第90回 コミュニケーションの質を高めるための「哲学」を考える

今回は、ビジネス社会や企業活動、個々人の働き方をつかさどっている「ビジネスOS」として、少なからず影響しているであろう「生きる姿勢・その人なりの哲学」の中でも重要な二つのエッセンスに関して考えてみたいと思います。

コミュニケーションの質を高めるための「哲学」を考える

皆さん、こんにちは!

高齢者の運転による自動車事故、川崎無差別殺傷事件といった、いかんともし難い痛ましい出来事が続く一方で、札幌での虐待事件の背景にある警察と児童相談所の意見の食い違いをはじめ、国会でのかみ合わない議論やその行く末に対する関心の低さといった、「お互いが他人事」という意識のまん延が招いているかのような現象は枚挙に暇がありません。

いろいろな問題が絡み合って一筋縄ではいかないことは十分に理解したうえで、ではありますが、大きな意味で、「臭い物にふたをする」「見て見ぬふりをする」「強者に忖度(そんたく)する」といった、日本人の思考性や社会風土が生んでいる悲劇のように感じます。

一方で、東京で行われていた国際交流会議「アジアの未来」でマレーシア・マハティール首相が米中の覇権争いに対し「世界にとって決して良いことではない。2頭の大きな象に踏みつけられるのは草だ」と発言しました。また、同じマレーシアの女性環境大臣の「世界のゴミ捨て場にはならない。先進国の言いなりにはならない」と発言された姿も、マハティール首相と同様に断固とした、凛(りん)としたスタンスで印象的でした。

今回は、ビジネス社会や企業活動、個々人の働き方をつかさどっている「ビジネスOS」として、少なからず影響しているであろう「生きる姿勢・その人なりの哲学」の中でも重要な二つのエッセンスに関して考えてみたいと思います。

「哲学」に対する脚光

最近、あらためて「哲学」に対して注目が集まっているような気がします。
「哲学」と聞くと、一般的には縁遠く、取っ付きにくい印象を持つことが多いかと思いますが、昨年の『君たちはどう生きるか』(刊:岩波文庫 著:吉野源三郎)の大ヒットなどもその兆しだったのかもしれません。

そして、
・『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』(刊:ディスカヴァー・トゥエンティワン 著:村山昇)
・『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』(刊:幻冬舎新書 著:梶谷真司)
といった書籍が話題となり、日本経済新聞で5月に特集されていた『キセキの学校』
キセキの高校(日本経済新聞)
では、前述の梶谷氏がサポートした「哲学対話」が、大きな効果を生んでいるとしていましたし、週刊ダイヤモンド2019年6月8日号では「仕事に必須の思考ツール 使える哲学」という特集が組まれていました。

なぜ、今「哲学」なのか

AI時代の到来を迎えた現代に、なぜ「哲学」なのか。

元ボストン コンサルティング グループの日本代表だった堀紘一氏は、以下のコラムの中でこう論じておられます。

AI時代だからこそ哲学を学ぶ

  • AIとロボットが全盛の時代になるほど、その対極にある人間について勉強して、よく理解している人が重宝がられる。
  • 哲学とは、人間の核心に迫ろうとする学問である。哲学を学ぶと人間理解が深まり、考える力が格段に上がる。

『AI時代だからこそ哲学を学ぶ』(ダイヤモンド・オンラインより引用)

また、前述「考えるとはどういうことか」の中で、梶谷氏は以下のように指摘しておられます。

「考えること」は、一見当たり前のようでいて、実はそうではない。日常生活の中では、ほとんどできていないと言っていいほど難しい。むしろそれができないこと「考えないこと」が当たり前になっていて、そうだとは自覚されていないのだ。
~中略~
学校のことを思い出してほしい。私たちが教わるのは、個々の場面で必要なルールを身につけ、その中で決められたことに適切な答えを出すことだけである。
~中略~
そこに「自己との対話」はなく、まして「他者との対話」など望むべくもない。ただ出された指示に従うこと、教えられたことを教えられた通りに行うことが重視される。それに習熟することで、「よく考えなさい!」と言われた時に期待されている「正解」が出せるのだ。
それはむしろ「考えること」とは反対のこと「考えないようにすること」ですらある。

『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』(刊:幻冬舎新書 著:梶谷真司 p14~15 引用抜粋)

つまり、テクノロジーが発達していくからこそ、根源的な人間の思考性やコミュニケーションの質が問われるようになってきているといえるのではないでしょうか。

可謬(かびゅう)主義と弁証法的思考

今回は「根源的な人間の思考性やコミュニケーションの質」を高めるうえで、大きな要素になるであろう二つをご紹介させていただきます。

可謬(かびゅう)主義/カール・ポパー

「知識についてのあらゆる主張は、原理的には誤りうる」という哲学上の学説とされています。平たく言えば「自分の考えが全てではない・必ずしも正解ではない・もっとほかの考え方はないのか」と常に自身の思考に拘泥せず、良い意味で批判的に、謙虚にほかの考えを受け入れていくということでしょうか。

ヘーゲルの弁証法的思考

前述の週刊ダイヤモンドでは

「あるテーマ(正)に対して、それに反対するテーマ(反)があって、その両者を統合すると、より良いものになる(合)(週刊ダイヤモンド2019年6月8日号「仕事に必須の思考ツール 使える哲学」p.54 より引用抜粋) 」

としています。「対立の統一」、「正―反―合」「テーゼ―アンチテーゼ―ジンテーゼ」といわれるように、一見して対立・矛盾している二つの事象を両立させる第三の道を生み出そうという思考ということでしょうか。

つまり、「コミュニケーションの質を高める」うえで、自身の考えや意見に拘泥せずに「もっとほかの考えはないか」という姿勢で、ほかの人の意見も受容しながら、自分の思考の枠を広げていく。そのうえで、一見対立しているように見える出来事を両立できる発想を生み出そうとすることで、異なる立場の人の意見・考えを統合・昇華させていくということではないかと思います。

ビジネス・経営における活用

まだ小難しい話に聞こえるかもしれませんが、ビジネスや経営、上司―部下の関係、さらには社内の部署間での問題、および対外的なお客様との折衝、といったあらゆるビジネスシーンにおいて、この「コミュニケーションの質を高める」というテーマは切り離せないものなのではないかと思います。

「VUCAの時代 」と言われ、正解が何かは誰にも分からない時代であり、さらには価値観の多様化がますます加速していく現代だからこそ、新たな着眼着想が求められ、無から有を生むためには製品開発・サービス開発、そして顧客との関係性も含めて、いったん過去からの習慣や常識を手放し(アンラーニング)たうえで、思考する組織風土を形成していかなければならないのではないかと思います。

このような視点で、あらためて「哲学」を考えてみることも必要なのではないでしょうか。

前述の堀紘一氏のコラムは以下のように締めくくられています。

未来志向で肯定的な答えを導き出すのは、世の中に存在していなかった最適解を見つけるクリエイティブな作業である。誰も考えなかったことを考えなくてはならない。
しかも「~すればいい」という正解は、1つに絞れないのが普通である。
そこで活きてくるのが、哲学を通して学んだ考える力であり、洞察力なのである。

混沌(こんとん)としたVUCAの時代だからこそ、根源的な「哲学的思考」を通じて、未来を開けるのかもしれません。

今後も、よろしくお願いいたします。

次回は7月17日(水)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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