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第11回 資料から見る自発的・継続的な改善実施企業
今回は前回を少し深堀して自発的で継続的な改善について書いてみたいと思います。
資料から見る自発的・継続的な改善実施企業
自発的で継続的な改善の例
前回は、自発的な改善を支える「OTRS」と、継続的な取り組みを支えるネットワークが重要な要素であると書きました。
「OTRS」は、動画と分析情報、改善提案を一元管理できますので改善に有効ですとお伝えしましたが、そもそも企業での改善提案活動はどのくらい行われているのでしょうか。
事例と資料をもとに改善提案がどのように、どのくらい行われているかを見てみましょう。
トヨタ自動車の例
同社では、トヨタ自動車75年史というサイト(注1)を公開されておりその中で
「創意くふう提案件数・提案資格者一人当たり提案件数」が公開されています。(注2)
それによると、平成23年は457,342件の提案があり、提案資格者1人当たり提案件数は7.67件です。
ちなみに、この活動は自主活動であり、提案者の自発的な提案であることが特徴です。
この制度を詳しく研究されている論文「課業思考と改善活動(杉浦氏)」(注3)(名古屋大学紀要-201008)から参考部分を引用します。
創意くふう提案制度は、本来の業務をより効果的にするために行われており、
- 作業方法と機械工具の改善
- 材料と消耗品の節減
- 事務能力 の向上・管理方式の確立
- 作業環境の改善・危険災害の防止
- 自動車の性能向上・製品の精度向上
という創意工夫を加える対象となっている 5項目をチェックし、それに基づき従業員が提案を行う。
創意工夫の定義を定めている点がポイントであると思います。
また、提案後の社内プロセスについても参考部分がありましたので引用します。
従業員からの提案は、以下のようなトヨタ自身の評価基準、すなわち、
- 実施の効果(経営への貢献度)
- 実施の可能性
- 適用範囲
- 他の職場・工程への影響
- 継続性
- 具体性
- 創造性
- 努力度
- 職務減点(職務に密接に関係するほど減点数が多い)
によってランクづけられる。 そのランクによって賞金額が決められ、賞金は提案した従業員に現金で支給される。従業員から出された提案は、直属の上司(工長または係長、一般にいう職長クラス)により即日審査され、分科会に集められる。集められた提案のうち、優秀なものは上級の審査にかけられる。この審査は、上述の評価基準に沿って行われる。
これらの例から、自発的で継続的な改善には、定義がポイントであることが分かります。
資生堂の例
また、トヨタ自動車に学んだ企業の一つとして資生堂があります。
作るものが大きく違う両社ですが、資生堂はトヨタの改善提案のマネではなく、トヨタのカイゼンが継続される点を学んで、自社の制度を作ったといわれています。
同社のCSR資料(注4)より同社が行っている提案制度について引用します。
2006年6月より「知恵椿提案制度」を推進しており、これまでに集まった提案はすでに24万件を超えました。
この制度は、社員自らが工夫・改善した結果を提案し、それを評価する仕組みであり、高い評価を得た提案は社長をはじめとした役員に対して提案者が直接プレゼンテーションし評価・表彰されるほか、継続して積極的な提案活動を実践した個人や事業所についても表彰されます。(注5)
この取り組みを続けることにより、社員一人ひとりの意識や行動力を高め、小さなことでも自主的に改善・実行できる企業風土を実現するとともに、お互いを思いやる気持ちを根付かせることをめざしています。
また水平展開が可能な提案については、全社的にその取り組みを広げることにより、お客様づくりや業務の効率化に役立てています。
経営者層と従業員とでズレのない認識が持てることと、評価の制度がポイントだと思います。
また会員431社を対象にした2015年度の調査資料(注6)(『創意とくふう』2016年11月号記載 日本HR協会)によると1人当たり改善・提案件数のTop5は
1位……194.5件/人 三菱重工業 総合研究所(高砂)
2位……133.0件/人 宇部興産 堺工場
3位……105.0件/人 三菱電機 静岡製作所
4位……100.8件/人 日本冶金工業 大江山製造所
5位……100.5件/人 トピー工業 神奈川製造所
との結果が出ています。
すごいですね。
また、同資料の総合集計から気になるものをピックアップすると
改善・提案件数:5,578,218件
改善件数:3,445,289件
経済効果額:67,062,333千円
一人当たり提案件数:15.3件
改善一件当たり経済効果額:428,990円
改善一件当たり奨金額:5,293円
との集計がでています。
数字で見ると、改めて改善活動のすごさが分かります。
筆者は、これらの調査対象に含まれている複数の会社に訪問する機会がありますので、現場の作業担当、現場管理者、技術員、マネージャー層のそれぞれに改善を自発的に、継続するポイントをお聞きしました。
全ての層の方からの回答で共通していたことは
- 第一優先は「安全」である。
- 標準を基準として、改善案がある。
- 標準は現場観測から作られる。(バーチャルではない)
ということでした。
特に意外だったのが3の標準は現場観測から作られるという点でした。
昨今、3DCADの普及やバーチャル設計、バーチャル製造シミュレーションが進んでおり、クライアント様の中でも複数の会社がバーチャルものづくりに取り組んでいます。
それなのに、現場観測が標準を作るのに重要なのは、「結局、本当にできていることを基準にしないとアカンよ。(大手家電メーカー技術者)」とのこと。
本当にできている(現実)情報にやりたいこと(提案)をするから、軸がぶれず検討できるが、仮想‐提案の関係だと、提案が最適なのか検証ができないとのご意見でした。
そう考えると全ては、現状把握から始まっています。
現場で何が起こっているか? どうすべきか?
この疑問への答えは、現場を知る一人ひとりが持っているものであり、改めて、「OTRS」はその部分をお手伝いさせていただいていると感じています。
今回紹介したケースを参考に、皆様の現場改善が進むことを願っています。
引用(2017年2月16日現在)
注2:
トヨタ自動車75年史サイト 3. 新生トヨタとTQCの広がり
注4:
資生堂CSRウェブサイト バックナンバー 2010年度版 日本語版;PDF[806KB]
注5:一部、筆者による加筆
注6:『創意とくふう』2016年11月号 (日本HR協会)
次回は3月9日(木)更新予定です。