第136回 「希望した社内研修」は本当に効果が上がるのかという話

社内研修にありがちな強制感を薄めて効果を高めるために、「本人が学びたいものを学ばせる」という取り組みがありますが、もし希望を聞いて実施しても、それで確実に効果が高まるとは言い切れません。

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「希望した社内研修」は本当に効果が上がるのかという話

私は人事コンサルタントの仕事の一環として、いろいろな企業の社内研修に講師として関わることがあります。以前、企業の人事部門に在籍していた頃は、研修の企画担当として、また自分が受講者として参加するなど、さまざまな形で社内研修に関わってきました。

社内研修といえば、新卒を受け入れる企業であれば何らかの新人研修を必ず行うでしょうし、それ以外にも各年代、階層に対して、さまざまな内容の研修が実施されていると思います。ただ、思いどおりの成果が上がっているかというと、なかなかそうではないことが多いのではないでしょうか。

「学びたいものを学ばせる」で研修効果は高まる?

この研修効果を高める方法の一つとして、「本人が希望した学びたいものを学ばせる」というものがあります。これは私自身が講師や受講者として研修に関わるときにも感じることで、例えば自分の意志で、自分の休日を使い、なおかつ費用も自己負担で実施されるような講座では、受講者がとても熱心で積極的に取り組むものです。しかし、社内研修のように指示されて義務的に受講している人が多い研修では、ただ時間が過ぎるのを待っているかのように非常に温度感が低いこともあります。

こんなことから、多くの企業で社内研修を企画している人たちは、学びたいものや必要な知識、スキルが何かを現場に問い合わせて希望を出してもらったり、カフェテリア方式でカリキュラムを本人に選ばせたりといった取り組みをしています。「自分の意志で学ぶ」「学びたいものを学ばせる」という形をとって、研修効果を高めたいということでは同じ趣旨でしょう。しかし、研修内容の希望を聞いたり本人に選ばせたりすることで、研修効果がそれまでより大きく向上するかといえば、現実的にそこまでの効果は期待できません。

以前のことですが、あるIT企業で現場の若手社員に向けて研修内容の希望を聞いたところ、「プログラミング言語研修」などと返ってきたことがありました。会社としては「それくらいは必要な人が自分で学ぶべきもの」と思っていましたが、社員たちがそれを「学びたい」と希望するのは否定しようがありませんし、希望を聞いたのにそれが通らないとなると、かえって不満につながったりします。しかし、希望が通ったからといって、全員が積極的に学ぶ保証はありません。

また、部門長やマネージャークラスの人たちに研修内容の希望を尋ねると、「マネジメント」「マインド」「リーダーシップ」などと言われることが多いです。しかし、これはあくまで「上司が部下にやらせたいこと」で、受講する「本人たちの希望」ではありません。上司の中には自分のことを棚に上げているような人もいるため、それを見ている部下たちは「上司への研修が先では?」などと不満を持ったりします。
さらに「カフェテリア方式の研修」も、限られた選択肢の中から選ばせていること自体「学びたいもの」からズレますし、一定の受講義務が課されることも多く、これも「自分の意志で」とはなりません。

研修効果が得られない一番の原因とは

こうやって見ていくと、会社が行う社内研修には、必ずどこかに強制があります。「自分の意志で学ぶ」という形を掲げる取り組み自体は否定しませんが、社内研修には学校での必修科目のように知識やスキル、マインドなど、「社員であれば最低限身につけていなければならない」というものが必ずあります。それは興味があろうとなかろうと、本人の意志とは関係なく学んで身につけなければなりません。

最近は「本人が学びたいもの」を重視しすぎて、必修と選択との区別があいまいになっていることが多々あります。選択科目で希望を聞くのは良いですが、必修科目は本人に意志に関わらず、必ず身につけてもらわなければなりませんし、強制であっても一定の効果を得なければなりません。

研修効果が得られない一番の原因は、「学んだことを実務に生かしていない、生かす場がない」ということです。そうなってしまう理由は、会社や上司がその環境を作っていないことや、本人に生かす意志がないこと、さらに研修内容自体が実務からかけ離れていることなどさまざまですが、その部分を整えていかなければ、研修効果はなかなか高まりません。
社内研修は「実施した後」こそが大事だと思います。

次回は1月28日(火)の更新予定です。

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この記事の著者

ユニティ・サポート 代表

小笠原 隆夫

IT業界の企業人事出身の人事コンサルタント。 2007年に独立し、以降システム開発のSE経験と豊富な人事実務経験を背景に、社風や一体感など組織が持っているムードを的確に捉えることを得意とし、自律・自発・自責の切り口で、組織風土を見据えた人事制度作り、採用活動支援、人材育成、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務を専門的に支援するなど、人事や組織の課題解決、改善に向けたコンサルティングを様々な規模の企業に対して行っている。
上から目線のコンサルティングではなく、パートナー、サポーターとして、顧客と協働することを信条とする。
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