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第90回 アナタコとスマホが切り開く、次世代の運行管理
前回のコラムでは、「ドライバーマイレージ」というテーマを通じて、運送業におけるドライバーの評価基準について考察しました。さて、今回は視点を変えて、アナタコとスマホを活用したハイブリッド型の運行管理についてお話ししていこうと思います。
アナタコとスマホが切り開く、次世代の運行管理
前回のコラムでは、「ドライバーマイレージ」というテーマを通じて、運送業におけるドライバーの評価基準について考察しました。特に大型車やけん引車のドライバーにおいては、その技術の信頼性は“経験”によって裏付けられます。そして、その経験は走行距離という明確な数値で示すことができます。これは飛行機のパイロットが総飛行時間でスキルを測られるのと非常によく似ています。つまり、「どの会社に在籍していたか」だけではなく、「これまでにどれだけの距離を走行してきたか」という視点を加えることで、採用側・応募側の双方にとって納得感のあるマッチングが可能になるのではないでしょうか。
さて、今回は視点を変えて、アナタコとスマートフォンを活用したハイブリッド型の運行管理についてお話ししていこうと思います。
スマホを使ったハイブリッド運行管理
運行管理の現場が、今静かに大きな変革の時を迎えています。その主役となるのが「アナタコ(アナログタコグラフ)」と「スマホ(スマートフォン)」という、意外な組み合わせです。長年にわたって日本の物流を支えてきたアナタコは、シンプルで堅固、電波やシステム障害の影響を受けにくいという特長があります。一方で、紙の記録やドライバーごとの手書き対応といった「アナログならでは」の手間も多く、デジタル化が進む現代では「時代遅れ」と見られがちでした。
しかし、そこにスマートフォンという日常ツールが加わることで、アナタコの弱点を補い、むしろ“次世代の運行管理”へと進化させる動きが出てきています。
デジタコに替わるのではなく、補完するスマホ活用
アナタコは、チャート紙に走行速度・時間を記録するという極めてアナログな仕組みである一方、機器コストが低く、月額費用もかからず、故障リスクも少ないという利点があります。これを完全にデジタコに置き換えるには、1台あたり10万円単位の設備投資と、社内教育が必要です。
それに対し、多くの運送現場で導入が進んでいるのが以下のような仕組みです。
- スマートフォンで記録した運転日報・点呼・体調報告などをアプリ上で記録・提出
- アナタコの記録紙は従来どおり紙で保管・チェックするが、記録内容を日報とひも付けて一元管理(カメラで撮っておくなど)
- スマホのGPSデータを活用し、走行ルートや停車位置を記録
- 管理者側はWeb画面で運行記録・報告書を確認し、法令対応(Gマーク、点呼記録)をクラウド上で整理
重要なのは、アナタコ本体の仕組みに過度に依存せず、スマートフォンで「運転の文脈情報」を補完するという点です。
導入事例:地方中堅運送業(車両数20台)
東海地方のある中堅運送会社では、アナタコを全車両で使い続けつつ、ドライバーにスマートフォンを配布し、次のような運用に切り替えました。
- ドライバーが出勤時にスマホで点呼チェックイン、アルコールチェック結果も撮影して送信
- 運転後、日報はスマホアプリで入力し、運行記録のメモ(荷待ち時間、渋滞、ヒヤリハットなど)も記録
- アナタコ記録紙は運行管理者が回収して管理するが、それに加えてスマホ上の行動記録で運行実態を可視化
この仕組みによって、紙だけでは見えにくかったドライバーの状況や運行の背景がスマホの記録で把握できるようになり、また、点呼簿のデジタル化、ヒヤリハットのリアルタイム共有、安全指導の迅速化といった副次的な効果も大きかったといいます。
全車両デジタコへ入れ替えか、ハイブリッドか
デジタコの普及が進む一方で、「アナタコでできることは多い」という認識も広がりつつあります。以下は、現場がアナタコ+スマホというハイブリッド方式を採用する主な理由です。
- 車両の買い替えタイミングや台数にばらつきがあり、一斉導入が難しい
- デジタコ対応の整備や点検にもコスト・時間がかかる
- ドライバーのITリテラシーに差があり、スマホなら日常的に使っているためスムーズに受け入れやすい
- 導入補助金が出るとはいえ、初期費用を抑えながら段階的に運用を改善したいというニーズが強い
なにはともあれ、近い将来デジタコが義務化されたとして、かつ補助金が出たとしても高い買い物には変わらないという率直な感想があるようです。
スマホでつなぐ「紙の限界」と「現場の知恵」
デジタル化とは、必ずしも最新機器を全て導入することではありません。今あるものを生かしながら、「見えなかった情報を『見える化』し、判断を早くする」ことが目的です。アナタコとスマホとの組み合わせは、ローコストで実現できる現実的な次世代運行管理の一つの形であるのではないかと思います。
次回は4月25日(金)更新予定です。