第9回 「棄てられない」組織はイノベーションできない

「我々も、新しいことにどんどん挑戦していかないと」

どの会社でも頻繁に聞かれる言葉です。新規事業をいかに創っていくか、イノベーションをどのように行っていくか・・・様々な方法論や理論が語られます。

経営会議でも毎年「本年度の新しい取り組み」といったテーマが語られ、それについての綿密な資料も作成されています。しかし、多くの会社で思うように実行できず、翌年の同じ場で「なぜうまく進められなかったか」といった分析結果報告がなされることも多いのではないでしょうか。

ドラッカーは、イノベーションについてこう言っています。

「イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。イノベーションを行う組織は、昨日を守るために時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいものに解放できる。」 (ドラッカー)

私は、このドラッカーの考え方に、ドラッカー経営大学院で学んでいた際にも再三触れました。
しかし、最も効果を実感したのは、卒業後、ベンチャー企業で新規事業に取り組んだ時です。

業務用ソフトウェアを開発・販売していた会社でしたが、このビジネスは恐ろしく変化が速い。
投資をして開発・製造した製品が、わずか1年後には半分のコストで他社から提供されるようになったり、海外の安価なシステムエンジニアの台頭で、価格競争がますます激しくなったり。

私は、留学中に出会った、上記のドラッカーの言葉を思い出し、「旧(ふる)いもので効果があまり出ないものを思い切って棄て、新しいことに自分と社員の時間を使わなければいけないと」と感じていました。
そして社長とも相談の上、それまで自分が統括していたマーケティング関連業務や組織から離れ、1、2名の少数で事業開発の仕事に取り組みました。
結果、紆余曲折はあったものの、その新事業は多くの仲間の協力を得て30名前後の組織にまで成長することができました。

「棄てて、新しいことに集中する」ためには
1.時間
2.ミッション/仕事
3.管理・事務系の作業
の三点で「絞り」をきかせなければいけないと思います。

現代組織の多く、そして現代の企業人の多くが、これらについて「足りない」よりも「多くのことをやり過ぎ」ということが殆どだと思います。
旧くて、もはや以前ほど価値を生まないものを棄てきれずに、やり続けているのではないでしょうか。

「こういう新しいことをしよう」という話が会社から出て、表面的には「頑張ります」と言ったとしても、旧来の業務やその他事務作業が減っていない状況の中で、労働時間も増え、成果も上がりにくい。
「やってはいる」けれど、何か新しいことに「集中」できていないので、自分のエネルギーも、メンバーのエネルギーも新しいものの方に向かわない。
競争の激しい時代、相当にエネルギーと思いが詰まった製品やサービスでないと、決して顧客に選ばれないはずです。

アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズ氏が90年代後半に社長に復帰した際のアップルに愕然(がくぜん)としたと言います。
本来アップルが販売しなくてもよい商品が山のように製造され、価格競争に巻き込まれ、在庫の山も積上り、キャッシュフローに深刻な影響を与えていたのです。
ジョブズ氏が、「我々が必要とするのはこ・れ・だ・け・だ!」と言ってシンプルな4象限の図に1テーマずつ書き込んだというのは有名な話です。
その数少ない事業テーマの一つが、Mac PCであり、iPhoneであり、iPod やiPadです。やや極端な例ですが、練り込まれた事業構想に向け、社員のエネルギーや創造性が一気に向けられた結果が大きなヒットにつながったと思います。

イノベーションも、リーダーシップも、「新しいことをする」人が偉いように思われがちですが、それは違います。
まず「棄てる、やめることを決められる」人が真に創造性あるリーダーです。

皆さんのまわりでも、本当に部下から頼られているリーダーというのは、勇気を持って「これをするのは止めて、こっちに集中しよう」と言える人ではないでしょうか。

「イノベーション」をあまりに難しく考えず、日本の「禅」的思想にもならい、「まずは旧いものを思いきってすててみる」ことから始めてみてはいかがでしょうか。

次回は2012年9月6日(木)の更新予定です。

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