第137回 「不満がない会社」が必ずしも良いとはいえない話

人材の定着促進を目的として社員とのエンゲージメントが重視され、社員からの不満解消を目指す取り組みがいろいろ行われますが、「不満がない会社」が必ずしも良いことばかりとはいえない様子が見受けられます。

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「不満がない会社」が必ずしも良いとはいえない話

今は多くの会社で人手不足の傾向があり、人材の定着を課題に挙げるところが多くなっています。社員とのエンゲージメント(信頼関係、愛着、共感など会社とのつながり)を高める取り組みや、働きやすい職場環境づくりが重視されるようになりました。

労働環境が劣悪な会社を「ブラック企業」と呼ぶのに対して、働くうえでのさまざまな環境や条件が優れた会社を「ホワイト企業」と呼び、その条件に少しでも近づくような取り組みを進める企業も増えています。しかし、会社への不満というのは時代が変わっても何かしら必ずあるもので、どんな取り組みをしたとしても、それらを全て解消することはたぶんできません。同じ会社の人間が集まれば、自分の会社に対するグチや不満が話題になることは普通にあると思います。

「不満が少ないほど業績が良い」ということではない

私がいろいろな会社を見てきた中で、この「会社への不満」の程度や内容が、最終的な業績とつながっていると感じることがあります。ただし、それは必ずしも「不満が少ないほど業績が良い」ということではありません。
実は不満がある会社の方がかえって業績が良い、もしくは伸びているということがあります。その理由として考えられるのは、一見すれば良さそうな「不満がない」という状態が、言い換えると「現状への問題意識がない」ということだからではないかと思っています。現状に満足している状態が、守りの姿勢や改善意欲の低さ、活気のなさにつながっていることが往々にしてあります。

また、会社に対する不満の内容が、直接的な待遇や職場環境に関するものの場合、例えば「給与水準が低い」「残業過多」「休みが取れない」、その他ハードワークにあたるようなことや、設備やシステムがないために非効率な業務を強いられるような環境が見られると、業績的にはマイナスに作用していることが多いように思われます。ただし、そのような状況があっても、「それなりの報酬がある」「自分のスキル向上につながる」「仲間との関係性が良い」などと社員が思っていると、業績向上につながっている場合があります。

この「会社への不満」の見え方で、最も良くないのは「上司が部下に会社の不満を言うこと」と「当事者意識を持たない他責の姿勢」です。こういう会社は「雰囲気が悪くて行動もしない」という点で、問題意識が低い会社よりもさらに質が悪いです。リーダー役がチームの文句を言い出して、それを言いっぱなしにしていては、物事が良い方向に向かうはずがありません。

「会社への不満」を活力に転換するためには

「会社への不満」を活力に転換している会社を見ていると、不満を発信するのは主に部下で、その不満を上司が受けとめ、仮に不満に共感したとしても、それにプラスして前向きな取り組みになるように仕向けています。社員の多くが、ただ会社や周囲を批判して終わらせるのではなく、その不満にどうやって関与するか、自分たちはどうやって行動するかなど、少なくとも当事者意識を持って行動しようとします。中には「会社は当てにならない」とか「うちの部門だけでやろう」とか、反発心からの行動と思われるものもありますが、何もしないよりはよほどマシです。

昨今ではエンゲージメントの重要性が認識され、それ自体は良いことだと思います。しかしこの本質を勘違いして、ただ不満を言われないことだけに腐心していたり、逆に取り組みそのものを「甘やかしだ」などと否定的に捉えたりする様子は、まだまだ見かけることがあります。
「会社への不満」は、ただ取り除けば良いものではありません。不満には「解消が必要なもの」「納得させなければならないもの」「活力に転換するように仕向けるもの」の三つがあり、その中身に合わせて対応しなければなりません。

最近は「会社がホワイトすぎる」と言って辞めていく若手社員がいるといいます。待遇や職場環境は良く、育成体制は整っていて、みんな優しく教えてくれて、いろいろフォローもしてくれ、自分を尊重して大事にしてくれるような素晴らしい会社だそうです。
ただ、社外の友人や仲間の中に、何も整っていない環境の中でもまれながら、自分よりも全然上の立場で自分よりも大きな仕事にかかわっている人たちがいて、それを見ていると自分は「ぬるい環境」の中で成長が遅くなっているのではないかと思い、もっと厳しい環境に身を置くことが必要ではないかと考えるそうです。

「不満がない会社」が実際に存在するとしても、それは必ずしも良いことばかりとは限りません。

次回は2月25日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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