります。部門業績がそれなりの結果であったりすれば、上司に問題があったとしても、それがクローズアップされることはありません。もし現場から問題指摘や不満の声があったとしても、あまり深刻に受け止められていません。

私がある顧客先で経験したことですが、複数のメンバーからその部門の上司に関する相談を受けたことがあります。仕事の丸投げ、責任転嫁、忙しいふりなど、まさに典型的な「仕事ができない上司」であるにも関わらず、一見優しく人当たりが柔らかいため、会社の上層部からの受けは良いそうです。上司本人に話しても行動は全く変わらず、より上位の役職者や周囲に自分たちの状況を相談しても、「まぁうまくやってよ」などと言われてあまり取り合ってもらえないそうです。
理由は業績が十分に上がっていて、社内でも優秀とされる部門だからだそうで、部下たちは「業績が下がれば気付いてくれるかもしれないが、そんな無責任なことはできない」と言っていました。

部下たちによる上司のフォローで見逃すこと

社内でお互い助け合って仕事をするのは当然のことだとはいえ、もし結果が良かったとしても、それが上司の力量なのか、それとも部下のおかげなのか、どんな状況から得られたものなのかは中身をよく見極めなければ分かりません。上司がリーダーシップを発揮していたのかもしれませんし、部下がマイナスをカバーして何とか持ち直したのかもしれません。現状が精一杯だったのかもしれませんし、実はもっと伸ばせる余地があったのかもしれません。

上司をフォローしようと考える部下が多いことは、組織内での関係性として悪いことではないです。フォロワーシップやアサーションなど、前向きに上司をフォローする考え方が推奨されたりします。
ただ、この部下たちのフォローに甘えていると、「できない上司」が実際にはどんな状況で何ができないのか、どんな悪影響が出ているのかといったことが見えなくなってしまいます。

「できない上司」という本質的な問題を潜在化させないために

上司を管理するさらに上位の役職者は、現場の細かな状況には介在しないことが多く、「できない上司」からの報告と、結果数字などで状況把握をしていることがほとんどでしょう。しかし、それが偏った情報ということはありえます。
また、上司の能力不足を部下の立場から発言することは、これを上司批判、他責、反抗的態度などと見られる恐れがあるため、簡単に言い出せるものではありません。会社側から部下たちに状況確認しなければ、実態は表に出づらいところがあります。
自分より上には良い顔をして評価されているマネージャーが、部下には横柄な態度をしていることは、私も時々目にします。

「できない上司」を、部下たちがフォローすればするほど、本質的な問題は潜在化していきます。そうならないためには、「できない上司」の仕事ぶりを、上席者や周囲の関係者がしっかり見ている必要があります。
「できない上司」を支えようとする部下たちの行動に会社が甘えていると、本当の課題がどんどん見えづらくなってしまいます。

次回は3月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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