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第89回 運送業のドライバーの評価基準|ドライバーマイレージ
前回のコラムでは、「分割休息の取得方法 2024年改正ルール」というテーマでお話ししました。今回は、よくご相談をいただく「ドライバーの評価基準」に関連して、ドライバーマイレージという考え方の導入についてお話ししたいと思います。
運送業のドライバーの評価基準|ドライバーマイレージ
前回のコラムでは、「分割休息の取得方法 2024年改正ルール」というテーマでお話ししました。分割休息の取得は、運行管理の中でも比較的高度なテクニックの一つであり、ドライバー自身が運行管理の仕組みを理解していないと、なかなか活用しづらいものです。
休息と休憩との違い、分割休息を2回に分けて取得する場合や、3回に分ける場合に必要となる合計休息時間など、ドライバー・運行管理者ともに学ぶべきことは多くあります。本来であれば、休息時間はまとめて9時間以上確保できることが望ましいため、できるだけ分割休息を前提とした運行は避けるようにとお伝えしています。とはいえ、分割休息を活用しなければ成り立たない運行があるのも事実です。そのような場合には、運行指示書やスマートフォンアプリなどを使って、ドライバーに的確かつ丁寧に指示を出すことが重要です。
さて今回は、よくご相談をいただく「ドライバーの評価基準」に関連して、ドライバーマイレージという考え方の導入についてお話ししたいと思います。
ドライバーの評価基準の切り口
ドライバーを評価する際には、単に事故歴や遅延の有無といった一面的な指標だけでは不十分です。安全運転、燃費、勤務態度、顧客対応など、複数の視点から多角的に評価することが求められます。そのためには、「何を」「どうやって」評価するのかという“評価の切り口”が重要です。
中でも、どの車格のトラック(2t・4t・大型など)を運転できるかというスキルの幅や、走行距離、すなわち「どれだけ走ってきたか」という経験値の可視化は、実務に直結する重要な指標となります。こうした客観的なデータを用いた多面的な評価基準が、納得感のある制度につながっていきます。
毎日測れるものが望ましいドライバーの評価項目
評価制度を形骸化させないためには、毎日継続して測定・記録できる項目を設定することが理想的です。例えば、急ブレーキ回数やアイドリング時間、日報の提出状況などは、日常的に自動取得または簡単に記録できるため、継続的な評価に適しています。
中でも、車格ごとの走行距離は、運転スキルと実績の両方を示すことができる、実用的かつ継続的に測れる評価指標といえるでしょう。デジタル化により、どの車格でどれだけ走行したかというデータが蓄積される時代です。この数値を基に評価制度を構築すれば、より客観的で納得感のある仕組みが実現できます。
経験を測れる評価基準
新たに入社したドライバーを評価する際、事故歴や保有免許の種類、人柄など、企業ごとにさまざまな評価軸があるかと思います。中でも、ドライバーとしての経験値を数値で可視化するならば、総走行距離が最も有効な指標となるでしょう。いわば「どれだけハンドルを握ってきたか」を表す数字です。
航空業界では「総飛行時間」という概念があり、パイロットの経験値を測る重要な基準とされています。例えば、事業用操縦士の受験資格には以下のような条件があります。
- 総飛行時間200時間以上
- うち100時間以上が機長としての飛行
- 540km以上の飛行を含む20時間以上の野外飛行
- 夜間飛行5時間以上(5回の離着陸を含む)
- 計器飛行10時間以上
さらにベテランパイロットでは、生涯で1万7,000時間以上飛行している例もあります。運送業においても、こうした「経験の量」を距離という尺度で測ることで、同様の評価制度が作れるのではないでしょうか。これを「ドライバーマイレージ」と名付けて制度化するのも一つの方法です。
今後は会社間で持ち回れるようになるかもしれないドライバーマイレージ
今後、ドライバーの採用や評価において、これまでにどれだけのマイレージを積み上げてきたかが大きな判断材料になるかもしれません。例えば、「これまでに90万kmのマイレージがあります(300km × 25日 × 12カ月 × 10年)」という実績が数値として証明できれば、企業間でのドライバーの信頼性・実力が可視化されます。
「どこの会社にいたか」だけではなく、「どれだけ走ったか」という経験そのものを示すことができれば、採用側・応募側ともに納得感のあるマッチングが可能になります。将来的には、ドライバーマイレージを共通フォーマットで管理・証明できる仕組みが業界に浸透するかもしれません。
次回は4月11日(金)更新予定です。